AKIBAへ……
運転席に乗り込むと、ルーフの上でホバリングするドローンからKTZW先輩の声がした。
『お前のカーナビの情報をハッキングして共有させてもらった。第三の目標はヨドバシカメラAkibaに眠る、『超高熱の炊飯器』だ。怪獣の被害状況を考慮して最短ルートを再計算した。これで行け』
「Akiba…!我が愛する聖地に、こんな形で凱旋することになるとは…!」
スマホの画面が示す残り時間は『4時間55分』。もう一刻の猶予もない。
「了解ナリ、先輩!全速力で突っ込むにゃん!」
我はアクセルを床まで踏み込んだ。最強のドローンを味方につけ、我々のトラックは次なる目的地、秋葉原へと向けて、再び死のハイウェイを爆走していくのであった。
池袋から秋葉原へ。中央通りを爆走するトラックの車内は、先ほどまでの死闘が嘘のように静まり返っていた。時折、瓦礫を乗り越える衝撃で荷台の家電がガタンと音を立てるだけだ。
我はハンドルを握りながら、ちらりとルーフの上を見やる。そこにいる相棒、KTZW先輩のドローンが、まるで守護神のように我々の進む先を照らしてくれている。その存在が、ささくれだった我の心を少しだけ落ち着かせていた。
その静寂を破ったのは、やはりKTZW先輩だった。
『…前川』
「なんだにゃん、先輩。ルートに問題でもあったかナリ?」
『いや、そうじゃない。ただ…』
スピーカーからの声が、わずかにためらうような間を置いた。
『お前らしくないな、と思ってな』
「…はあ?何が言いたいんだにゃん、藪から棒に」
我の言葉に、先輩は淡々と続けた。
『いつもなら、世界の危機だなんだと言われても「知るか、我がフィギュアが無事ならそれでいい」と嘯くのがお前だろう。それがどうした風の吹き回しだ?お前が他人のためにここまで必死になるなど…実にらしくない』
図星だった。その言葉は、我自身が一番感じていたことだ。普段の我なら、真っ先に自分の安全と趣味を優先する。他人のために危険を冒すなど、愚の骨頂だと切り捨てていたはずだ。
「……うるさいナリ!」
我は、心の奥を見透かされたような気がして、思わず叫んでいた。
「勘違いするな!我は別に他人のためにやってるんじゃないにゃん!これは…そう!これは我が個人的なリベンジマッチだナリ!あのクソ忌々しいフカにゃん先輩を、この手で叩き起こして、日頃の恨みを込めて一発殴る!そのついでに怪獣が倒されるだけだにゃん!断じて、人助けなどという殊勝な行いではないナリ!」
早口でまくし立てる我に、KTZW先輩は呆れたように、しかしどこか面白がるように言った。
『…そうか。まあ、理由はどうあれ、お前がやるべきことは変わらん。それでいい』
その言葉に、我はぐうの音も出なかった。結局、この先輩には何もかもお見通しなのだ。
そんなやり取りをしているうちに、トラックは万世橋を渡り、電気街のネオン(の残骸)が我々を迎えた。聖地、秋葉原。しかし、その姿は変わり果てていた。フィギュアショップのショーウィンドウは砕け散り、路上には無数のゲームソフトのパッケージが散乱している。メイドカフェの看板は無残に折れ曲がり、我の心を深く抉った。
「我の…我の愛したアキバが…!キンタマキめ…!絶対に許さんナリ…!」
怒りに燃える我の目の前に、ひときわ巨大な建物が姿を現す。ヨドバシカメラAkiba。幸い、建物自体に大きな損傷はないようだ。
『前川、気を引き締めろ。ここだ』
トラックを駅前のロータリーに隠し、我は運転席を飛び降りる。KTZW先輩のドローンが、静かに我の肩の上へと舞い降りた。
「ああ、わかってるナリ。三つ目のお宝、いただいてやろうじゃないか…!」
我々は、静まり返った家電の城塞へと、決意を新たに足を踏み入れた。




