疾風の洗濯機
運転席に飛び乗り、再び荒々しくエンジンを始動させる。カーナビが次の目的地を指し示していた。
「次は…『疾風の洗濯機』が眠る、コジマ×ビックカメラ池袋東口店…!少し距離があるナリ…!」
アクセルを踏み込む。瓦礫が散乱する死の街へと、我が駆るトラックは再び走り出した。
「待ってろよ、残り六つの白物家電…そして忌々しいフカにゃん先輩!この我が、必ずや貴様を解放(そして一発殴る)しに行くからにゃん!」
荒廃した国道をひた走るトラックのエンジン音だけが、静まり返った世界に虚しく響いていた。
「クソッ、道がめちゃくちゃだにゃん…!」
相模原から池袋へ。地図上では単純な道のりも、今の東京では死の迷宮と化していた。首都高速は至る所で寸断され、一般道は乗り捨てられた車と瓦礫で埋まっている。その惨状は、郊外の比ではなかったナリ。
新宿の上空を通過した時、我は息を呑んだ。天を突くはずの摩天楼が、根元からへし折られた野菜スティックのように無残な姿を晒していた。遠く、霞む視線の先に、巨大な影が動いているのが見える。キンタマキだ。奴が歩くたびに、ビルが崩れ、地が揺れる。
「うわ…あのビル、我が昔ゲーミングPCのローンを組んだ銀行じゃないかナリ…。ローン、チャラになったりしないかにゃん…?」
不謹慎な思考が頭をよぎった、その時だった。
ゴオオオオオオッ!
キンタマキが放った咆哮の衝撃波が、ソニックブームとなって我がトラックを襲った。車体が大きく揺れ、窓ガラスがミシミシと悲鳴を上げる。慌ててビルの影にトラックを隠し、やり過ごす。
「あのクソ怪獣…!咆哮だけでこの威力…!KTZW先輩、もっと頑丈なトラックを用意してほしかったナリ…!」
悪態をつきながらも、アクセルを踏む足は緩めない。スマホが示す残り時間は、すでに『5時間31分』。焦りが募る。
命からがら池袋にたどり着くと、そこもまた地獄だった。東口の象徴であるはずの巨大な商業ビルは壁面が大きく崩落し、「コジマ×ビックカメラ」の看板が半分ちぎれてぶら下がっている。
「派手にやられてるにゃん…」
幸い、入り口は瓦礫で塞がれていなかった。トラックを路肩に隠し、我は警戒しながら店内へと足を踏み入れる。中は相模原店以上に荒れ果てていた。衝撃でなぎ倒された商品棚、天井から剥がれ落ちたパネル、そして床一面に散らばる商品の残骸。
「お目当てのブツは…洗濯機コーナーか…!」
慎重に、だが速足で店内を進む。そして、最上階の白物家電フロアにたどり着いた時、我はすぐにそれを見つけた。
フロアの中央、水漏れで水浸しになった床のど真ん中に、ポツンと一台だけ、無傷でたたずむドラム式洗濯機。他の家電が泥と水にまみれているのに対し、その洗濯機だけは新品のような輝きを放ち、まるで汚泥を寄せ付けていない。
そして、何より異常なのは――通電しているはずもないのに、そのドラムが凄まじい勢いで回転していることだった。
ゴォン、ゴォン、ゴォン…!
地鳴りのような重低音を立てて回転するドラムは、それ自体が台風の目のように周囲の空気を吸い込み、風を巻き起こしている。
「見つけたナリ…!あれが二つ目、『疾風の洗濯機』!」
我は意を決して、その洗濯機へと一歩踏み出した。
その瞬間、我の接近を感知したかのように、ドラムの回転数が爆発的に上昇した!
ゴオオオオオオオオオオッ!
洗濯機から発生した突風が、暴風となって我に襲いかかる!倒れた商品棚や段ボールが、風圧で軽々と吹き飛ばされていく。
「ぐっ…!なんだこの暴風はにゃん!?これじゃあ、近づくことすらできないナリ!」
ただそこに在るだけで、圧倒的な拒絶を示す第二の白物家電。その荒れ狂う姿を前に、我は歯噛みすることしかできなかった。




