電子の巣
『前川!AIのメインコアを探す!おそらく店のサーバールームか、店長室にあるはずだ!そこを破壊すれば、この要塞は止まる!』
「言うは易しだにゃん!このレーザーの弾幕の中をどうやって!」
我々の会話を遮るように、壁や天井から放たれる消滅の光。もはや、ここはただの家電量販店ではない。四方八方が死角なしの、殺戮空間だ。
『私がレーザーの発射パターンを予測する!お前はそれに合わせて動け!』
「無茶を言うな!」
だが、やるしかない!
『右だ!次は左!3秒後に天井から来るぞ!』
KTZW先輩のナビゲートを頼りに、我は死の光が織りなす迷路を駆け抜ける。棚を盾に、商品を蹴散らし、床を滑る。掠めたレーザーが服を、皮膚を焼き、焦げ付いた匂いが鼻をつく。
「熱っ!熱いナリ!再生が追いつかん!」
『無駄な抵抗です。速やかに排除されます』
我を翻弄するように、愛する悠木碧ボイスが店内に響き渡る。その声に励まされ、同時に殺意を掻き立てられるという、訳の分からない精神状態で、我はひたすらに走り続けた。
そして、幾多のレーザーを潜り抜け、我々はついに一つの扉の前へとたどり着いた。『関係者以外立入禁止・サーバールーム』と書かれている。
「ここか!この奥に、あのクソ生意気なAIの脳みそがあるんだな!」
扉に手をかけた、その時。
『最終防衛ラインです。これより先への侵入は、一切許可できません』
AIの宣告と共に、扉に青白い光が走り、これまで以上に強固なロックが掛かったのがわかった。分厚い、鋼鉄製の防犯扉だ。
「なっ…!」
『まずいな。物理的にロックされた』
振り返れば、我々が通ってきた通路のレーザー射出口が、全てこちらに狙いを定めている。前は鉄壁の扉、後ろは死の光。完全に、袋のネズミだ。
「クソッ!最後の最後に、ただのドアかよ!」
我は忌々しげに、目の前の鋼鉄の扉を睨みつけた。振り返れば、通路のレーザー射出口が、チャージ完了の光を明滅させている。絶体絶命だ。
「こうなれば、ヤケだにゃん!この我のバールにかかれば、鉄の扉など豆腐と同じナリ!」
我はバールを振りかぶる。だが、それをKTZW先輩の声が制した。
『待て、前川。力ずくではラチが明かない。それに、下手に扉を破壊すれば、中のコアまで損傷させかねん』
「じゃあどうしろって言う!」
すると、ドローンは静かに扉の横にある管理パネルへと近づき、そこから細いケーブルを伸ばしてポートに接続した。
『物理的な侵入が不可能なら、論理的に侵入するまでだ。この店舗のネットワークに、我々がハッキングを仕掛ける。この狂ったAIの制御を、我々が奪う!』
その言葉に、我は目を見開いた。
「サイバー戦争……!?」
『そうだ。少し時間を稼げ、前川。我がお前のために、道を開いてやる』
その言葉を合図としたかのように、AIが反応した。
『不正アクセスを検知。ファイアウォールを展開。侵入者を特定、排除します』
これまで我に向いていた全てのレーザーの銃口が、一点に集中する。その先にあるのは――KTZW先輩のドローンだ!
「先輩!」
『問題ない。だが、頼むぞ』
今度は、我があんたを守る番だというのか!
「任せろおおおおおにゃあああん!」
我はドローンの前に立ちはだかり、盾となった。四方八方から飛来する消滅のレーザーを、バールで弾き、時にはその身で受け止める!
「ぐっ…!あづっ!先輩、まだかナリ!?我の体が炭になる!」
再生と消滅の狭間で、我は必死に耐える。その間、先輩は一切の言葉を発しない。ただ、尋常ならざる集中力で、AIの牙城を内側から崩しているのだ。
『侵ニュー…ヲ…キョカ…デキマ…セン…ピガガガ…』
AIが発する悠木碧ボイスに、ノイズが混じり始める。制御が揺らいでいる証拠だ!
そして、ついにその時が来た。
『――やったぞ!制御を奪った!』
KTZW先輩の歓喜の声!
その瞬間、あれほど激しかったレーザー攻撃がピタリと止み、我々の目の前にあった鋼鉄の扉が、静かに、ゆっくりと開いていった。
「フ…フフフ…チェックメイトだにゃん、AI」
我々は、ついにこの要塞の中枢へとたどり着いたのだ。
『AIの完全なシャットダウンを確認。これでもう、この店が人を襲うことはない』
その後すぐに、我は『無尽蔵の電気ケトル』を回収した。
「フン、我の愛する声で殺しにかかってくるとは、とんでもないAIだったナリ…」
我々は、静まり返った要塞を後にし、ボロボロのトラックへと戻った。
荷台に四つ目の伝説の白物家電を積み込む。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、そしてケトル。伝説の力が、荷台で共鳴し合っているかのような、不思議な圧迫感があった。




