82話 マジマジ探検隊
閲覧ありがとうございます。
ジャングルの奥地に行くわけではないです。
「みんな、準備はいい⁉」
仁王立ちする魔奇さんに、小悪ちゃんが「よいぞ!」と高らかに叫びます。他三人は首肯で応えました。
「さあ、気合入れていこう。絶対に見つけるよ、『未詩夜の呼び声』!」
「おーーー!」
片手を挙げ、マジマジ探検隊は山の中へ。
なぜ、こうなったのか。『未詩夜の呼び声』とはなんなのか。時は数十分前にさかのぼります。
「ラムネ飲んだらお腹いっぱいなのだ」
「そりゃ、三本も飲めばね」
「二本目は半分くらい地面に吸われたから、実質二本半だ」
「詳しいことはいいとして、お腹いっぱいなら駄菓子はまた今度にしよっか」
「む……。そうだな。では、次は遊ぶとしよう!」
「どこであそぶ?」
やっと飲み終えたきとんが首を傾げます。
「せっかくですから、森の中で。というか、森の中くらいしかありませんね」
「遊ぶといっても、ただ走り回るんじゃつまんないよねぇ」
みんなで首を捻っていた時、柏木さんが「宝探しはどうだ」と提案しました。
「宝探し……ですか」
想定外の言葉に勇香ちゃんが困惑します。
「その昔、はるか遠い地からやってきた旅人が、夜魔地方の山中に宝を埋めたというおとぎ話がある」
「わたし、そんなの初めて聞いたよ? お母さんも言ってなかった」
「そりゃそうだろう。好奇心旺盛なすぺる嬢が知れば、朝から晩まで森の中を探すだろうから」
「そうなれば、魔法の勉強なんてしないだろうな」
にやりと笑う小悪ちゃんに、図星らしい魔奇さんは「うっ」とうめき声を出しました。
「おたから、なに?」
「さあ。詳しいことはおれにもわからん。なにせ、こどもに聞かせるおとぎ話だ」
「こどもなのに聞かされなかったわたしは一体……」
うなだれる魔奇さんに、小悪ちゃんが「こどもじゃないんだろう」と横からつつきます。
「宝の名は『未詩夜の呼び声』。大きさも形も不明だが、夜魔の山の中にあるとされる。大変な価値があるというが、本当のことはわからない」
ましよのよびごえ? 聞いたことはありませんね。
「山の中に眠るお宝。大変な価値……。もしかして、埋蔵金でしょうか」
顎に手を当てる勇香ちゃんがぼそりと言うと、魔奇さんと小悪ちゃんがぐるんと首を回して彼女を凝視します。
「いま、埋蔵金って言った?」
「いま、埋蔵金と言ったか?」
限界まで開かれた四つの目に見つめられ、軽くのけぞった勇香ちゃんは「は、はい」と首肯します。
「ですが、可能性というだけで埋蔵金と決まったわけでは……」
「探そう、『未詩夜の呼び声』!」
「見つけるぞ、『未詩夜の呼び声』!」
「埋蔵金はわたしたちマジマジ探検隊のものだ!」
「マジマジ総本部を作って世界を支配するのだ!」
「やるぞーー!」
「やるぞーー!」
二人の世界に入ってしまった為、止めようがなくなった勇香ちゃんは遠慮がちに私を見ました。ゆるゆると首を横に振ると、彼女は諦めのため息をついたのでした。
こうして、正体不明の宝を探すマジマジ探検隊が結成され、ヤドリギから借りたシャベルを手に山の中にやってきたのです。ちなみに、シャベルを持っているのは小悪ちゃんと魔奇さんだけです。他三名はというと。
「私たちは暴走を止める係ですね」
「だね。山の中ではっちゃけたら危ないから」
頷いたのも束の間、いつの間にか小悪ちゃんの姿がありません。
「あっ! もうあんなところに! 単独行動は禁止だとすまさんから言われているのに小悪さんったら……」
米粒ほどの大きさになった小悪ちゃんに口を尖らせつつ、勇香ちゃんはすぐさま走り出します。
「彼女には私がつきます。志普さんたちもお気をつけて。宝探し楽しみましょうね」
爽やかに去っていく勇香ちゃんを見送り、さて、と振り返ると。
「きとんちゃん、埋蔵金の匂いする?」
「まいぞうきんのにおいをしらにゃい」
「そっか。金塊でも持ってくるべきだったかな」
大真面目な顔で悩む魔奇さん。彼女の肩には、呆れたように目を細めるシロツメちゃんがいます。ヤドリギにいる間はしゃべらないようにしていたようで、「はあ、このあたしにラムネをかけるなんてあの魔王……」と遅めの不満を口にします。
「しかも、埋蔵金ですって? あんなの、ただのこども騙しよ。それなのに、シャベルまで持って探検隊とか、ほんとこどもなんだから」
これ見よがしに深いため息をひとつ。
しかし、彼女の声がいつもより弾み、耳がせわしなく動いていることに気づいていました。ちらちらと彷徨わせる視線も留まることを知らず、頬にも赤みがさしています。実は、めちゃくちゃ楽しんでいませんか?
