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【7作目】ダンボール箱の中には猫耳美少女がいました  作者: あぱ山あぱ太朗
酒を飲んだ後はチャーハンが食べたい
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1-1

「俺の名前は野老澤治、探偵さ」

「――つっても、あれだ。難事件を解決したりとか、そういうのじゃない。その実態は何でも屋。人とか犬猫探し、地域の手伝い、政治家のポスター貼り、ベビーシッター、盗聴器の捜索、ストーカー調査とか色々。けど、浮気調査だけはやらない。ほら、なんかドロドロしてるじゃん。俺もめっちゃ浮気とかするし。人のこと言えないというか」

「まぁそんな感じで、大学を中退して一発逆転の手立てはないかと模索した結果、今の探偵業に行き着いた。しかし、一年も経たずに経営難に陥っていたのだった」

 喋りすぎて喉が渇いてしまった。セリフ量が多すぎ、一人で喋る量じゃない。

 乾いた喉を潤すために手元のビールジョッキを傾ける。

「一体、お前は誰と喋っているんだ……」

「なんて嘆息しながらツッコんできたのは、親友の御幸颯太。小中高校大学と俺の周りをうろちょろしている。たぶん、俺のことが好きなんだと思う。ちなみに童貞だ」

 新たな登場人物について解説する。

「ふざけんなっ! お前が俺の進学先をパクってんだろ! 小中に関しては東京都中野区の同じ地域に生まれてしまったから仕方ない。けど、高校からは違うぞ!」

 あーやばい。いつもの長話が始まるぞ、これ。

「お前が日比谷に行くと思ったから国立にしたのに、制服が嫌だからとか意味不明な理由で一緒になっちまうし! 大学こそはお前が東大に行くとか豪語してたから私大専攻にしたのに、結局は同じ大学! しかも学部専攻まで一緒とか最悪かよ!」

「その話、一〇〇回目」

「そうやってお前が毎回ストーカー扱いしてくるから弁解してんだよ! あと、童貞なのは関係ないだろ!」

「御幸颯太は自分が童貞であることを気にしている。それもそうだ。俺たちはもう二十三歳。あと七年もすれば魔法使いになってしまう」

「その地の文を読み上げるみたいな口調やめろ! 不愉快だ!」

「もしかしたら、上位存在が俺たちの行動を観察してるかもじゃん。これが冒頭場面だとしたらちゃんとフォローしておかないと」

 俺の名前、経歴、状況はきちんと伝わりましたかね。

 よろしくお願いします、野老澤治です。我ながら面白い人間だと思っています。

 まぁ、仮に上位存在なんてものがいても、こっちから観測できない以上はどうしようもないんですがね。もしいらっしゃるなら、コーヒー片手に楽しんでくださいよ。

「そんないるかも分からん上位存在より、目の前にいる俺に配慮しろよ!」

「すまん、すまん。ほらラスイチの唐揚げやるからさ」

「八割は治が食ってたよな!?」

「知っての通り、生活がカツカツで。貴重な栄養源なんだ」

 本当は居酒屋で飲むのも不経済なんだろうけどな。だけど仕方ない。飲み屋で飲むビールが美味すぎるのが悪いんだ。

 なんて脳内での言い訳を済ませ、タバコに火をつける。ぷはーうめー。

「金ないとか言うわりに、タバコはめっちゃ吸うよな」

「そりゃそうだ。タバコないと死ぬよ、俺」

「真顔で言うな!」

 俺レベルになると、タバコ吸わない方が体調悪いからな。タバコが体に悪いってのは俗説なんじゃないかと思い始めている。

「あとあれだ、パチ打ってると手持ち無沙汰になるだろ? パチカスにとってタバコってのはもう生活必需品なんだよ」

「お前の行動は、会社が火の車になってる人間の行動には思えんぞ」

「違うぞ、颯太。発想が逆だ。こういう人間だから会社が火の車なんだ」

「それを自分で言うな! しかも誇らしげに!」

 これでも一応まずいとは思ってるんですよ、自分でもね。それが分かっていてもなかなか直せない。昔から面倒なことは先送りするタイプでして。

「最近、動画の広告が消費者金融ばっかりでうんざりだよ」

「……いい加減、損切りするタイミングも考えた方がいいんじゃないか?」

「そうねー。親父の遺産もいよいよ底をつきそうだしなー。けど、次はどうする? 学生向けイベント会社、パチプロ、不動産投資、仮想通貨、はたまたユーチューバ―なんて色々と試したけどな。どれもこの性格のせいで続かない」

