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67話 七夕と天体観測 前編

閲覧ありがとうございます。

見えないものを見ようとして望遠鏡を覗きこんだり覗きこまなかったりする話。


 細長い長方形の紙を眺めながら、私はペンをくるりと回します。ここに何を書くか、決められずに数十分が経とうとしていました。難しく考える必要はないとわかっていますが、いざ書こうとすると指が動かないのです。


「うーん……」


 唸りながら顔を上げ、いつも勉強に使っている机の上に置かれたカレンダーに目をやります。うさ之助が、私が持っている紙とそっくりな紙を持ち、わさわさの葉の前に立っている絵が描かれています。


 七月のイメージとして挙げられやすいイベントのひとつ、七夕。みんなで楽しもうと行動するマジマジは、例のごとく七夕について話をしました。まず、活動するか否か。


「みんながよければ、わたしはぜひやりたいな」

「まあ、何かネタがあった方が活動しやすいな」

「断る理由はありません」

「しほがやるならきとんもやる」


 私も否定する理由はなく、すんなりとマジマジ七夕イベントの開催が決定しました。


「七夕といえば、短冊だよね」

「紙を長方形に切って、笹の葉に吊るせばいいんだよな」

「短冊はいいとして、笹の葉はどう準備するのですか?」

「売ってるにしても、買ってくるのかって話だよね」


 腕組みをする魔奇さんは、「お金のことを考えると、一回きりで使わないものを買うのはなぁ……」と唸ります。


「笹の葉にこだわらないなら、短冊を吊るすことに重きを置こうか?」

「だね。学生だもん。楽しくやれれば、わたしは嬉しいよ」

「七夕といえば、天の川が思い浮かぶな。そうだ、天体観測なんてどうだ?」


 人差し指を立てる小悪ちゃんに、「それこそ高いよ」と笑う魔奇さん。


「うちの学校、天文部ないからなぁ」

「やっぱり、望遠鏡が高いからなのでしょうか」

「考えられる理由はそれだろうね。天体観測ができる施設を使うとしても、ここからだとかなり距離があるし、夜の活動は先生の引率が必須だったはず。活動が難しい部活なんだろうね」

「ほし、よるみえる。なんでぼうえんきょう?」


 不思議そうなきとんに、「肉眼では見えないものを見るんだよ」と説明します。


「地球からとても遠いところにある星とかね」

「なんでみる?」


 想定外の質問に、「すごいなぁって思う為……?」と語彙力のない答えをしてしまいました。星を見るのは、星を見たいからじゃないかなぁ?


 望遠鏡だって、自分の目では見えない何かを見る為の物だと思いますし……。ほら、星の光にも強さがあって、六等星はとても弱い光だとか……。


「……あ、そういえば」


 ふと、思い出したこと。六等星の夜に望遠鏡があったような。


 そのことを伝えると、「六等星の夜で天体観測ができるのか?」と小悪ちゃんが前のめりになりました。


「わからない。ただのオブジェかも」

「わからないなら持ち主に訊いてみればいい」


 彼女は私の携帯電話を見下ろします。


「今は営業中のはずだから、返信来ないかも」


 一応、メッセージを送信しました。数秒後、ぴろんと音が鳴ります。画面には『星奈さん(六等星マスター)』からの新着メッセージが届いたことを報せる文字。おかしいな、仕事してる?


「マスターか? なんて?」

「昔、もらった望遠鏡なんだって。まだ使えるよって書いてある」

「おお! ついでに使用許可も取ってくれ!」

「自由に使っていいとも書いてある」

「さすがマスター! 仕事がはやいなっ」


 満面の笑みの小悪ちゃん。仕事がはやいというか、本来の仕事をしていないような気がします。


「でも、星を見るなら夜だよね。わたしたち、夜に活動したことないけど、大丈夫かな?」

「六等星を使うなら、星奈さんがいるから親の許可は得られると思うよ」

「我も問題ないぞ」

「わたしも一人暮らしだから、特には」


 みんなの視線を浴びた勇香ちゃんは、申し訳なさそうに首を横に振りました。


「すみません、私はちょっと」

「いいのいいの。気にしないで。各自、プライベートを優先してね」

「いつも来ない名誉部員もいるしな」


 口角を上げる小悪ちゃんは、携帯電話を操作していた私を横目で見ます。その意図を理解し、「今回もパスだって」と画面を閉じました。


「でも、短冊は学校で書いてくれるみたいだから、勇香ちゃんもどう?」

「ぜひ。私の分まで星に届けてください」


 こうして、無事に星奈さんと親の許可を得たマジマジは、明日の夜、六等星で天体観測をすることになったのでした。


 勇香ちゃんと明杖さんに事前に書いてもらった短冊は机の上にあります。もちろん、見てはいませんよ。


「うーん…………」


 再び唸りながら、白紙のまま放置されている紙に顔をうずめます。


 願いごと。昔は悩むことなく書いたような気がするのですが、なぜか今日はペンが動きません。何を書こう。何を書けばいいんだろう。私はどうしたいのかな。


 形の定まらない思考が脳内で動き回り、遠くに霞む願いごとを隠しているようでした。大きく深呼吸をし、時計を見ます。いつの間にか、日付が変わる頃でした。いけない、そろそろ寝ないと。


 悶々と悩んでいても仕方ありません。しっかり睡眠をとり、朝日を浴びれば考えもすっきりするでしょう。


 そう思い、私は短冊を机の上に置いたまま、ベッドの中に潜り込みました。

 明日は七夕。天体観測の日。きっと、いいことがあるはずです。


お読みいただきありがとうございました。

七夕になると、笹を担いだ経験を思い出します。ワサァ……。

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