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ただ一つの吸引力

「ならば…力づくで道を開けるまでだにゃん!」


 我の叫びを合図に、戦闘の火蓋は切って落とされた。

「『て、目標を駆逐する…!』」

 アニメのセリフを呟きながら、一番近くにいたガリガリの男が三脚を振りかぶって襲いかかってくる。


「軟弱者がァ!」


 その動きは素人そのもの。我は軽々と攻撃をいなし、カウンターでバールを腹に叩き込む。男は「ぐえっ」という情けない悲鳴を上げて昏倒した。

「フン、所詮は運動不足のオタク…この我の敵ではないナリ!」


 立て続けに襲い来る数人を薙ぎ倒し、我は一瞬、勝利を確信した。個々の戦闘力は、オッパイザウルスどころか、運動部の女子中学生にも劣るだろう。


 だが、甘かった。


 我の慢心を見透かしたかのように、奴らは波となって押し寄せてきた。一人倒しても、その隙間を埋めるように二人、三人と湧いてくる。スキルもパワーもない。だが、ただひたすらに、我という獲物に向かって手を伸ばし、掴みかかってくる。


「うおおお、鬱陶しい!離れろクソが!我の服に触るな!これは悠木碧さんのライブ限定Tシャツだぞにゃん!」


 再生能力で傷はすぐに塞がるが、精神がすり減っていく。四方八方を狂人に囲まれ、じわじわと身動きが取れなくなっていく閉塞感。


『前川、数が多い。まともに相手をするな。目的は炊飯器の確保だ』

 ドローンが閃光を放ち、一瞬だけ奴らの動きを止める。その隙に我は数歩後退するが、すぐに包囲網は再構築される。キリがない!


『熱源まで残り30メートル。突破するぞ』

「それができれば苦労はしないナリ!」


 KTZW先輩の冷静な声が、逆に我の焦りを煽る。炊飯器が放つ異常な熱波が、奴らをさらに興奮させているようだった。もはや、奴らの目は崇拝する神を守る狂信者のそれだ。


 このままではジリ貧だ。何か…何か、この状況を打開する一手は…!

 その時、我の家電量販店員としての知識と経験が、閃きとなって天から降ってきた。


 視線の先、掃除機コーナーに鎮座する、最新型のコードレススティッククリーナーの群れ。


 そうだ、アレだ!


「KTZW先輩!聞こえるかナリ!?」

『なんだ』

「あそこに見える掃除機の充電ドック!まだ店の非常用電源が生きているなら、通電しているはずだ!ドローンのマニピュレーターで、一番吸引力の強いモデルの電源を最大出力でONにしろにゃん!」

『…?何を企んでいるかは知らんが、了解した』


 我の意図を訝しみながらも、KTZW先輩は即座に行動に移す。ドローンが奴らの頭上をかすめ、掃除機コーナーへと飛んでいく。


「フフフ…見せてやるナリ。吸引力の変わらない、ただ一つの戦い方というものを!」


 我はバールを構え直し、反撃の時を待った。



 ドローンのマニピュレーターが器用に充電ドックに収まっていたスティッククリーナーのトリガーを引いた、その瞬間。


 ギュオオオオオオオオオオン!!!


 フロア全体に、戦闘機のエンジン音にも似た凄まじい吸引音が轟いた。最新型のデジタルモーターが叩き出す、まさに暴力的なまでの吸引力。


「さあ、お掃除の時間だにゃん!」


 我はその掃除機をひったくると、狂気のオタクどもにそのノズルを向けた。だが、狙うは奴らの体ではない。我はもっと、残酷で、効果的な一点を知っていた。

 彼らが命よりも大事に抱きしめている――グッズだ!


「貴様らのグッズごと、根こそぎ吸い尽くしてやるナリィ!」


 ノズルが、一人の男が大事そうに抱えていたフィギュアの箱に迫る。箱を保護している薄いビニールが、バリバリと音を立てて吸い込まれていく!


「あああああ!俺のッ!俺のアクリルスタンドがああああ!」


 男は絶叫し、我からフィギュアを守ろうと必死に抱え込む。さらに我は、別の女が持っていたアイドルのサイン入りブロマイドの束に狙いを定める。数枚がひらひらと宙を舞い、瞬く間にノズルへと吸い込まれていった。


「いやあああああああ!!」


 阿鼻叫喚。

 統率を失ったオタクたちは、もはや我に見向きもしない。我先にと自分のグッズを守ろうと、あるいは他人のグッズを盾にしようと、仲間内で醜い争いを始めた。完璧に統制が崩壊したナリ!


『見事な作戦だ、前川。奴らの関心を逸らしたな。今だ、突破しろ!』


 KTZW先輩の指示が飛ぶ。

「フハハハハ!思い知ったか、これが現代の神隠しだにゃん!」


 我は高笑いを上げながら、混乱の渦の中心を突っ切る。邪魔する者はもういない。そしてついに、フロアの最奥、異常な熱気を放つその発生源へとたどり着いた。

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