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56話 宇宙人

閲覧ありがとうございます。

こんにちは新キャラ。


 校舎を出ると、先生たちが集まって野次馬の生徒たちを誘導していました。集団の向こうにはもくもくと上がる煙が見え、辺りは騒然としています。


「む、見えんぞ」


 必死に背伸びする小悪ちゃんですが、身長がまるで足りません。


「わたし、飛んで見てこようか?」


 いつの間にかほうきを持つ魔奇さんが提案します。


「まず、ケガ人の有無が知りたいのですが、どうしましょう」


 真剣なまなざしでグラウンドに目をやる勇香ちゃんは、我慢できずに近くの教師に駆け寄っていきました。


「勇香は放っておけ。ああなると止まらんからな」

「私たちに手伝えることあるかな?」

「うーん……。そう言われると困るな。なにせ、UFOなんて初めて見た」

「本物なのかな?」


 どことなく高揚感を隠しきれない魔奇さんがかかとを上げます。


「UFOは魔王の管轄ではない。どちらかといえば魔法使いじゃないか?」

「魔法をなんだと思ってるのよ」

「浮遊魔法は魔法使いの十八番だろう」

「そうでもないよ。中にはめちゃくちゃ苦手な人もいるってお母さんに聞いた」

「浮遊魔法も使えんとなると、もはや他の魔法も使えんだろう」

「それは言えてるかも」


 二人の会話を聞きながら、ざわめきに耳を押さえるきとんを抱きしめます。聴覚が優れているきとんは、こういった状況に適しているとは思えません。


「魔奇さん、小悪ちゃん。私ときとん、ちょっと離れたところにいるね。何かあったら教えて」

「わかった」「うむ、承知した」


 人の波をくぐりながら、なるべく人気のない場所へと歩いてきました。校舎に戻ることも考えましたが、外の風に当たる方がいいと思った私。


 東棟の校舎脇に沿って伸びている植え込みはきれいに剪定されています。西棟まで続く植え込みは、ふさふさと生命力を強固に感じさせ、衝撃を吸い込んでくれそうなくらい葉が密集しています。きとんが座ってもへこたれないでしょう。百人は無理だと思います。


「耳どう?」


 石の階段に腰かけ、彼女の顔を覗きこみます。


「もうへいき」


 三角耳をしまった頭部に手を当て、八重歯を見せました。


「そう、よかった」


 安心し、視線をグラウンドに戻します。かなり隅の方まで来ましたが、わずかに銀色の物体と煙が見えました。さて、どうなることやら。


「しほ、おとする」


 しまっていた三角耳が出現し、力を込めて前方に開いています。


「音? 生徒たちが騒ぐ声じゃなくて?」

「ちがう。ひとり」


 きとんが警戒心を露わに鋭い牙を覗かせます。ゆっくりと動かした手には先の尖った爪が光ります。


「きとん、何かいるの?」

「んにゃぁ……、そこ!」


 金色の瞳がカッと見開かれ、植え込みに向かって飛びかかるきとん。驚いて立ち上がり、彼女のあとを追いました。


「きとん! 大丈夫? どこにいるの?」


 ふさふさ過ぎる植え込みを覗きながら声をかけますが、ふさふさ過ぎて何も見えません。なんでこんなにふさふさなの? なんの植物、これ?


「んにゃう、にゅあ」


 猫の鳴き声――否、きとんの声がして顔を向けると、


「タ、タスケテ! タスケテ、クダサイ!」


 きとんの爪に掴まり、涙目で助けを乞う少女がいました。


「きとん……、その子は?」

「おとのしょうたい。におい、ちがうからつかまえた」

「匂い?」


 えっ、体臭ってことですか?


「おまえ、けむりのにおいする。あと、しほとはちがうにおい」

「それは多分、ワタシがこことはチガウホシから来たからデスネ」


 だいぶカタコトな話し方で、きとんにホールドされた少女は言います。


「違う星? 地球じゃないってこと?」

「イエース。ワタシ、とても遠いホシからきマシタ。チキュウには遊びに来たのデスが、乗ってきたフネ、途中で壊れたネ」


 乗ってきた船。まさか、それって。


「UFOのこと?」

「オオ、イエス。チキュウ人、フネのことUFOって呼びマス」


 少女は大きく頷きますが、警戒心むき出しのきとんに牙を立てられ静止しました。


「オ、オオ……。この子、とてもこわいデス。ワタシ、なにもしまセン。離してクダサイ……」

「ふね、おちた。なにもしてない、うそ」

「ウッ……、それはそうデスネ……」


 正論に胸を抑える少女。爛々と光る金色の目に睨まれ、冷や汗を流しながら顔を逸らします。


「はやくどっかいく」

「そうしたいのはヤマヤマなのデスが……」

「もんだいある?」

「問題も何も、ワタシのフネ、あのざまデスネ……」


 煙が天高く昇っていきます。どう考えても無事ではありません。


「フネの修理しないと、ワタシどこにも行けまセン」


 その時、少女のお腹から元気の良い音が鳴りました。みるみるうちに顔を真っ赤にし、きとんの睨みも気にせず顔を覆う彼女。


「お腹すいたの?」

「そ、そうみたいデスネ……。トテモ恥ずかしいデス……」


 色々考えることはありますが、ひとまず。


「しほ!」


 きとんが咎めるような声をあげました。


「エッ……? な、なんデスカ?」


 少女がぽかんと私を見ます。

 手を差し出した私は、「まずはご飯食べよっか」と笑顔を浮かべます。


「しほ、こいつうちゅうじん。よくわからない。ごはんあげる?」

「きとんにもミルクあげたでしょ」

「うにゃっ……、そ、そうだけど」


 彼女が心配することも理解しています。それでも、目の前で困っている、お腹を空かせている人を無視することはできません。


「……しほのおひとよし」


 不満そうに頬を膨らませつつ、服に刺していた牙を引き抜きました。鋭い爪も収納し、少女を解放します。


 うにゃうにゃ言いながら、私の背にくっついてじろりと少女を睨むきとん。


「しほになにかしたらゆるさない」

「な、なにもしまセン! ワタシ、ただのカンコウキャク!」


 全力で手を振る少女は、遠慮がちに私の手を握りました。力を込めて引っ張り、植え込みから救出します。


「アリガトウ、デス……」


 結ばれた手に視線を落とし、頬を染める少女。しかし、きとんの威圧に負けて離しました。

 私の後ろで「シャー」と鳴くきとん。それ、初めて聞いたんだけど……。


 かつてなく猫らしい彼女の頭を撫で、「よろしくね」と挨拶します。


「ヨ、よろしくお願いしマス。ええと……、シホサン?」

「うん。あなたは?」

「ワタシの名前、チキュウ人には発音できまセン。カンコウで使っている名前でもいいデスカ?」

「うん。教えて」


 少女は安心したように頬を緩ませ、胸に手を当てます。


「ワタシ、天河(あまかわ)空乃(そらの)ともうしマス。シホサン、タスケテくれてアリガトウ」


 星のように煌めく金髪が風に揺れ、同じ色の瞳が私を見つめました。


お読みいただきありがとうございました。

サブキャラ天河さんをよろしくお願いします。

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