37話 どうするサークル
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どうするサークル!
放課後の一件以降、剣崎さん改め勇香ちゃんは、これまでよりも多く私たちと行動をともにするようになりました。
動植物公園で一足先に顔見知りになっていた魔奇さんは、『アニメで観た』存在である勇者にテンションが上がり、緊張を通り越して話ができているようです。
一方、対立していた様子の小悪ちゃんはというと。
「うむ、よいではないか」
模範的な態度から脱出して話す勇者ちゃんを見て、安心したように頷いていました。それ以来、彼女にも笑顔が戻ったのです。これでようやく、私も落ち着くことができました。
相変わらず、他のクラスメイトに対しては『勇者』としての面が強く出てしまうようですが、まずは一歩ということで。
ほんの少しずつ妙な硬さがほぐれつつある勇香ちゃんに、クラスメイトたちも親しみを深めていく、そんな日のこと。
遅れて高校生活の仲間入りをした勇香ちゃんに、あれこれと説明をする流れになりました。
「小テストも成績に反映されるからサボるとまずいって先生が言ってたよ」
「小テストですか。わかりました。がんばります」
「勇香ちゃんは勉強得意?」
声を潜めて訊く魔奇さん。私たちの会話の流れから、彼女も名字から名前に呼び方を変更したようです。……ふむ。
「勉強は学生の本業です。他の見本となるよう、日々努力しています」
「言う事がほんとお手本みたいでかっこいいねぇ」
感心する魔奇さんに、クマのぬいぐるみをいじっていた小悪ちゃんがぼそりと「勇香は学年一位だぞ」とつぶやきました。
「が、学年一位⁉」
「入学テストがあっただろう。勇香は首席だ。入学が遅れたんで、式での挨拶はしていないだろが」
「ほあ~……。勇香ちゃん、頭いいんだね」
「教科書を読み、問題を解き、復習しているだけですよ。特別なことはしていません」
「それで一位なんだから、やり方が合っているのかもしれないね」
自分に合った勉強法。出会うまでが長かったりするのです。
「塾に行かずに学年一位かぁ。すごいなぁ」
「学業とは別に、私には勇者業もありますから。塾に行く時間はありませんでした」
その言葉に、ふと思い出すことがありました。
「じゃあ、部活動は入らない?」
私の発言に、彼女はしばし考えているようでした。
「実を言うと、まだ迷っているのです。学びたいことはたくさんありますが、勇者として活動するのが嫌というわけでもないのです。だから、うまくバランスを取りたいのですが……」
腕を組んで唸ります。
「これまで、学校が終わったらすぐ勇者としての鍛錬に励んでいたので、自分に合った部活動が何か、見当もつかないのです」
「やってみたい部活はある?」
魔奇さんが部活動見学のチラシを差し出します。
「勇者業にも応用できるとすると、剣道部でしょうか」
「勇香に合いそうな部活だな」
しかし、彼女は浮かない顔です、
「聞いた話では、運動部は基本的に活動日数が多く、時間も長いと」
「そうらしいね。部活動に青春を捧げる人も多いって、アニメで観た」
出た、魔奇さんのアニメ情報。たしかに、部活動をテーマにしたアニメは多いイメージです。野球部、バレー部、サッカー部、美術部、吹奏楽部……。そういえば、キャンプをするアニメもありましたね。
「そこまで時間を割くこともできませんし、勇者業を優先して他の部員に迷惑をかけたくもない……。そうなると、私に適した部活はないようです」
「じゃあさ!」
沈む勇香ちゃんとは裏腹に、魔奇さんが明るい声を出しました。
「みんなでサークル作らない?」
「サークル?」
小首を傾げる勇香ちゃんに、以前出た話を改めてしました。
「入りたい部活がなければ、自分たちでサークルを作る……。そんなことができるのですね」
「それとなく案も考えている。近いうちに話し合い、最終決定をするつもりだ」
「近いうちというのは、明日ですか?」
「明日は早すぎだろう」
「ですが、新サークル提出締切は明後日ですよ」
「へっ?」
