第二章 転生と困惑
目を覚ますと、見慣れない豪華な部屋にいた。いや、見慣れないというのは正確ではない。これは『愛しの執事様』の神崎翔太郎の部屋だった。
「え……嘘でしょ?」
鏡を見ると、そこには黒髪で整った顔立ちの青年が映っていた。間違いなく神崎翔太郎だった。私は、ゲームの攻略対象キャラクターに転生してしまったのだ。
「翔太郎!お嬢様がお呼びです!」
ドアの向こうから聞こえる声に、私は慌てて返事をした。
「は、はい!すぐに伺います!」
声まで翔太郎のものになっている。混乱しながらも、私は執事服に身を包み、お嬢様の部屋へ向かった。
部屋に入ると、そこには篠宮瑠璃子が座っていた。ゲーム通りの美しい外見だったが、なぜか困ったような表情を浮かべている。
「あの……翔太郎、今日のお茶会の準備は……」
「え?あ、はい、もちろん準備いたします」
私は慌てて答えたが、実際には何を準備すればいいのかわからなかった。するとその時、ドアから完璧な所作で桜庭咲良が現れた。
「失礼いたします。お茶会の準備につきましては、既に整えさせていただきました」
咲良の完璧な挨拶に、瑠璃子の顔がぱっと明るくなった。
「咲良、ありがとう!やっぱり貴女がいると安心だわ」
その光景を見て、私の中で何かが芽生えた。ゲーム知識を活かして、瑠璃子を輝かせよう。そうすれば、完璧な咲良に負けない魅力を引き出せるはずだ。
しかし、翔太郎の体になった私は、なぜか素直になれなかった。
「べ、別にお嬢様のためにやろうと思ったわけじゃありませんが……今度は私が準備させていただきます」
なぜこんな言い方になってしまうのだろう。心の中では瑠璃子を応援したいのに、口から出る言葉はツンデレそのものだった。