猛る炎。消える灯
ゴオオオオオオッ!
一瞬で、地獄の業火が我の全身を包んだ。
凄まじい熱量と衝撃。着ていた服は瞬時に灰と化し、皮膚が焼け爛れ、肉が焦げる。だが、それと同時に、我が誇る自己再生能力が、破壊された細胞を猛烈な勢いで修復していく。
焼かれては、治す。
焼かれては、治す。
焼かれては、治す。
「ぐ…!う…!おおおおおおおおおお!」
痛い。これまでのどんな攻撃とも違う。存在そのものを、根こそぎ燃やし尽くそうとする、絶対的な破壊の力。再生するそばから、それを上回る速度で体が崩壊していく。
一歩、また一歩と、燃え盛るアスファルトの上を進む。だが、店の入り口はまだ遠い。
(まずい…エネルギーが…米のパワーが…切れるにゃん…!)
炊飯器の米で得た、ブースト効果が薄れていくのを感じる。再生の速度が、明らかに鈍化してきた。視界が霞み、意識が朦朧とする。
「力…が…抜けて…いくナリ…」
ついに、我の膝が折れた。燃え盛る炎の海の中で、我はうつ伏せに倒れ込む。もう、指一本動かせない。再生能力は、沈黙した。
(ああ…ここまでか…にゃん…)
薄れゆく意識の中、脳裏に浮かんだのは、飴をくれた少女でも、KTZW先輩でもなかった。
忌々しくて、憎たらしくて、殺したくてたまらない、あの男の顔だった。
「………フカ…にゃん……先輩……」
誰に届くでもない、か細い声。
それは、我の最後の、救いを求める声だった。
『前川ッ!応答しろ!前川!』
炎の外から響くKTZW先輩の悲痛な声も、もはや我の耳には届いていなかった。
意識が、沈む。
熱い、痛い、苦しい。そんな感覚はもうない。ただ、ひたすらに穏やかな暗闇が、我を優しく包み込んでいく。
ああ、走馬灯というやつか。
脳裏に、次々と光景が浮かんで消える。
初めてシンフォギアを観た日の衝撃。限定版のクリスちゃんのフィギュアを手に入れるために、三日三晩ネットに張り付いたこと。デュエルマスターズで、ゼニスデッキが完璧に回った時の高揚感。KTZW先輩と、どうでもいいことで笑い合った日々。ソシャゲのガチャで爆死して、積立NISAを崩した時の絶望。
我の人生、くだらなくて、浪費と自己満足にまみれていたナリ。
それでも、楽しかった。
ごめんな、我が愛したフィギュアたち。お前たちを、こんなところで灰にしてしまう。
ごめんな、KTZW先輩。あんたという最高のダチがいても、我はこのザマだ。
そして…ごめんな、名前も知らない少女よ。飴一つのお礼も、結局果たせそうにないナリ…。
まあ、いいか。
我は、よくやった方だろう。
柄にもなく、誰かのために走って、戦って。
もう、疲れたナリ…。
我は、その命の終わりを、静かに受け入れようとした。
全ての感覚が消え、完全な無が訪れる、その寸前。
脳内に、直接、声が響いた。
それは、世界で一番聞きたくない、忌々しい男の声だった。
「――なさけねぇな」
その声は、嘲笑うでもなく、怒るでもなく、ただ、心底呆れたように、そう言った。




