70話 期末テストを終えて
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期末テストの結果はいかに。
期末テスト終了後、すべての答案用紙を持ってマジマジの部室に集まった私たち。
今日は、テストの結果を発表する会でした。といっても、私、勇香ちゃん、きとんは問題ないことがわかっているので、発表するのは言わずもがな、この二人。
「いやぁ、この数日は実に大変だったな」
腕を組みながら目を閉じる小悪ちゃん。
「わたしたち、すごくがんばったよね」
穏やかな微笑みの魔奇さん。
「では、解答用紙をオープンしてください」
勇香ちゃんに言われ、二人は優雅な手つきで裏返してあった全教科の紙をめくります。
「ふふ、我らを甘く見るなよ」
「見くびってもらっちゃ困るんだから」
自信満々な二人に、私は拍手の準備をしました。ところが。
「これは一体…………」
唖然とする勇香ちゃん。
「とんでもないにゃ」
驚きのあまり、三角耳が飛び出るきとん。
「すごい点数……」
初めて見る点数に、現実を疑う私。
「どうだ、驚いたか?」
胸を張る小悪ちゃん。
「びっくりしたでしょー」
右に同じ魔奇さん。
「呆れた。全教科赤点じゃないの」
嘲笑するシロツメちゃんの声が教室を貫きました。
全員が沈黙し、そして。
「いや、無理だって! まじで難しかったんだぞ! 我らを甘く見るな! できるか!」
「あんまり見くびらないで! 逆の意味で!」
爆発した二人。勇香ちゃんは机に広がった赤い色の数字に声を失います。どれもこれもが一桁でした。
「十点まんてんだったかにゃ?」
きとんが現実逃避し始めました。
「で、でもさ、期末テストの範囲って広いじゃない? 対策しても取りこぼすことはあると思うんだけど……」
上目遣いに言う魔奇さんに、勇香ちゃんは首を左右に振ります。
「範囲が広いというのは言い訳です。大学受験の前で同じことが言えますか?」
「だ、大学受験はだいぶ先じゃん……」
「あっという間ですよ。進学の予定が一ミリでもあるのなら、毎回のテストに気を抜いてはいけません」
「気は抜いてないぞ。抜けたのは魂だ」
反論する小悪ちゃんですが、勇香ちゃんの視線を浴びて顔を背けました。
「ねえ、全教科赤点だと、夏休みの前半は補習と追試で終わるよね」
言わないでおきたかったですが、言わないわけにはいきません。二人が胸を押さえて苦しそうに身体をよじりました。
「マジマジなつやすみ、さよなら?」
さみしそうなきとんに、うめき声が追加されます。
「スペルは魔法の勉強もあるわよ」
刃のような追い打ちをくらい、魔奇さんはついに椅子から転げ落ちました。受け身も取らずに、床にたたきつけられます。机の上の紙が数枚、ひらひらと舞い上がりました。
「だ、大丈夫?」
慌てて駆け寄り、肩を揺らしますが反応がありません。
「しんだ?」
縁起でもないことを言うきとんの頬をつつき、魔奇さんの介抱を始めます。小悪ちゃんも椅子に座りながら真っ白です。
「まさか、お二人がここまで強敵だとは思いませんでした」
悪気ない一言が二人の傷をえぐります。
「私の力が及ばず、申し訳ありません」
責任感の強い勇香ちゃんは、赤点が回避できなかったことを自分のせいだと思っているようでした。
「いや……、謝るな。この点数を取ったのは我なのだから」
「ほんとそう……。それにね、教えてもらったおかげで解けた問題もあるんだよ。だから、勉強会は役に立った。絶対に」
小さくなってしまった勇香ちゃんを慰めるぼろぼろの二人。だいぶ心配な光景になっています。
「すぐに成績が伸びるわけでもない。今後も頼んでいいか、勇香」
「テストはまだまだあるからね。お願いします、先生」
二人から伸びる手。勇香ちゃんはぱちくりと目を開くと、迷いのない動作で握りました。強い頷きをし、「お任せください!」と胸を張ります。同じ行為なのに、小悪ちゃんとはえらい違い……おっと、いけない。
「よく遊び、よく学ぶ。我らはそれを体現しているのだ」
物は言いようですね。
「補習と追試といっても、夏休みずっとじゃないからね。終わったらマジマジで夏の思い出を作ろう!」
元気よく片手を突き上げた魔奇さん。きとんがにゅっと顔を出して床に落ちた紙を覗きこみます。
「しちがつ、ない」
ぼそっとつぶやかれた言葉に、回復してきた二人が再び胸を押さえます。尋常でない量の冷や汗が流れていました。
紙を拾って見ると、補習対象者に配られた日程表でした。書かれたスケジュールにぎょっとします。
「こ、これはすごい……」
夏休み初日から埋まる時間割。全教科赤点の為、ほぼ毎日補習が予定されていました。これでは普通に学校に来るようなものです。
二人の夏休みってあるのかな。そんな心配をするほど、スケジュールはみっちり詰められています。
それだけではありません。七月末に設置されている追試で一定の点数を取れなかった場合、さらなる補習が八月に……。
「えっと……、どうする? 今日は結果発表だけの予定だったけど、勉強していく?」
脳内に出現したマジマジの夏休みが崩壊していくイメージ。どうにか回避しなくてはいけません。私が追試を受けるわけにもいかないので、二人にがんばってもらわないと。
「うん、やるのだ……」
「わたしも……。みんなで夏休み楽しみたいから……」
よろよろと机に向き直る彼女たち。力の入らない手でシャープペンシルを持ちました。
「お二人の心意気、しかと受け取りました。がんばりましょう!」
はつらつとした声で髪を縛った勇香ちゃんは、さっそく教科書を広げます。きとんもノートを持って椅子に座りました。
さて、私は何をしましょう。点数的には勇香ちゃんときとんの下なので、サポートに徹するのが適している気がします。
とりあえず、今日も時間がかかりそうな勉強会の為、飲み物でも買ってきましょう。そう思って席を立つと、くつろいでいたシロツメちゃんが肩に飛び乗ってきました。
「あたしも行くわ」
「魔奇さんのそばにいなくていいの? かなり傷心しているみたいだけど」
両者の関係性を考えるに、優しいフォローはしないと思いましたが、放っておいてもいいものでしょうか。
シロツメちゃんは短い手をぺろぺろと舐めながら、ふすんと鼻を鳴らしました。
「赤点常習犯の傷心姿なんて結構よ」
ああ……、不名誉な称号がついてしまった。
お読みいただきありがとうございました。
コメディ担当の魔女と魔王。




