49話 おばけ製造機
閲覧ありがとうございます。
文化祭準備中です。
文化祭の準備期間に入り、放課後は午後七時まで残ることが許可された日。
この期間は部活動やサークル活動が停止される為、一年二組の教室内は用事がある人以外揃っていました。普段、すぐ帰ってしまう人もいるので、すでに非日常感が漂い始めています。
装飾担当の私は買い出しに行ってくれた人を待つ間、何を作るか相談していました。
はさみやのり、ホッチキスやガムテープなどを広げ、足りないものを補充したり。作るものの型を作成して確認してもらったり。やることはたくさんです。
「平良さん、厚紙追加でもらってきたよ」
「ありがとう、明杖さん」
机や椅子を移動させ、広めの空間を作った場所から離れ、隅の方で座りながら作業する装飾班。なるべく他の人のスペースを確保しようと詰めて座っている為、必然的に隣の人とも近くなります。
「何か手伝うことある?」
「とりあえず、ひたすらおばけを切っていくところ。はさみが余っていたらお願いしてもいい?」
「わかった。……廊下って空いてるかな?」
座る場所がなく、開いたドアに目を向ける明杖さん。外からは賑やかな声が聞こえてきます。
「廊下はメニュー担当の人たちが使ってるよ。私の隣なら空いてるからどうぞ」
荷物を置いていたので、避ければスペースができます。他の人の迷惑にならないよう、かなり隅を陣取ったので出るに出られませんが。
厚紙を切りながら普通に言ってしまった数秒後。ぴたりとはさみが止まりました。
いや、ちょっと待て? こんなところじゃ作業しにくいですよね? 動かした机に厚紙は当たるし、他の人からは全然見えないし、存在に気づいてもらえない位置です。
一度座れば、しばらくおばけ製造機に成り果てるしかありません。私はともかく、明杖さんを巻き込むなんて……。
誘ってすぐに否定するのも気が引けますが、今後を考えると、もっと広い場所がいいでしょう。慌てて顔を上げますが、そこに彼の顔はありませんでした。
「じゃあ、お言葉に甘えて失礼します」
すとんと座った明杖さん。はさみを持って厚紙を切り始めます。
「あ……、えっと、ここでよかった?」
よくわからない質問をしてしまいました。彼はきょとんとしながら手を止めます。
「だめだった?」
「いや、明杖さんがいいならいいけど……。ここ、狭いからあれかなって」
「ああ、そういうこと。しばらくはおばけ製造機になるつもりだから平気だよ」
想定外の言葉に喉が詰まり、咳き込みました。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。なんでもない……」
明杖さん、おばけ製造機とか言うんだ。魔奇さんなら言いそうだと思っていましたが、これは想像していませんでした。変化球です。
「このおばけ、平良さんが描いたの?」
「うん。先に描いておいた方が切る時にラクかなって」
「いいね。僕、絵は描けないけど切るのは得意だから助かるよ」
黙々と切るのもいいですが、こうしてのんびりと話しながら作業をするのもいい感じです。カラフルなおばけが楽しそうに見えました。
「切るのは得意って、何か趣味でやってるの?」
「趣味ってわけじゃないけど、切り絵をやってるんだ。手先の訓練をしなきゃいけなくて」
「切り絵? すごい。見てみたいな」
話しつつも作業に集中しているからでしょうか。なんだか、あっさりととんでもないことを言ってしまった気がします。
隣から絶えず聞こえていた声が途切れました。あ、実はナイショの事だったかな。
社交辞令で『見たい』と言ったわけではないので、「やっぱりなし」とも言えず、言葉に迷っていると。
「上手に作れたら見せるね」
「……ほんと? ありがとう、楽しみにしてる」
全部本心です。嘘を言う必要はないのですから。
「平良さん、好きな花はある?」
「好きな花? そうだなぁ……、シロツメクサが好き」
「そっか」
彼はそれ以上何も言いませんでした。私も何も言いませんでした。話に飽きたのではなく、別のことを考える為に沈黙が必要だとわかっていたからです。
言葉はなく、厚紙を切る音だけが流れていきます。二人の真ん中にある机には、どんどんおばけが増えていきます。カラフルな彼らは、少しお間抜けな顔で私たちを見ていました。
お読みいただきありがとうございました。
たまには明杖さんを出してあげたい気持ち VS. でも女の子を書いている方が楽しい気持ち VS. 天目兎々




