KTZW先輩
「クソッ…!このままじゃ吹き飛ばされてミンチにされるナリ…!」
柱にしがみつき、暴風に耐えるので精一杯の我。体重を乗せて踏ん張るが、体はジリジリと浮き上がり、もはやこれまでかと思われた、その時だった。
フワリ、と。
我の体を叩きつけていた猛烈な風が、ピタリと止んだ。いや、違う。風は変わらず吹き荒れている。だが、まるで透明な壁に阻まれるかのように、我の周囲だけを避けて流れていくのだ。
「な、なんだにゃん…!?」
何が起こったのか理解できず、呆然と周囲を見渡す。すると、自分の体の周りを、陽炎のように揺らめく薄い膜が球状に覆っていることに気がついた。
「バリア…だと…?」
その異常な現象の正体を探ろうと顔を上げた我の目に、店の高い天井付近に静止する一つの物体が飛び込んできた。
球体だ。バスケットボールほどの大きさの、黒く滑らかな球体が、音もなく宙に浮いている。ドローンか?
その時、我の耳に届いたのは、紛れもなくあの男の声だった。
『――前川、聞こえるか。相変わらず無茶ばかりしているようだな』
球体ドローンに搭載されたスピーカーから、ノイズ混じりに響く、呆れたような、それでいて常に冷静な声。
「その声は…!まさか…!」
我が唯一、全幅の信頼を置く男。
「KTZW先輩ッ!?どうしてここにいるんだにゃん!?というか、この膜は一体なんなんだナリ!?」
我は叫んだ。驚きと、安堵と、そして「なぜもっと早く来ない!」という若干の憤りを込めて。
『その膜は光学バリア。米軍が試作しているものをハッキングして少し借りてきた。お前が好きそうなガジェットだろう?』
ドローンから、こともなげな返事が返ってくる。
「ハッキング!?相変わらず無茶苦茶だにゃん、先輩は!でも、助かったナリ…!」
『礼は後でいい。それより、話は聞かせてもらったぞ。フカにゃんとかいう先輩を解放するんだろう?』
声だけの登場だというのに、その安心感は絶大だった。もう一人ではない。
『まずはそのうるさい洗濯機をどうにかするぞ。手を貸す』
KTZW先輩の力強い言葉に、我は大きく頷いた。
「ああ!やってやるにゃん!」
光学バリアに守られながら、我は再び『疾風の洗濯機』と対峙する。最強の助っ人を得て、反撃の狼煙は上がったのだ。
『前川、あの洗濯機のドラム回転軸、その一点にエネルギーが集中しているのが解析できた。そこを叩けば、強制的に機能を停止させられるはずだ』
ドローンから聞こえるKTZW先輩の冷静な分析に、我は叫び返した。
「言うのは簡単だにゃん!この暴風の中、どうやって軸に近づけって言うんだナリ!?」
『案ずるな。今からドローンで風向きを一時的にこじ開ける。3秒だけ、風のない道ができるはずだ。それに合わせろ』
「さ、3秒!?」
『お前ならできるだろう』
その言葉に、カチンときた。だが同時に、フツフツと闘志が湧き上がる。そうだ、KTZW先輩がそう言うなら、やるしかないナリ!
我は床に転がっていた工具箱から、一番頑丈そうな鉄製のバールを手に取った。
『――来るぞ!3、2、1…今だ!』
その声と同時に、球体ドローンが目にも留まらぬ速さで洗濯機の側面へと回り込み、何かを射出した。瞬間、暴風の壁に亀裂が走り、洗濯機へと至る一本の道が、わずかな時間だけ開かれる!
「うおおおおおおおにゃあああん!」
我はその一瞬を見逃さなかった。床を蹴り、風の回廊を駆け抜ける。弓道で鍛えた体幹と集中力が、我を一直線に目標へと導く。そして、剥き出しになったドラム回転軸のど真ん中に、渾身の力を込めてバールを叩き込んだ!
ガッッッッッッッッッッ!!!
金属が砕ける甲高い悲鳴と共に、洗濯機のドラムは急激に回転を落とし、やがて完全に沈黙した。あれほど荒れ狂っていた暴風も、嘘のように止んだ。
「はぁ…はぁ…!我とKTZW先輩のコンビにかかれば、生意気な洗濯機など、ただの鉄の箱だにゃん…!」
『感心している暇はないぞ、前川。時間が惜しい。すぐに運び出せ』
先輩に急かされ、我は再びプロの顔に戻る。暴走の止まった『疾風の洗濯機』を台車に乗せ、ドローンが照らすライトを頼りに、トラックの荷台へと運び込んだ。『極冷却の冷蔵庫』の隣に、二つ目の伝説の白物家電が鎮座する。KTZW




