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44話 きとんと鈴

閲覧ありがとうございます。

志普と猫と鈴と。


 化け猫の一族、猫宮きとんが平良家にホームステイすることが決まった翌日。日曜日は大体のんびりするのですが、今日はいろいろと行動しようと。


 昨日の夜、父と顔を合わせたきとんは再度挨拶をし、無事にホームステイが開始しました。ご飯はどうするのかと思いましたが、人型の時は人間と同じ食事を摂るそうです。美味しそうにご飯を頬張るきとんを見て、両親は「娘が二人いるみたい」と嬉しそうでした。


 私も同様です。家の案内や洗面所、風呂場の使い方を説明し、ドライヤーが苦手だと言うきとんの髪を乾かしてあげるなど、姉の気分になって仕方がありません。


 一人っ子が嫌なわけではありませんが、きょうだいがいたら……と考えたこともあります。「しほ!」と駆け寄って来るきとんを見ていると、絶対に守らなければと強い意思が生まれたのを感じました。絶守きとん。


 明日、月曜日から不津乃高校に通うそうですが、手続きなどは大丈夫なのでしょうか。心配になって訊いても、きとんは「やってくれるっていってた」と答えるだけ。彼女もあまり詳しいことは知らない様子でした。


 さて、話が戻りますが、今日の予定はというと。


「きとん、お買い物に行こう」

「おかいもの?」

「もう少し服があった方がいいと思うし、文房具も足りないから」

「しほ。きとん、ほしいのある」

「じゃあ、それも買おうか」


 リビングに降り、くつろいでテレビを観ている両親に声をかけます。


「きとんと買い物に行ってくるね」

「気をつけてね」

「きとん、志普から離れないようにするんだよ」

「んにゃ。しほまま、しほぱぱ、いってきます」


 かわいらしいポーチを首から下げ、きとんは意気揚々と歩いて行きます。服の上には私の上着。きとんを拾った日、彼女にくるんだ淡い水色の上着です。妙に気に入っているようだったので、あげることにしました。私、新品の上着をプレゼントする運命にあるのかな。


 少しゆったり着られるように、ワンサイズ上のものを買ったからでしょう。私よりも身体の小さなきとんはぶかぶかです。指先だけ見える袖がかわいらしい。


 かなり小柄でありながら高校に通うということで年齢を訊きましたが、十六歳とのことでした。訊いた時は驚いたものです。


「しほとおかいもの。しほとおかいもの」


 十六歳……。ほんとかなぁ。

 化け猫の一族なので、人間とは違う生活をしてきた可能性があります。人間の年齢と同じように考えるのは危険かもしれませんね。


「しほ、あっちなに?」

「住宅街だよ。お店は違う方向だから、離れないようにね」

「んにゃ」


 つい、彼女の服の裾を掴みます。本当は手を繋ぎたいところですが、年齢を聞いて行動に移せずにいました。迷子防止で手を繋ごうなんて言ったら、気を悪くするかもしれません。


 悩みながら、妥協案で裾を掴んでいるわけです。しかし、ちょっと持っているだけなので走り出されたらひとたまりもありません。まあ、十六歳ならそんなことはしない……。


「しほ! ちょうちょとんでる!」

「きとん、走らないで。あと、耳でてるよ」

「んにゃっ⁉」


 そんなこんなで、ハラハラしつつも複数の店が隣接するエリアにやってきました。


「いつも服はどこで買ってたの?」

「ふく? あんまりきにしたことない。猫だから」


 あれ、そういえば、猫の時のきとんって……。と、そこまで考えて思考に蓋をしました。十六歳の少女になんてことを。


 結局、服は持ち越しとなりました。


「ええと、文房具はこのお店で買おうね」

「んにゃ」


 彼女が持っている道具は試練用に用意された物らしく、必要なものは別途自分で買うそうです。人間社会で買い物をすることも、一人前になる為には大事なんだそうです。


「大体は揃っていたから、シャープペンシルとノートを追加で買っておこうか。結構使うからね」

「どれかう?」

「きとんが好きなのでいいよ」

「んむにゃ……。じゃあ、これ?」


 きとんは猫柄のシャープペンシルを手に取りました。私がうさ之助バージョンを持っている会社の商品でした。使いやすくておすすめです。


「いいね。ノートも選んで」

「どれがいい?」

「私が使っているノートが使いやすいけど……、売り切れみたい」

「にゃう……」

「私、うさぎ柄を持っているから何冊かあげようか」

「しほ、うさぎすき?」

「うん」


 きとんは眉をへの字に曲げて頬を膨らませました。あれ、なんか怒ってる?


