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57話 騒動の終わりと始まり

閲覧ありがとうございます。

文化祭も賑やかになってきましたね。


 西棟四階、マジマジ部室にて。

 私ときとんを除く三人が地球外からやってきたという少女をじっくりと見ていました。あ、まじまじと見ていました。


「しほ、いいなおす、いらない」

「ごめん、つい」


 相変わらず不満そうなきとんは、後ろから手を回して私にくっついています。細めた金色の目は宇宙人こと天河空乃さんに注がれ、一挙手一投足を見逃しまいと強い光をたたえています。


「それにしても、よく食べるやつだな」

「よほどお腹すいてたんだねぇ」

「食事は命に直結します。遠慮せずに食べてくださいね」

「アリガト、アリガトデス~」


 屋台で買ってきた食べ物を口いっぱいに頬張りながら、天河さんは満面の笑みを浮かべます。きとん以外の人々の間に、ほっと落ち着いた空気が流れました。


 UFO墜落事件、もしくは事故の騒動のあと、ケガ人もおらずグラウンド以外に被害もなかったことが確認され、ひとまず解散となったのでした。


 昼休みが少しだけ延長されることになり、私たちは部室で休憩の続きがてら、天河さんと話をすることに。


 もちろん、事前に先生には話を通し、許可を得ています。といっても……。


「へえ、宇宙人が来たのか。でも俺、日本の法律しか知らねえから、どう対応すりゃいいかわからんぞ。一応、連絡はしておくから好きにしてくれ」


 あまり驚いた様子もない先生は、携帯を取り出すとどこかに電話をしていました。警察かな?


「天河空乃さんだっけ。UFOは自分で操作してきたの?」


 興味津々の魔奇さんが身を乗り出します。


「ソラノでいいデス。イエース。ワタシのホシ、フネの免許取らないと旅行の許可おりまセン」

「地球は初めて来たのですか?」

「イイエ。四回目デスネ。ワタシ、チキュウの文化スキデス。特に日本の文化スバラシイネ」

「外国人観光客ががんばってしゃべっているみたいでもどかしいな」

「母語でないのですから、じゅうぶん上手ですよ」

「わかっているが、そわそわするんだ。空乃、ゆっくりでいいからもうちょっとがんばってみてくれ」


 そこそこ無茶ぶりな小悪ちゃんに、天河さんは指で丸を作りました。


「あ、別に普通にしゃべれますよ」

「しゃべれるんかい」


 思わず全員の声が揃いました。


「じゃあ、なんでカタコトで話すんだ」

「その方がウケがいいからです。アナタの言うように、外国人観光客だと思われてサービスしてくれる人も多いので」

「こやつ、意外とあくどいぞ」

「世渡り上手と言ってくださいな」


 とびきりの笑顔で言うと、上手に箸を持って焼きそばを食べる天河さん。あ、そういえば箸の使い方も上手です。四回も地球に来ているだけのことはありますね。


「ところで、空乃さんはこれからどうするの? 移動手段のUFO……船がないと地球を出られないよね」


 魔奇さんが本題に入ります。


「困りました。どうにか直す方法を見つけないといけま――おっと、いけまセンネ」

「それ、まだやるのか?」

「ワタシのアイデンティティデスネー」

「まあ、好きにしたらいいが」


 ひたすら料理を空にしていく天河さんを見ながら、やや呆れた息をはく小悪ちゃんは、「すぺるの魔法で直せないか?」と彼女に話を振ります。


「直せなくはないと思うけど、わたし修理系の魔法やったことなくて」

「魔法にも色々あるのですね」

「うちではお父さんが直していたから、必要がなかったんだよ」

「すぺるさんの御父上も魔法が?」

「ううん。ただ手先が器用な人間。近隣の人に頼まれて機械の修理とかやってたよ」


 一家に一人は欲しいタイプです。


「デハ、その人に頼みたいデス」

「うちの実家、ここからかなり距離あるけど……」

「ダメデス?」


 星のような瞳が潤みます。魔奇さんが「うっ」と身体を引きました。


「持って行くのは大変だから、お父さんがこっちに来る時に直してもらうなら……」

「ゼヒ、お願いしマス!」

「でも、いつになるかわからないよ? それまでどうするの?」

「そうデスネ……、日本の文化スキなので、ガッコウ通ってみたいデス!」

「学校体験ならどこかでやっていそうだね」


 携帯の画面に視線を落とす魔奇さん。こちらに向けられたページには『一泊二日、廃校を使った学校体験!』の文字。


「ずっと体験でしのぐのは厳しいんじゃないかな」

「だよね。どこか暮らす場所を確保しないと」

「住み込みのバイトはどうでしょう。お金も稼げますし、住む場所にも困りません」

「おお、いいね。さすが勇香ちゃん」

「お褒めにあずかり光栄です」


 すらすらと検索する魔奇さんは、再び画面を向けました。


「この近くにもいくつかあるみたい。そもそも、宇宙人でも大丈夫なのかな?」

「それはたぶん、大丈夫かと」

「そうだな」


 なぜか、あっさりと頷く勇香ちゃんと小悪ちゃん。そのまま口を閉ざすので、理由を言うわけではありません。なんでだろう?


「なんとなく話はまとまったみたいだね。墜落したUFOはどうしよっか」

「あ、そのことなんだけど」


 魔奇さんが杖を持ちながら手を挙げます。


「部室に戻ってくる時、先生たちからお願いされて……」


 彼女は視線を天井に向けます。「この上にあるよ」


「この上って、まさか」

「そう、学校の屋上。めっちゃがんばって運んだよ。さすがに重かったな。何で出来てるのやら」

「ワタシのフネ、屋上にあるデスカ?」

「うん。なんか、モニュメントみたいになってる」


 思い出したのか、彼女は笑いながら頬をかきました。


 その時、昼休みの終了を報せる予鈴が鳴りました。いけない、私は午後一番のシフトです。準備しなくては。


「天河さん、ひとまずこの部室を使っていてもいいから、屋上には行かないようにね」

「わかりまシタ。シホサンのいうことは聞きマス」

「でも、せっかくの文化祭なのに、ずっと部室だとつまらないよね」


 片づけを始めた魔奇さんが寂しそうに言いました。


「我らの目が届くところに置いておけばいいではないか。その方がきとんも安心だろうからな」


 ひっきりなしに威嚇の音を出し続けるきとんを横目に、小悪ちゃんが「どうだ?」と人差し指を立てます。


「そうだね。せっかくだし」

「では、先生には私から伝えておきます」

「ありがとう、勇香ちゃん。天河さん、あなたがよければ一緒に行こうか」

「いいのデスカ⁉ うれしいデス! ブンカサイ、資料で見まシタ」

「きとんもいく!」


 天河さんに飛びかかる勢いできとんが両者の間に割り込みます。


「きとんはシフト終わったでしょ? 回ってきていいんだよ」

「いやだ、いっしょにいく。きとん、こいつまだしんようしてない」

「あらら」


 そんなことを言われれば、無理に引き離すこともできません。幸いだったのは、面と向かって信用ならないと言われた天河さんが気を悪くした様子がないことです。慣れているのか、頬に手を当ててにこやかな表情を浮かべています。


「それじゃあ、午後の部がんばろうね」


 なんともいえない空気を破るべく、私は後ろに引っ張られる重力を感じながら言います。

 きとん、背後から抱きつかないで。あんまり力を入れると倒れ――ああああ。


お読みいただきありがとうございました。

魔女も魔王も勇者も化け猫もいるので、宇宙人がいても何も不思議じゃないです。

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