47話 委員会活動
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やったはずなのに思い出せない委員会活動
ページをめくる音。シャープペンシルが紙に文字を書く音。本がテーブルに置かれる音。小さめの時計の針すら聴こえる静かな図書室。私は返却された本を棚に戻す作業を行っていました。
図書委員の仕事は様々ですが、そのひとつに昼休みと放課後の図書室を管理するものがあります。図書委員の中からローテーションで回ってくるので、定期的に放課後残る必要がありました。
今日は私が当番の日。カウンターには非常勤の先生が座っています。ずっと生徒に任せることはできないので、こうして手伝ってくれているようです。
図書委員が放課後に残るのは一時間程度。時計を見ると、あと三十分ほどありました。あまり仕事もなく、混み合っているわけでもないので、自分も本を読もうかと。
棚に戻し終え、カウンターに戻ります。
貸出の手続きを済ませた本をそっと取り出し、表紙をめくります。集中すると仕事に差し支えるので、ふんわり読んでいきましょう。目次を眺め、ページをめくります。さて、どんな物語なのでしょう。
うきうきで読み始めた時でした。何か挟まっていることに気づき、手を止めます。返却時に確認するのですが、見逃したのでしょうか?
取ってみると、それは折りたたまれた紙でした。栞にしていたメモ帳がそのまま残っている事例はよくあります。中身を確認し、特になんでもなければ廃棄でいいでしょう。
広げてみた私は、無言で首を傾げました。なんだこれは。
B5の紙には円形の何かが描かれ、読めない文字でぎっしりです。謎の模様もたくさんあり、芸術作品といわれても差し支えありません。美術部の人が借りたのかな。
「あ…………」
そういえば、この本って。
私は表紙が上にくるように本を動かしました。
『未確認飛行物体を確認したりしなかったりした話』。
タイトルと円形の何かが結びついていきます。これは……UFO?
一般的に想像される円盤状の飛行物体。絵はそれにそっくりです。フリスビーのようにも見えますが、UFOと言われればUFOです。お皿にも見えますが、UFOと言われればUFOです。どら焼きにも見えますが、UFOと以下略。
このメモを書いた人は、UFOに興味があったのでしょうか。おもしろいですもんね。テレビでやっているミステリー番組はついつい観ますし、CGだとわかっていても未確認生物の映像は楽しいです。こちらはUMAと呼ばれ、ネッシーなどが有名です。家族で山登りに行った時、ツチノコを探しましたよ。楽しかったなぁ。
……って、そうではなくて。かなりしっかり書き込まれているので、捨てるのは躊躇います。在校生ならば、返してあげるのがいいでしょう。
私はデータベースで貸出記録を確認します。メモを挟んだのが前の人かどうかはわかりませんが、可能性は一番高いはずです。
「…………」
いました。いましたが……。
「……ううむ」
残念ながら卒業生でした。この本を私が借りるまで、二年の歳月が過ぎていたようです。人気ないのかな、未確認飛行物体。
ずっと挟まっていたから気づきませんでしたが、メモは数年前のもののようです。書いた人はとうに卒業し、どこにいるのやら。特段、重要そうにも思えないので、仕方ありませんが廃棄にしましょう。
ちょうどゴミ箱の袋がセットされていないタイミングだった為、ひとまず制服のポケットにしまいました。
「あ、ゴミ袋なかったわよね。ごめんなさいね。だいぶ溜まっていたから予定外に取り外しちゃったの」
非常勤の先生が申し訳なさそうに頬に手を当てます。
「大丈夫です。別の場所で捨てますから」
私は首を振り、『未確認飛行物体を確認したりしなかったりした話』をカウンターの隅に置きます。生徒が貸出カウンターにやってきたのが見えたからです。お仕事お仕事。
手続きを終え、ほっと息をはいていると、大きな机で本を読んでいた生徒が手を振っているのに気がつきました。
「……ふふっ」
小さく手を振り返します。私が委員会の仕事をしている間、未所属のきとんは図書室で読書しながら待っているのです。帰る時には返却するので、借りる手続きは行いません。
たくさん本があるので、あ行から読んでいるそうです。ジャンルもこだわりはなく、絵本も読んでいます。こんなことを言ったら彼女に失礼ですが、絵本が似合うこと似合うこと……。
つい読み聞かせたくなる衝動に駆られますが、必死に抑えました。だって、哲学書まで読む子に絵本の読み聞かせなんて……。
欲望と罪悪感に苛まれつつ、私は図書委員の仕事に従事します。ええい、静まれ私の欲望。
ポーカーフェイスでカウンターに座り、内心で戦い続けることしばらく。委員としての仕事が終了する時刻になりました。
「お疲れ様、平良さん」
「お先に失礼します」
非常勤の先生に挨拶し、カウンターを出ます。耳のよいきとんが帰宅を察知し、本を片づけ始めるのが見えました。
「あ、そうだ平良さん」
呼び止められ、振り返ります。
「今日ってもうひとり図書委員の子がいたわよね。その子に次の当番の日、入荷した本のタグ付けをするって言っておいてくれるかしら。予定では本棚の整理だったから、一応ね」
「わかりました。伝えておきます」
「今日は来なかったわねぇ。たしか、一緒のクラスだったわよね。お休み?」
「あ、いえ」
私は乾いた笑みをこぼします。脳裏に、屍のようになりながら机に向かう彼女の姿が想像できたからです。今頃、悲鳴をあげながら問題を解いているのでしょう。
「中間テストの補習です」
魔奇さん、赤点回避ならず。
お読みいただきありがとうございました。
魔奇さんがどんどん愉快枠キャラになっていく。




