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愛しの声

「なっ…!?」


 微弱だったエネルギー反応が、今は明確な敵意として、ビリビリと肌を刺す。


「罠か…!」


 敵は、我々が来るのを、この場所でずっと待ち構えていたのだ。

 闇の奥から、何かがこちらを静かに見つめている。我はバールを握りしめ、見えざる敵と対峙した。



 罠だ、と悟ったのと、我の目が暗闇に慣れたのは、ほぼ同時だった。そして、我は気づいてしまった。店のあちこちの床に、まるで脱ぎ捨てられたかのように散らばる、複数の衣服に。それは、この店のスタッフが着ていたであろう、見慣れた制服だった。


「…店の制服?なんでこんなところに…中身が、ない…?」


 綺麗に畳まれているものもあれば、人が着ていた形のままのものもある。だが、どれも例外なく、中身だけが綺麗に消え失せていた。


『前川、上だ!』


 KTZW先輩の絶叫に、我は考えるより先に床を転がった!

 直後、我のいた場所の真上の天井パネルがスライドし、そこから放たれた純白のレーザー光が、音もなく床を貫いた。


「なっ――!?」


 爆発も、衝撃もない。ただ、レーザーが照射した箇所が、陳列棚も、商品も、床のタイルも、全てが綺麗に「消滅」していた。まるで、神様がスプーンで世界の一部をくり抜いたかのように。


 ぞっとするような、完璧な消去。もし当たっていたら、我の再生能力など関係なく、この世から存在ごと抹消されていただろう。


 その時、店内のスピーカーから、凛とした、それでいて一切の感情を感じさせない、無機質な女性の声が響き渡った。


『――営業時間外でのID未確認人物を確認。侵入者と断定。排除行動に入ります――』


 その声を聞いた瞬間、我はかつてないほどの混乱に陥った。恐怖ではない。驚愕と、そして、ほんの少しの歓喜。


「この声は…!嘘だろ…悠木碧ッ!?なんでにゃん!なんで我が、悠木碧ボイスに殺されなきゃならんのだ!いや、むしろこれはご褒美では…!?いやいやいや!我よ、しっかりしろナリ!」


 声の主が、我が敬愛してやまない声優であるという事実に、我が精神は崩壊寸前だった。


『落ち着け、前川!音声合成だ!それより、敵の正体がわかったぞ!』

 KTZW先輩の声が、我を現実に引き戻す。

『これは、ケーズデンキが極秘に開発した防犯AI、『K-SYSTEM』の暴走だ!万引き犯を分子レベルで『消去(デリート)』するという、狂った都市伝説の正体はこいつだったのか!』


 そういうことか!あの制服は、この店のスタッフ…!システムの管理者であるはずの人間すら、この狂ったAIによって「排除」されたのだ!


『この店舗全体が、一個の巨大な殺戮要塞だ!』


 その言葉を証明するように、壁や床から、無数のレーザー射出口が姿を現す。四方八方を、死の光に包囲される。


「クソッ!四つ目の家電は、とんでもないじゃじゃ馬だったとはな!」


 我は、愛する声に殺されるという、甘美で残酷なジレンマと戦いながら、この無機質な要塞との戦闘を開始した。

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