「いや、普通に就職という手はないのか」

「それが不可能なことは、颯太が一番分かってんだろー?」

「まぁな……」

 昔から遅刻の常習犯。ずっと椅子に座っていることができない。

 先輩を気遣うのも苦手、というか無理。社会性が皆無といって差し支えない。

「いいねー。一流私大を卒業し、今や役所勤めの公務員。超安定ルートだ、羨ましい」

「治もその一流私大に通ってたじゃないか。公務員試験だってお前の学力があれば難なくこなせただろうし、選択可能な未来ではあっただろ。まぁ、おそらく……いや絶対に、治は公務員向きではないと思うけどさ」

「だな、俺が公務員になったら笑い話だ。ずっと体制に反発してきた人間だし」

 小中高、どの学年でも月に一度は悪さをするので、何度も家族の呼び出しがあった。

 保護者会でも話題になり、「野老澤くんと関わらないように」と、親から注意されている同級生もいたらしい。後になって、本人から聞いて驚いたけど。

「だから、小中の頃は治のことめっちゃ嫌いだったよ。仲間集めて悪さばっかしてさ。俺は委員長だから注意しなきゃだし」

「――小中の頃は嫌い。つまり、それ以降は好きってことだよな?」

 つい、ニヤニヤしてしまう。

「うるせぇ! 高校の部活が一緒だと、さすがに仲悪くなろうにもなれないだろ! バスケ未経験だってのにすぐレギュラー取っちまうし、同じ一軍同士だとそりゃコミュニケーション取るしかないからな!」

 中学までは野球部だった。ちなみにエースで四番。

 高校で野球を辞めたのは坊主が嫌だったから。だって、坊主だとモテないじゃん。

「ま、天才ですから。ちょっと齧るだけでなんでも出来るんだよな、昔から」

「ちくしょー、事実だから文句言えねー。ほんとうぜー。結局、テストの順位で勝ったことないしよー」

 小中と実力テストの順位は、俺が一位、颯太が二位の不動。

 高校は周りのレベルが高すぎて一位は無理だったが、それでもテストの順位で颯太に負けたことは一度もなかった。

 しかも、俺はテスト勉強というやつをまともにやったことがない。

 それがまた颯太の怒りを増長させている。マジで神童だったんですよ、当時は。

「まぁ、いいじゃん。今の社会的な立場を見れば、颯太の方が勝ち組なんだから」

「……俺には治がこのまま終わるようには思えないんだよ。数年後は普通に大金持ちになっているんじゃないかって期待しちまう。これはたぶん同期全員が思ってることだぞ」

 颯太は照れ臭そうに頬を掻いていた。

「なんだかんだ言って、御幸颯太は野老澤治のことを認めているのだった」

「だからそれやめろ!」 

 やっぱり、気心の知れた親友と酒を飲むのは楽しい。

 十年以上の付き合いだと、昔話だけでも永遠に喋っていられる。気が付くと、机の上には三つ、四つと空のグラスが増えていく。

 店内は活気に溢れており、店員さんが忙しそうに駆け回っていた。

 いいね、まさに金曜日の夜。

 ――――あぁ、このままずっと酔いしれていたい。

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いつも動画を拝見させて頂いております。 僕自身小説の改行の使い方を覚えたばかりでこんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、 今回の第1話を読ませていただいた率直な感想としてどういうジャンルのお話…
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