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48話 文化祭が近い

閲覧ありがとうございます。

学園物語ならばやらずにはいられない文化祭。


 六月に入ると、()()()高校はわずかに騒ぎ立ちます。

 それもそのはず。中間テストが終わり、ほっと一息ついてすぐにやってくる一大イベント。学校全体がお祭りムードになり、普段の高校生活から逸脱する二日間。そう――。


「今日は文化祭の出し物について決めるぞー」


 気怠そうな先生の声は相変わらずですが、教室内は歓声があがります。この為に中間テストをがんばった生徒も多いでしょう。私も楽しみにしていました。


 不津乃高校文化祭、徒然(つれづれ)(さい)

 退屈を吹き飛ばす楽しい時間を過ごしてほしいという願いとともに、文化祭を行える穏やかで普通の日常を大切にしてほしい。そのような思いから名付けられたそうですが、真相は不明です。なにはともあれ、文化祭がやってくることに違いはありません。


「あとは任せる。委員長ー、よろしくなー」


 呼ばれて黒板の前にやってきたのは勇香ちゃんです。いつの間にか、先生まで委員長呼びをしています。あとは生徒たちの仕事、とでも言わんばかりに椅子に座り、眠そうな先生。たしかに、文化祭は生徒が主役みたいなものですけど。


 前の方の席に座っている生徒が冷ややかな視線を浴びせます。先生は「ごめんって……」と姿勢だけ直しました。眠そうなのは変わりません。お疲れでしょうか。


「では、みなさんがやりたいと思うクラスの出し物について話し合います。ひとまず、できるできないにかかわらず、案を出していきましょう」


 勇香ちゃんの言葉を皮切りに、あちこちから文化祭らしい案が飛び出します。彼女はひとつずつ黒板に書き出しつつ、上手にジャンルごとに分けているようでした。


「わたし、男装女装喫茶やりたいです」


 魔奇さんも案を出します。こちらを見ると、楽しそうに「アニメで見たやつ!」と教えてくれます。喫茶店は定番ですよね。


「やはりおばけ屋敷だろう。我の恐るべし配下たちを貸してやってもいいぞ」

「きとん、おいしいごはんたべたい。ホットミルクやさんはどうにゃ?」


 右方向から聞こえてくる案。おばけ屋敷も定番中の定番です。ホットミルク屋さんは初めて聞きましたが、おいしそうですね。ただ、気温が上がっていく季節なので、牛乳の管理が怖いところ。


「平良さんはなにやりたい?」

「そうだなぁ……。みんなでわいわいできるものがいいな」

「具体的には?」

「物語の劇とか楽しそう」

「演劇? 人前でやるのは緊張しちゃうなぁ……。わたし、木の幹役ならできるよ」

「そこは魔女役じゃないんだ?」


 そうしている間に、黒板には多数の案が書き出されていました。


「では、希望の案に手を挙げてください。みなさん、顔を伏せて」


 一斉に机に伏せると、先生が「集団昏倒だ……」と真面目なトーンでボケました。誰も何も言いませんでした。


 投票が終わり、全員が顔を上げます。正の字で書かれた票数が目に入りました。一応、言ってみた物語の演劇にも票が入っていて驚きです。


「票数の多い案を絞り、再度投票を行いたいと思います」


 勇香ちゃんが黒板消しで文字を減らしていき、最後に残ったのはおばけ屋敷と喫茶店。魔奇さんと小悪ちゃんが出した案でした。現時点での票数はほぼ同じ。互角の戦いでした。


「一緒にやればいいんじゃないか?」


 何気なく言った先生に、生徒たちの視線が注がれます。彼は慌てて身を縮めましたが、生徒の顔は動きません。勇香ちゃんもハッとした表情で先生を凝視しています。


「な、なんだよ。悪かったって。教師が口出しするなってことだろ。黙ってるから決めな……」

「いえ、それは良い案です、先生」

「おお? 何がだ?」

「おばけ屋敷と喫茶店。一緒にやればいいのです」

「できるか? かなり系統が違うと思うが」

「そこはこれから考えるのです。どうでしょうか、みなさん。せっかくの文化祭です。一つに絞るのではなく、織り交ぜて私たちの作品を作る。出来上がるまでの過程も思い出になると思います」


 勇香ちゃんの声かけにクラスメイトたちは頷きます。


「もちろん、大変なのは承知です。嫌だと思う気持ちもひとつの意見ですから、遠慮なく言ってください」


 それとなく周囲を見渡す生徒たち。反対の声をあげる人はいません。……まあ、ここでノーと言える空気でもないのですが。


 しかし、一番後ろの席から様子を窺っている限り、気持ちを押し込んでいる顔の人はいません。誰もが文化祭への期待を抱いているようでした。大丈夫……かな?


「では、一年二組はおばけ屋敷と喫茶店を一緒にやります。詳しい内容はこれから決めていきましょう」


 そして、議題は出し物の詳細へと移っていきます。思い思いに意見を言い、勇香ちゃんがまとめ、役割分担をしていく。すべてを最初から決めていく文化祭。私たち生徒が主役のお祭り。


 楽しくなることが決定しています。なぜなら。


「もうすでにどきどきが止まらないよ~……!」


 左隣には魔奇さんが。


「訪れるすべての人間を怯えさせてやろうではないか!」


 右隣には小悪ちゃんが。


「おばけやしき、たのしそう」


 さらにその右隣にはきとんが。


「これより役割分担について話し合います」


 黒板の前には勇香ちゃんが。


 みんな、高校生活が始まってから出会った私の友達。彼女たちと過ごすのに、楽しくならないはずがありません。


「平良さん、何の係やる?」

「教室の飾りつけを希望しようかと思ってるよ」

「そっか。わたし、魔女修行で鍛えた裁縫を発揮しようかな」

「針が怖いんじゃなかったっけ」

「練習は怠ってないからね。怖いけど役に立てると思う」

「偉いね」

「えへへ」


 やがて、それぞれの役割が決定しました。一層、文化祭の気配は強まっていきます。


 私は装飾担当。魔奇さんは衣装担当。小悪ちゃんは小道具担当。きとんは……。


「あははっ、大事な役割だね」


 魔奇さんが黒板を見て笑い声をあげました。


「味見担当……。しっかりやるんだよ、きとん」


 自由に席を動いてよい時間、私のところにやってきたきとんは嬉しそうに八重歯を見せます。


「まかせにゃさい!」


お読みいただきありがとうございました。

ここから59話まで文化祭編です。楽しんでくださいませ。

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