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米を求めて

 そこに鎮座していたのは、一台の炊飯器だった。漆黒のボディ、そして内蓋のあたりが、まるでマグマのように赤熱し、周囲の空間を陽炎のように歪ませている。


「見つけたナリ…!三つ目、『超高熱の炊飯器』!」


 勝利を確信し、我はその炊飯器に手を伸ばした。

 その瞬間。


「――ッッッッ!!!!」


 声にならない絶叫。触れる寸前、指先を凄まじい熱が焼き、一瞬で炭化させた。ジジジ、と音を立てて指は再生していくが、尋常な熱さではない。これはただ熱いだけじゃない…それ自体が、触れるものすべてを拒絶する熱のバリアを張っているのだ。


『熱解析完了。対象の表面温度は摂氏800度を超えている。直接の接触は不可能だ』

「どうやってこれを運べというんだにゃん…!素手じゃ無理だナリ!」


 目の前に三つ目のお宝がありながら、手出しができない。新たな難問を前に、我は再生したばかりの拳を握りしめた。



「クソッ!どうしろって言うんだにゃん!熱くて触れないものをどうやって運ぶと!?」


 我は頭を抱えた。何か、何か方法があるはずだ。耐熱グローブは?いや、このフロアにあるような家庭用の代物では、触れた瞬間に燃え尽きるだろう。水をかける?いや、800度の鉄塊に水をかければ大規模な水蒸気爆発が起きて我ごと吹き飛ぶナリ!


 考えれば考えるほど、解決策は見つからず、目の前の炊飯器よりも自分の頭の方が沸騰してしまいそうだった。


「ああもう!忌々しい!」

 苛立ちのあまり、近くにあった電子ケトルのディスプレイを蹴り飛ばす。その時、肩の上で静観していたKTZW先輩のドローンから、冷静な声がした。


『前川、頭を冷やせ。怒鳴っても炊飯器の温度は下がらないぞ』

「うるさいナリ!先輩にこの我の気持ちがわかってたまるか!」

『いや、わかる。だからこそ提案がある』


 ドローンがゆっくりと炊飯器に近づき、その表面をスキャンしながら言った。


『発想の転換が必要だな。我々はそれを『運ぶ』ことばかり考えている。だが、そもそもそれは炊飯器だ。ならば、その本来の役目を果たさせてみてはどうだろうか』


「…はぁ?」

 我は耳を疑った。こいつは何を言っているんだ?

「役目を果たさせる?米でも炊けとでも言うのかにゃん、先輩!こんな状況で!」


 我の怒気を含んだ問いに、KTZW先輩はさも当然のように答えた。


『そうだ。この『超高熱の炊飯器』は、異常なまでの熱エネルギーを内に溜め込み、暴走している状態と推測できる。その溜め込んだエネルギーを、本来の目的である『炊飯』によって消費させれば、温度は正常値に戻る可能性がある』

「なっ…」

『最高の釜で、最高の米を、有り余るほどの火力で炊き上げる。その『仕事』を全うさせれば、あるいは満足して熱を収めるかもしれん。試してみる価値はある』


 その突拍子もない提案に、我は開いた口が塞がらなかった。伝説の白物家電に、仕事をさせて満足させる?まるで生き物のような扱いじゃないか。だが、他に方法がないのも事実…。


「…米。米なんてどこにあるんだにゃん、こんなところに」


 我はぐったりと肩を落とす。すると、KTZW先輩のドローンが店のフロアマップらしきものを解析し、即座に別の可能性を提示した。


『待て。地下のスーパーマーケットは一つの手だが、リスクが高い。だが、この建物の8階はレストラン街だ。特に、高級和食店や寿司屋なら、業務用の良質な米をストックしている可能性が極めて高い』

「はちかい…レストラン街だとぉ?」

『ああ。4階のここからなら、地下に潜るより近い。どうする?』


 その提案に、我の口元が少しだけ緩んだ。


「レストラン街!いいじゃないかナリ!どうせなら寿司でも食って行きたい気分だにゃん!」

『今はそんな場合ではないだろう』

「わかってるナリ!行くぞ、先輩!目指すは8階、グルメフロアだにゃん!」

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