無限の闇
「――なさけねぇな」
その声に導かれるように、我の意識は、暗闇の底へと落ちていく。
そこは、何もない空間だった。上も下も、右も左もわからない、無限の闇。熱さも痛みも、もはやない。
その、無の中心に、ぽつんと、一人の男が立っていた。
こちらに背を向けている。だが、その立ち姿は、だらしない普段の彼とはまるで違っていた。まるで武道家のように、スッと天に伸びた背筋。微動だにしないそのシルエットは、奇妙なほどの威圧感を放っていた。
間違いない。
「…あんたか」
我の声は、弱々しく闇に吸い込まれた。怒りを出す気力も、もうない。
「フカにゃん先輩…」
我は、静かに問いかける。
「何しに来たナリ。我の死に様を、特等席で笑いにでも来たのかにゃん」
男は、振り返らない。ただ、闇の向こうを見つめたまま、忌々しい声で答えた。
「笑う?馬鹿か。てめぇの無様な死に様なんざ、デュエマで俺に負けて泣きべそかいてる顔に比べりゃ、何の面白みもねぇよ」
相変わらずの、ムカつく物言いだ。だが不思議と、怒りは湧いてこなかった。
「…だがな、前川」
男は、続ける。
「てめぇがここで死ぬと、俺の誕生日プレゼントがなくなる。それは、少しだけ困る」
ふ、と男は肩をすくめた。そして、初めて、ほんの少しだけこちらに顔を向ける。その口元には、いつもの人を食ったような笑みが浮かんでいた。
「勘違いするな。てめぇのためじゃねぇ。俺のためだ」
男は、闇に響き渡る声で言った。
「くれてやる。てめぇが、あの忌々しい封印を解くというのなら」
「地獄の業火を食い尽くし、その身の力に変える、『炎』の力をな」




