きょうかちゃんと黒猫とカラスの雨宿り
地面を叩くような豪雨。
跳ね上がった水飛沫は霧となり、町外れのバス停を妖しげに包み込んでいた。
黒い野良猫は、じっとベンチの上でお座りしている。激し過ぎる雨が和らぐのを待っていたのだ。
黒猫が細目で外の景色を眺めていると、忙しなく一羽のカラスが落ちてきた。
「危ねぇ! 死ぬところだった!」
バタバタとバス停の屋根下へ転がり込むと羽をプルプル震わせて水を弾き飛ばす。
「なぁ。こっちにかかってんだけど」
黒猫は怒りマークを浮立たせて話す。
「まぁそういうこともある。災難だったな」
「てめぇのせいだろうが」
黒猫とカラスは、距離を置いてベンチに座った。
「んで、この人間は何してんの」
カラスが指す人間は、後ろのベンチに体育座りでちょこんと座っている。髪は長く、顔は伏せて見えない。
「知らねーよ。人間の子供だ。なんか喧嘩でもして落ち込んでんじゃねーの?」
興味なさそうに黒猫は視線を動かすことなく返す。
「ほぇ、落ち込むか。相変わらず暇だな人間は。俺にもそんな暇が欲しいぜ」
「全くだな。さっさと次の飯探しにいかなきゃ、生きていけねーよ」
雨は変わらず激しさを持続し、屋根や木々の葉を打ち付けて回る。
「健康に生まれて、食いもんもあって、家があってよ。それ以上に何かいるのか? その他のことなんて、まじおまけみたいなもんだよな。どうだっていい。」
表情変えず黒猫は話す。
「そうさなぁ。俺もこの間、車に潰されそうになるわ、巣は壊されてるわ、ガキに石投げられるわ。散々だぜ。まぁもう慣れたけどな」
「どれもこれも、食いもんが家にあれば、そんなことしなくていいんだよな」
「そゆこと。あぁー。羽が濡れて当分飛べねぇぜ」
黒猫はカラスの方に首を向けた。
「もし、生きるのに困らない食いもんと家が手に入ったらお前、何する?」
「うおおお! え? どうしよっかなぁ! んーーーあのーーー! ・・・なにすりゃいいんだ」
「食って寝て、食って寝てを繰り返して、さぞ幸せだろうなぁ」
「そうだな! そりゃあいいや! ・・・でもそれ、何もしてなくないか?」
「確かに」
黒猫の思考は止まった。
「まぁお嬢ちゃん、くだらねぇことで落ち込む必要ないって言いたいのさ、この猫は。死にゃしねーんだから」
「別にそんなこと言ってないだろ」
女の子は顔を上げると、少し微笑んだ。




