昨日の敵は、やっぱ敵
「フンフンフーン♪」
究極の米パワーで心身ともに満たされた我は、珍しく上機嫌でトラックのハンドルを握っていた。鼻歌の一つも出るというものだにゃん。この調子なら、残り四つの家電も楽勝ナリ!
秋葉原から新橋へ。道は比較的開けており、快調にトラックは進む。このままいけば、15分もかからず次の目的地に着けるだろう。
そう思った矢先、ドローンからKTZW先輩の警告が飛んだ。
『前川、前方500メートルに複数の車両。識別信号…陸上自衛隊だ』
「なにぃ!?」
目を凝らすと、大通りの向こう、こちらへ向かう道を塞ぐように、緑色の装甲車や戦車が防衛線を築いているのが見えた。銃を構えた隊員たちが、厳しい表情で周囲を警戒している。
「チッ、税金泥棒どもが今更しゃしゃり出てきやがって!どうするんだにゃん、先輩!」
『おそらく、I-Zar散布前の最終防衛ラインだろう。怪獣の侵攻を防ぎつつ、区域内に残った脅威を排除するのが目的か。我々が乗るこのトラックは、彼らにとっては正体不明の脅威そのものだ』
ドローンが冷静に分析する。
『強行突破は自殺行為だ。だが、迂回していては最低でも20分のロスになる』
「20分!?そんな時間はないナリ!残り時間は2時間半を切ってるんだぞ!」
どうする。正面から突っ込めばハチの巣にされ、迂回すればタイムアップ。完全に詰みじゃないか。
我は忌々しげに舌打ちし、周囲を見渡した。そして、我の目は、道路の脇を並走する、高架になったJRの線路を捉えた。
ニヤリ、と。我の口元に、悪魔的な笑みが浮かぶ。
「…先輩。道路がダメなら、道じゃないところを行けばいいだけのことだにゃん」
『…まさか。正気か、前川?トラックで線路を走るつもりか。無謀すぎる』
「無謀と書いて挑戦と読むのが、この我という男だにゃん!」
我は、自衛隊員たちがこちらに気づいて銃口を向け始めるのを横目に、ハンドルを大きく右に切った!
「あのトロい戦車の相手をするより、よっぽどスリリングで面白そうだにゃん!しっかり掴まってろナリィ!」
ガアアアアアン!
トラックはガードレールをなぎ倒し、線路脇の土手を無理やり駆け上がる。凄まじい振動と傾きに、荷台の伝説たちが悲鳴を上げた。そして、数秒後。
ゴットン、ゴットン、という規則的な振動が車体に伝わる。我々のトラックは、完全に高架線路の上に乗っていた。
眼下で、何が起きたか理解できずに呆然と空を見上げる自衛隊員たちの姿が見える。
「フハハハハ!さらばだ税金泥棒!あとは我に任せろにゃん!」
我は高笑いを上げ、線路という名の専用ハイウェイを、新橋に向けて爆走するのであった。
「フハハハ!見ろ先輩!奴ら、下でぽかんとしてるナリ!」
眼下の自衛隊を嘲笑い、線路の上を爆走する我。だが、その優越感は長くは続かなかった。
バタバタバタバタ!という、空気を切り裂くローター音。あっという間に追いついてきたのは、緑色の機体に『陸上自衛隊』と書かれた、攻撃ヘリコプターだった。
『線路上のトラックへ告ぐ!直ちに停車せよ!繰り返す、直ちに停車せよ!これは最終警告である。応じない場合、撃墜もやむを得ない!』
ヘリのスピーカーから、腹に響くような警告が轟く。
「うるさいナリ!世界の危機を救おうとしている聖戦士(我)の邪魔をするな、愚民ども!」
『前川、挑発するな!相手は本気だぞ!』
KTZW先輩の制止も虚しく、警告を無視した我に対し、ついに自衛隊は牙を剥いた。
ダダダダダダダダダッ!
ヘリの機首に搭載された機関砲が火を噴き、鉄の雨が我々のトラックに降り注ぐ!
『バリア展開!』
KTZW先輩のドローンが瞬時に光学バリアを展開するが、軍事用の徹甲弾の連続攻撃は、そのエネルギーをみるみるうちに削っていく。
「うおお!トラックが穴だらけになるにゃん!」
『バリアのエネルギーが持たないぞ!あと10秒で突破される!』
タイヤは引き裂かれ、車体は火花を散らす。もはやこれまでか。我の脳裏に、積立NISAのことが浮かんだ、その時だった。
突如、巨大な影が我々とヘリコプターを覆った。
「…は?」
見上げると、そこには天を突くほどの巨体。我々が倒すべき元凶、キンタマキが、すぐそこまで迫っていたのだ。奴は、我々のことなど気にも留めていない。ただ、自分の近くを飛び回る、鬱陶しい「虫」に気づいただけだった。
そして、まるでハエを払うかのように、その巨大な手が、無造作に攻撃ヘリを薙ぎ払った。
ボゴッ!
断末魔の叫びを上げる間もなく、最新鋭の攻撃ヘリは、巨大な手のひらの前におもちゃのように握りつぶされ、火を噴く鉄屑となって地上へと墜落していった。
「…………」
「…………」
我も、KTZW先輩も、言葉を失い、その光景をただ見上げていた。
我々を追い詰めた自衛隊が、我々が倒すべき怪獣によって、一瞬で殲滅されたのだ。
やがて、我は呆然と呟いた。
「……今の、は……」
『皮肉なものだな。我々を救ったのが、我々が倒そうとしている元凶とは』
ドローンの声で、我はハッとなる。トラックはボロボロだが、まだ動く!
「フン…!礼など言わんぞ、クソ怪獣!せいぜい今のうちに威張っているがいいナリ!」
我は再びエンジンをふかし、火花を散らしながら、ボロボロのトラックを前進させる。
目指す新橋は、もう目前だ。