「悩んでいる暇があったら、地面を掘ればいいと思うの。ほら、全力でやりなさい、スペル」
「簡単に言わないで。むやみやたらに地面を掘るものじゃないよ」
「埋蔵金があるかもしれないでしょ」
「こども騙しって言ったくせに埋蔵金が欲しいの?」
「それはそれ、これはこれよ。お金はあって困るものじゃないのよ、スペル」
「ああ言えばこう言うなぁ」
シロツメちゃんの手のひら返しに落ち着きを取り戻した魔奇さんは、「目印とかないかな?」と周囲を見渡します。
きとんも嗅覚をいかして埋蔵金探しを手伝うようです。しゃがんでは立ち、しゃがんでは立ちを繰り返していました。
「ぜんぜんわかんにゃい」
渋い顔をしながら進んでいきます。
私はというと、『埋蔵金があったらうれしいな』と思いながらどこまでも広がる森を観賞していました。いやはや、見たことのない自然です。埋蔵金も魅力的ですが、それよりも力強く根を張る大木に圧倒されました。
明るい緑色が上空を覆い、太陽の日差しを遮ってくれるので涼しいのです。深呼吸をして新鮮な空気を味わいつつ、踏みしめる大地の感触に頬を緩めました。こうして森の中にいるだけでも貴重な経験です。一日目ですが、来てよかったと心から思いました。
森にある色は緑だけではありません。夏の花があちこちに咲いています。地面から飛び出る木の根に絡まる花を眺め、空から降って来る葉に手を伸ばします。
「埋蔵金はどこ!」
「すぐみつかったらくろうしない」
「うさ之助のグッズ、全部買ってもまだ余ると思うんだ」
「かいすぎ」
「スペル、ここを掘るのよ。埋蔵金チャンスだわ!」
「『ここ掘れワンワン』?」
「誰が犬ですって?」
元気そうな彼女たちの後方で、のんびりと歩く私。姿が見えていれば単独行動ではありませんよね。
保護者の位置から見守りつつ、埋蔵金がありそうな怪しい場所も探します。もちろん、こんな山奥に来るのは初めてなので、何が怪しいかどうかもわかりません。
「ん? この花なんだろう。きれいだなぁ」
山に咲く花なのでしょう。あまり見たことのないきれいな花を見つけました。大きな木に気を取られがちですが、気がつくと色々な花があるようです。
電波はありませんが、写真用に携帯電話を持ってきています。カメラアプリで花を撮り、大木を撮り、空を撮り……。
画像フォルダが緑色になりそうですが、それもまたよし。穏やかな世界を散歩していると、視界の端で何かが動きました。
急いで目を凝らすと、小さな茶色が素早く移動していきます。長い耳がぴんと立ち、軽快なジャンプをするあれは……。
「野うさぎだ……!」
すごいです。本物は初めて見ました。野うさぎって本当にいるんですね!
警戒心の強い野生動物です。あっという間に姿が見えなくなりましたが、どうしても、もう一度だけ見たくて仕方ありません。先ほどは草で隠れていたので、全身をしっかり捉えたいのです。
気持ち的には足音を消し、野うさぎが駆けていった方に進んでいきます。埋蔵金を探す彼女たちの進行速度はゆっくりなので、ちょっと行って、すぐ戻れば大丈夫のはずです。
野うさぎ、野うさぎ、野うさぎ……と脳内で連呼しながら小走りで森の中を行く私。うさぎを探すあまり、足元はよく見ていません。といっても、木の根があればまたぎますし、溝があれば飛び越えます。だから、地面があるとばかり思っていたのです。
「……えっ⁉」
溝を飛び越えた先。力強く踏んだはずの足が滑り、どうすることもできないまま身体は落ちていきます。咄嗟に両手を顔の前で交差し、ダメージを軽減させましたが……。
地面に叩きつけられた瞬間、パリンと音がしました。視界の中でガラス破片のような光が弾けます。
「いたた……」
転がってきた場所は薄暗く、大きな穴がぽっかりと開いていました。草に隠れて見えなかったのか、単純に見逃したのか、私は電波の届かない森の中でひとり。
「や、やってしまった……」
木陰とはいえ、気温が高いはずなのに冷たい汗が流れていきます。脳裏ですまさんの忠告が響き渡りました。しかし、時すでに遅し。
鳥の声も木々のざわめきも届かない静かな空間。まるで違う世界に来たようでした。静寂とやけに冷えた空気が不安を煽り、鼓動が早くなっていきます。
「とりあえず、がんばって登ろう」
土壁は絶壁というわけではありません。滑ってきたのですから、がんばればなんとか……。
そう思った時でした。私の背後で、石を蹴る音が聞こえました。マジマジ探検隊、隊員志普、新たなピンチの予感です。
お読みいただきありがとうございました。
一体何が出てくるのやら。
ネタバレですが、クマではないです。