表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/106

79話 こんにちは魔奇家

閲覧ありがとうございます。

ぽつんと魔奇家。


 山道を抜けた先は、人気のない田舎道。豊かな自然に挨拶しながら歩き続け、コンクリートの踏み心地を忘れかけた頃。


「そろそろ着くよ」


 魔奇さんが前方を指さしました。相変わらずの緑が広がる向こうに、煙が上っているのが見えます。細長い四角いものは煙突?


 そこから、また数分歩くと、木造の一軒家が姿を現しました。周囲の緑によく似合う茶色はあたたかさを感じさせ、二階建ての三角屋根は薄い赤色に染まっています。バルコニーには洗濯物が風に揺れ、爽やかな雰囲気をかもしだしていました。


「よおし、到着。みんな、お疲れさま!」


 彼女が言った途端、小悪ちゃんが地面に崩れ落ちました。


「と、遠いのだ……。疲れたのだ……」

「本当に山奥なのですね。想像以上でした」

「びっくりでしょ。わたしもひさしぶりに驚いちゃった」

「おなかすいた……」


 きゅるる、と高い音が鳴ります。腹部に手を当てるきとんは、しょぼしょぼした目でうなだれました。


「お昼の準備できていると思う。さっそくご飯にしよっか」

「お昼の準備?」

「うん。家を出る前にお願いしておいたんだ。着くのは昼頃だから、ちょうどいいかなって」

「そんな、悪いよ」

「いいのいいの。お母さんもみんなに会うの楽しみにしてるし、こんな大勢のお客さんが来ることなんて滅多にないから嬉しそうだったよ」


 魔奇さんは口元に手を添え、「サラちゃんが土鍋で炊いたご飯でおにぎり作ってくれるって」とつぶやきました。以前、彼女が『食べさせたい』と言っていたものですね。


「ほんっとにおいしいから、楽しみにしてて」

「うん。ありがとう」


 なぜか一番うきうきしている魔奇さんは、スキップで玄関へ。チャイムはなしに扉を開け、「ただいまー!」と大きな声で言いました。


 すぐに顔を出したのは、はつらつとした雰囲気をまとう茶髪の女性。私たちを見てパッと笑顔を浮かべます。


「おかえり、すぺる。いらっしゃい、愉快な仲間たち!」

「ただいま、お母さん。こちらがわたしのと、とも、友達の! みんなだよ」


 魔奇さんが興奮気味に紹介してくれたので、私たちもそれに倣います。


「初めまして、魔奇さんの友達の平良志普です」

「同じく、すぺるの友達の黒主小悪だ」

「すぺるさんと友達として仲良くさせていただいております、剣崎勇香と申します」

「すぺるのともだち、猫宮きとん」

「えっ、なにその枕詞みたいなやつ! は、恥ずかしいじゃん!」

「最初に言ったのはおぬしだろうに」

「嬉しかったから、つい」


 私が言うと、彼女は「う、嬉しいならいっか」と落ち着きを取り戻します。


 最後に、魔奇さんの肩に乗っていたシロツメちゃんが耳を伸ばしました。


「スペルの使い魔、シロツメよ。初めまして、魔女さん」


 魔奇さんのお母さんは小さな生き物を見て頷くと、口元に笑みを浮かべます。すぐに視線を変え、愉快な仲間たちに手招きしました。


「改めて、ようこそ、みんな。長旅お疲れさま。さっそくだけどお昼にしよっか。お腹すいたでしょう?」


 瞬時に反応したのは小悪ちゃんでした。勢いよく手を挙げると、「お腹と背中がくっついたぞ!」と高らかに言いました。


「くっついちゃだめじゃん」


 魔奇さんに(つつ)かれながら、小悪ちゃんはずんずん進んでいきます。魔奇さんのお母さんが入るように促したのは、一階の大きな部屋。大きなテーブルの脚は低めで、そのまま床に座るタイプのようです。絨毯が敷かれているので、そこに腰をおろしました。