ぽかんと口を開ける小悪ちゃんに、勇香ちゃんがチラシの下部を指さします。そこには、部活動仮登録と新サークル受付の締め切り日時が書いてありました。
「な、なんということだ! 我が見た時は、まだ一週間くらいあったのだが」
「というか、これじゃあ勇香ちゃんが部活動見学する時間がないね」
「大丈夫です、志普さん。おそらく、私は部活に所属しませんから」
「サークルはどうする?」
「どのようなサークルかにもよりますね」
「だよね。その辺も具体的に決めないと……」
となると、まずいです。時間がもうありません。とりあえず、各自で考えてきたサークル案を提示しようと、以前配られた紙を机の上に置きました。
家で書いてきた新設サークルについてです。私、魔奇さん、小悪ちゃんの三人をまとめると、こんな感じ。
・とにかく好きなことをする。
・活動日や活動時間は決定しない。
・サークルメンバーが助けを求めたらみんなで助ける。
・自分や友達がありのままでいられる場所を作りたい。
・学校生活をより楽しむ為のサークルにすること。
勇香ちゃんは箇条書きにされた案に対し、おかしそうに笑いました。
「ずいぶんアバウトなんですね」
「とにかく好きなことをするって、小悪ちゃんが書いたの?」
「違うぞ。志普だ」
「平良さんだったの⁉ 絶対、小悪ちゃんだと思ったのに」
「絶対とはなんだ、絶対とは。我はこんな小学生みたいなことは書かんぞ」
みんなの案をまとめていた私は、熱くなる頬を感じていました。小学生でごめんね。
「でも、なんだか楽しそうなサークルです」
「簡単に言うと、魔奇さんが魔法の勉強をしてもいいし、小悪ちゃんがクマのぬいぐるみで遊んでいてもいいし、勇香ちゃんが勇者のお仕事をしていてもいい。ただ、困った時は、ここに来ればみんなが力を合わせて助けてくれる。そういうサークルだよ」
「志普は本を読んでいそうだな」
まさしく。
「サークルとは違う言葉で表現するなら、一年二組以外の私たちの居場所という感じ」
「あ、いいねそれ。あったかい」
魔奇さんが嬉しそうに手を合わせました。
「難しいルールもない。厳しい人もいない。私たちでこれからの日々を作る為のサークルということで」
なんとなく話がまとまったようです。これなら締め切り前に提出できそうですね。私たちもいつの間にか、部活動や他のサークルは選択肢から外しているようでしたし、このまま新しいサークルを――。
「あと一人は誰なんですか?」
ふいに、勇香ちゃんが問いました。あと一人とは?
「なんのことだ?」
「サークルの人員ですよ。あと一人いるんですよね?」
「おっ?」
「へっ?」
幼馴染二人の呆けた声が重なりました。勇香ちゃんが怪訝そうに「ここに……」とチラシを指さします。
「新規サークル提出時の注意事項……」
魔奇さんが抑揚のない声で読み上げます。
「一、サークル名と活動内容を明記すること」
これは大丈夫そうです。
「二、使用する教室は提出までに確保すること」
あっ、教室のこと忘れてた!
「三、提出時に人員が五人以上であること……」
魔奇さんの声が震えました。ゆっくりと私たちを見渡します。
「いち、に、さん、し……。ひとり足りない!」
皿屋敷の魔奇さん?
「わたしの使い魔じゃだめかな⁉」
「この学校の生徒でないとカウントされないだろうな」
「うぐぅ……。シロツメ、今から入学できる?」
「無茶言わないでちょうだい」
魔法生物は呆れたようにあくびをしました。
「教室は空いている場所があると思うけど、人は……」
部活動仮登録の終了まであと二日残っているとはいえ、もう決定している人の方が多いはずです。今から未決定の人を探すのは困難でしょうし、新しく設置するサークルに入ろうと思ってくれるかどうか……。
「どうしよう……」
魔奇さんが口元に手を当てながら青ざめました。
「どうするべきか……」
小悪ちゃんがクマのぬいぐるみを抱きしめながら唸りました。
「どうしましょうか……」
勇香ちゃんが形のいい眉を曲げました。
「どうすればいいんだろう……」
私はチラシを見つめながらこぼしました。
四人は顔を見合わせ、つぶやきます。
「どうする……?」
お読みいただきありがとうございました。
どうするサークル⁉




