53話 徒然祭開幕
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文化祭です。
不津乃高校文化祭、徒然祭初日。
その日は朝から弾けるような空気が学校中を満たし、すれ違う生徒たちの顔には抑えきれない期待と高揚が浮かんでいました。
「それでは、全力で楽しみましょう。一年二組、おばけ喫茶開店です!」
時間ごとに担当が決まっているので、それまでは自由に文化祭を見て回る予定です。事前に確認したところ、一緒に回れるのは小悪ちゃんときとんの二人。
最初の時間担当である魔奇さんが泣きそうな目で私を見ます。
「みんなと一緒の文化祭……、ううぅぅぅ~……」
「明日は回れる予定ですから、今日は我慢しましょう」
彼女の隣で勇香ちゃんがバインダーを手に慰めています。彼女は担当こそないものの、委員長として全体をまとめる役割を担うそうです。時間があれば合流できるかもしれませんね。
「せっかくだし、わたしが店員の時に遊びに来て」
不幸を幸にすべく、魔奇さんが素敵な提案をします。私はしっかりと頷きます。
「うん。絶対行くね」
名残惜しそうに手を振る魔奇さん。「時間だよ~」と近づいてきたクラスメイトに白い布を被せられていました。
「アッ、平良さんたちが見えな――」
「行くよ~」
連れ去られました。
「なんか、すぺるはいつの間にかおもしろいキャラになったな」
「打ち解けたってことかな?」
「志普は適した言葉を選ぶのがうまい」
「ありがとう。じゃあ、いろいろ見に行こっか」
小柄な小悪ちゃんとさらに小柄なきとんに挟まれ、私は徒然祭パンフレットを片手に学校を渡り歩くことに。
「甘い匂いがするぞ?」
「家庭部がお菓子を売っているみたいだよ」
「しほ、おはなある」
「華道部の作品だね。文化祭用に作っていたみたい」
「準備期間は部活動休止だったと思ったのだが、書道部のパフォーマンスなんてあるのか」
「文化祭がひとつの発表の場になっている部活動は許可を取って活動していたよ。基本的に毎年同じ部活だけどね」
「そうなのか。ふむ、おもしろそうだ」
「しほ、しほ。あれなに?」
きとんが窓の外を指さします。普段は何もない通路に並んでいるのはたくさんの屋台。風に乗って香ばしい匂いが漂ってきます。
わたあめ、たこ焼き、りんご飴、チョコバナナ、焼きそば、冷やしキュウリ……。パッと見ただけでもお祭りで定番の文字がずらり。
「今日のお昼ご飯は屋台で買おうね」
「だからおべんとうない?」
「うん。明日もそうだよ」
「やたい、たのしみ。きとん、わたあめたべたい」
「じゃあ、買いに行こうか」
一般公開ではない今日は、普通に昼休みが設定されています。お昼ご飯は魔奇さんと勇香ちゃんも加わる予定でした。
ひとまず、きとんにわたあめを買い、そのままいくつかの教室を見て回ります。
「小悪ちゃん、おばけ屋敷あるよ」
「うむ。明日行く予定だ」
「今から行かなくていいの?」
「すぺるがいないとな」
彼女は魔王らしく、かなり悪い笑みを浮かべます。クマのぬいぐるみで口元を隠しますが、滲み出るオーラが隠しきれていません。
「ああいうのはリアクション芸人がいないとつまらん」
魔奇さん、リアクション芸人なの?
「じゃあ、さっそく一年二組に行く?」
小さな二人は楽しそうに頷きます。うーん、やっぱり保護者の気分。
「きとん、危ないから割り箸ちょうだい」
「んにゃ」
食べ終わり、まだ甘い割り箸を咥えていたきとんは素直に差し出します。正直、怖くて見ていられませんでした。幼児を連れている親御さんって、こんな気持ちなのかな。
しっかり真っ二つにし、燃えるゴミ箱に捨て、私たちは一年二組にやってきました。
「ずいぶんかわいいではないか」
「うちはキュート路線だね」
つぶらな瞳のカラフルなおばけたちがお出迎え。こわーい感じに舌を出していますが、どう見てもキュート。明杖さんと切ったおばけを見つめ、ひとり小さく微笑みました。
椅子に座って順番を待っていると、近くで甲高い悲鳴が聞こえました。きとんがバッと三角耳を出し、警戒します。
「なんだ?」
「隣のクラスでおばけ屋敷をやっているみたい」
「なるほど。あやうく被るところだったな」
「そうだね」
「次の方、どうぞー」
案内役のおばけに呼ばれ、私たちは暗幕がかけられたドアの先へと進んでいきました。
お読みいただきありがとうございました。
どんどん庇護欲に駆られる平良さん。