 家中に満ちる木の香りに心が落ち着きます。家具も木製のものが多く、絵本の中で見たものにそっくり。


「なあ、すぺる母。なんでこんな山奥に住んでいるのだ?」

「すまでいいよー。すぺるのママだから略してすま。パパのことはすぱって呼んで」


 スパだとリラクゼーション施設になりますね。


「山奥に住んでいる理由は色々あるけれど……。たとえば、魔法薬の調合に失敗して爆発しても、近所に迷惑かけないとか」

「ば、爆発するのか」

「魔法が失敗しても大変なことになるのよ。すぺるなんて昔、ほうきで窓を割ったことが……」

「そ、その話はやめよう⁉ お腹すいたなぁ! お昼まだかな!」


 魔奇さんのお母さん……すまさんの目が細くなったのを見て、魔奇さんが裏返った声をあげました。その時、キッチンの方から音がしました。


「お待たせー。土鍋で炊いたお米で作ったおにぎりとお味噌汁、あと畑でとれた野菜の漬物ですよ」


 赤い髪の女性がお盆を持ってやってきました。大量のおにぎりと人数分の味噌汁とお茶が乗っているので、だいぶ重そうです。しかし、彼女は軽やかに運んでいました。


 というか、すまさんに似たこの方は一体?


「あ、サラちゃん。ひさしぶり~」

「ひさしぶり、スペル。ちゃんとご飯食べてましたかー?」


 隣に座り魔奇さんがひらひらと手を揺らします。サラちゃんというと、たしか。


「……すまさんの使い魔?」

「ピンポーン。大正解、シホちゃん。おにぎりお食べー」


 すいすいと配膳していく彼女は、運び終えるとすまさんの隣に座りました。


 みんながお礼を言い、食前の挨拶をすると、思い思いに食べ物に手を伸ばします。


「一見するとただの人間だけど、この人は魔法生物。わたしの使い魔のサラだよ」

「サラちゃんって呼んでね~」


 にこやかに手を振る彼女。さっそくおにぎりを頬張っていた小悪ちゃんが盛大にむせました。隣に座る勇香ちゃんが背中をさすります。


「使い魔⁉ こやつが⁉」

「そうですよ~。びっくりしました?」

「お、おおおお驚いてなどいないぞ。これくらいよくある話ではないが、余裕だ」

「ちなみに、本当の姿は火竜です~」

「か、かかかかか、火竜⁉ ドラゴンってやつか⁉」

「そのようなものだと思ってもらっておっけーです~」


 指で丸を作り、小悪ちゃんの反応を味わう火竜ことサラちゃん。


「なぜ人型で生活を?」


 誰もが思う疑問を口にする勇香ちゃん。


「この方が家事しやすくて。火を吐くより土鍋の温度も調整しやすいですからね」


 現実的な理由に小悪ちゃんがお茶を吹きました。


「笑わせんでくれ……」

「でも、おにぎりおいしいでしょう?」

「うむ。最高だ!」

「たくさん食べてくださいね~。ここにいる間の食事は、自分たちでやりたいこと以外は任せてもらって大丈夫なので」

「やりたいこと?」


 両手でおにぎりを持つきとん。片方の頬が膨らんでいます。


「バーベキューで食材を焼く時は、自分たちでやりたいかなって」

「バーベキュー! そうだ、それがあったね」

「いつでも言ってください。準備しますね」

「ありがとう、サラちゃん」


 空になったコップを見つけ、すぐさまお茶を注ぐサラちゃん。にこにこしながらテーブルを回り、それとなく手拭きも交換していきます。見事な動きに、脳裏に『メイドさん』の文字が浮かびました。


「どう、平良さん。サラちゃんが炊いたご飯、おいしいでしょ?」


 おにぎりを片手に、魔奇さんはうきうきで問いました。咀嚼中の私は頷きで応えます。飲み込み、「とってもおいしい」と言うと、彼女は満足そうにおにぎりにかぶりつきました。


 梅やこんぶ、焼き魚、焼きおにぎりなど、いくつか種類のあったお盆はみるみるうちにきれいになっていきました。


 味噌汁や漬物など、塩分が多いのは暑い夏だからでしょう。注がれたお茶も、ぬるくなる前に飲み干されていきました。すぐにサラちゃんが淹れてくれるので、喉が渇くこともありません。


 長旅と山道で疲れていた私たちは、彼女たちの厚意に遠慮なく甘えました。


 昼食が終わり、サラちゃんが片づけの為、キッチンに姿を消すと、すまさんが「さて」と立ち上がります。


「お腹もふくれて、休憩も済んだところで、夏休みを満喫する為のある場所に案内しようかな」

「ある場所?」


 首を傾げる小悪ちゃん。


「七日間滞在するんだから、泊まるところが必要だよね」

「すぺるさんから、宿泊場所は用意すると言われていますが……」

「もちろん。宿泊代のいらない素敵な場所を用意してあるよ。さ、ついておいで、愉快な仲間たち!」


 元気いっぱいにウインクするすまさん。なんだろう、すごく親子を感じる。


お読みいただきありがとうございました。

土鍋ご飯食べたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