「しほはうさぎすき。うにゃう……」

「きとん?」

「んにゃ……。うさぎ……」


 ぷっくりほっぺのまま、きとんはレジへと向かいます。店員さんがきとんを見て微笑ましさから素敵な笑顔を浮かべていました。隣で見守っていた私は、商品を持って店を出る彼女に続きます。


「きとんが欲しいものってなに?」

「すず!」


 不機嫌そうな顔が一転。きとんはパッと笑顔になって言いました。


「鈴?」

「んにゃ。ホームステイがきまったら、すずをつけてもらうのがおきて。しほ、きとんのすずえらんで」

「えっと、猫の首輪についているみたいな?」


 きとんは頷きました。


「しゅぎょーちゅーのしるし。いちにんまえになったら、くびからはずしてだいじにもってる」

「大人になっても持ってるんだ?」

「化け猫とにんげんをつなぐしょうちょーになる。うけいれてくれたにんげんとのきずなのあかし」


 話を聞き、手芸用品店にやってきた私は鈴コーナーでじっくり時間をかけて決めることにしました。


 化け猫と人間を繋ぐ象徴。人間との絆の証。難しいことはわかりませんが、人が猫に首輪をプレゼントするということは、家族として迎え入れたことと同義。だから、妥協はしません。


「しほ、なやむ?」

「うん。しっかり決めたいと思って」

「きとんはしほがえらんだものならなんでもいい」

「ありがとう。でも、もうちょっと待ってね」


 近くに他のお客さんがいないので、隣で待つきとんの頭を撫でながら考えます。彼女は嬉しそうに私を見ながらされるがまま。


 ふと、なんとなく頭に浮かんだ質問をすることにしました。


「きとん、好きな色はある?」

「とくにない」


 ないかぁ。


「でも」


 彼女は店の窓に目をやりました。その向こうには晴れ渡る青空が広がっています。


「あめのひ、しほにひろってもらったのうれしかった。あれから、あめのひたのしみ」

「雨……。わかった。これにする」


 手に取ったのは水色の鈴。ちりん、と透き通る音が鳴りました。


「みずいろ?」

「そう。雨の色」


 実際には違いますが、イメージは水色ではありませんか?


 それに、あの日以来、雨の日を楽しみだと言ってくれた。紙が濡れたら困るし湿気で髪の毛もうねりますが、きとんと出会ったから私も好きになれた。だから、私にとっても雨は素敵なものになったのです。

 あの日を表す雨。絆の証にするにはぴったりだと思いませんか?


「あめのいろ、すき」

「私も好きだよ」

「それがいい」

「うん。買ってくるね」


 帰り際、アクセサリーショップに寄りすべての買い物を済ませ、私たちは人数が増えた家に帰ってきました。


 私の部屋で買ったものを確認し、最後に二つの袋をきとんに差し出します。


「プレゼントだよ」

「ふたつ?」

「うん。開けてみて」


 うきうきで開封するきとん。ちらりと覗く八重歯が光ります。


「すず! ……と、これなに?」

「チョーカーだよ。鈴だけだと失くしちゃうから」


 猫の首輪を買うには気が引けたので、ちょっと似ている気がしたチョーカーを買ったのです。チョーカーと鈴。オシャレ……に見えるでしょうか?


「しほ、つけて」


 向き合うように座り、行儀よく待つきとん。私はチョーカーに鈴をつけ、首の後ろに手を回しました。……あの、座る向きは逆のような……いえ、がんばります。


 何度か失敗しながら、ようやくチョーカーをつけることができました。


「できたよ」

「うにゃ~」


 頬を綻ばせるきとんに合わせ、鈴が応えるように鳴りました。


「ありがと、しほ。これでホームステイ、ほんかくかいし。きとんのしれん、スタート」

「一緒にがんばろうね」

「んにゃ!」


 頷きと共に鈴が鳴る。その姿はやっぱり猫の首輪……こほん。言わぬが花というものです。


お読みいただきありがとうございました。

次回からカオスな学校生活スタートです。

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