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27話 すぺるの使い魔

閲覧ありがとうございます。

とてもファンタジーなサブタイ。


 魔奇さんは口をあんぐりと開け、「えっ? えっ?」とこぼしながら目をぐるぐるさせていました。


「つ、使い魔?」

「そうよ。魔女なら当然でしょ?」

「でも、えっ、なんで?」

「なんでって……、それくらい自分で考えなさい。あたしの主になるんだから」

「あ、主……。ほんとに言ってるの?」

「だから、そう言ってるじゃない。何回も言わせないで」

「ひゃあぁ~……」


 急展開に理解が追い付かない魔奇さんは、「えっ、使い魔? ほんとに?」と何度も言いながら視線を漂わせます。

 ふと、ばちりと私と目が合いました。


「平良さん、使い魔だって!」

「そうみたいだね。魔奇さん、使い魔を探していたみたいだし、嫌じゃなければどう?」

「このあたしが使い魔になってあげるというのに、嫌なわけがないわ」

「高飛車な物言いはちょっと嫌だけど……」


 素直に言う魔奇さん。大事なことです。


「……昨日、あんなに苦手だった転移魔法が成功したのはきみのサポートがあったからだってわかってる。ひとりですらできなかったのに、平良さんも一緒にだよ」


 魔奇さんはぽつりと話し始めます。


「転移魔法を使った時、すごく力が馴染んでいる感じがしたの。相性っていうのかな。これから時間をともにするのなら、とても重要なこと。それがぴったりだと思った。だから……」


 魔奇さんは胸に手を当てて息をはき、ゆっくり吸うと姿勢を変えて魔法生物をまっすぐに見ます。


「わたしに力を貸してください。立派な魔女になる為に」


 凛とした声が私たちを包みました。知らずのうちに微笑んでいた私は、黙って彼女の返事を待ちます。


「えぇ、いいわ。あなたをあたしの主として認める。さあ、契約の儀よ」


 魔奇さんはきょとんと黒い目を丸くします。


「契約の儀。知っているでしょう?」

「も、もちろん。あれだよね、名前をつける……」

「自分の魔力を込めながら名前をつける、よ。あたしに相応しい素敵な名前じゃないと許さないから」

「ちょっと考えさせて……」

「三分間だけ待ってあげるわ」

「どっかの大佐みたいなこと言うじゃん……」


 頭を抱えた魔奇さんは、呻きながら脳内の引き出しを片っ端から開けているようでした。素敵な名前を探しているのでしょう。


 話しかけて集中を切らしてはいけないので、私も黙って空気になりきります。魔奇さんが使い魔を得る。その大事な瞬間を邪魔してはいけません。


 苦しげな声が隣から聞こえてきますが、どうしましょう。私にできることはあるのでしょうか?

 そうだ。幸運を呼ぶ四つ葉のクローバーがあれば、きっと素敵な名前を思いつく手助けになるはずです。静かにベンチを離れ、すぐそばの群生地に膝をつきます。


 四つ葉のクローバー……。四つ葉のクローバー……。無数の葉が重なる世界で四つ葉を探すことは非常に困難です。だからこそ、見つけた者に幸運が訪れるのでしょう。


 しかし……。やはり見つかりません。一度視界をリセットする為、シロツメクサの花に触れました。小さな白い花。丸いフォルムがかわいらしくありながら、一面に咲いている光景は力強さも感じさせました。


 花冠を最後に作ったのはいつだったっけ。花の少し下あたりから採り、久しぶりに花冠でも……と思った時でした。「平良さん、それ……」と考え込んでいた魔奇さんから声をかけられたのは。


「シロツメクサの花だよ。花冠でも作ろうかと思って」

「シロツメクサ……。昨日、平良さんがかわいいこと言ってたよね」


 かわいいこと? なんですか、それ。


「うさぎのしっぽみたいだって」

「ああ、言ったね。実際のうさぎのしっぽは丸いわけじゃないけど、イメージはぴったりだと思って」


 そういえば、と魔法生物を見ます。


「あなたのしっぽにそっくりだよ。ふわふわでまるっとしてる」

「褒めているのかしら?」

「とっても」

「なら、よくってよ」


 彼女はしっぽの話題で気になったのか、身体をぐるりと動かして尾の辺りをぺろぺろと舐めます。毛づくろいのたびに、ふわもふが増しているようでした。毛玉が生きているみたいです。


「さて、そろそろ三分よ。名前は決まったかしら?」

「……うん。決めた」

「じゃあ、自分の魔力を込めながら呼びなさい」


 魔奇さんは一瞬、私と私が持つシロツメクサを見ると微笑みました。魔法生物に向き直り、目を閉じて深呼吸を一回。


 辺りの空気が止まったような気がしました。シロツメクサの花畑に座りながら、私は魔法の世界を間近で見ます。


 目を開ける魔奇さん。その瞳はかつてなく赤く輝いていました。彼女の身体は不思議な光をまといながら、長く白い髪が揺らめきます。魔法生物に手を差し出し、まっすぐに言います。


「魔女の名はすぺる。おいで、――『シロツメ』」


 魔法生物も手を伸ばし、両者の手が重なります。


「はい、(あるじ)(さま)


 応えた瞬間、赤みがかった光が二人を包み、ぱちりと弾けました。魔法生物の首元には、いつの間にか不思議な形の首飾りがかかっています。その模様と同じものが、魔奇さんの手首にもありました。


「これで契約の儀は完了よ」

「緊張した……! あ、あるじさま、だって……。どうしよ!」

「それにしても、まさかその花を見て思いついたんじゃないでしょうね?」


 魔法生物は私の手にある白い花を見ます。


「そのまさかだけど」

「安直すぎるわ」

「うさぎのしっぽみたいでかわいいし、平良さんが好きな花だったから」


 私の名前が出たことに驚き、小首を傾げながらベンチを見上げます。


「わたしたちが契約できたのは、平良さんがいたからだと思ったんだ」

「そんな大層なことしたっけ?」

「うん。ねえ、そのシロツメクサ、もらってもいいかな」


 魔奇さんはベンチから降り、私と同じように花畑に座ります。断る理由はないので「いいよ」と手渡しました。


「昨日、帰ってから調べたんだけど、葉の枚数だけじゃなくてシロツメクサ自体にも花言葉があるんだって。その一つが四つ葉のクローバーと同じ『幸運』」


 微笑む魔奇さんがぽつりとこぼします。

 四つ葉のクローバーは見つけられませんでしたが、ここにはたくさんの幸運があるのでしょう。私たちの出会いがそうであるように。


「高校に入学してから、平良さんのおかげでわたし、すごく幸せだから。学校生活も楽しいし、クラスメイトとも少しずつ話せるようになったし、昨日はうさ之助のコラボカフェに行った。そして、目標だった使い魔まで得ることができた。幸運の連続だよ」

「私はただ、魔奇さんと一緒にいただけだよ」

「その『だけ』がわたしにとっては奇跡みたいなものってこと。だから、大切にしようと思って」


 受け取ったシロツメクサを大事そうにハンカチに包み、そっと鞄に仕舞うと、勢いよく立ち上がって腕を突きあげました。


「一人前の魔女に一歩近づいた。これからもっと頑張るぞ!」

「他にも試験があるんだっけ」

「うん。ひとつずつ達成していくよ」


 私は魔法生物の前にしゃがみ、目線を合わせます。


「シロツメさん、魔奇さんをお願いね」

「そんな硬い呼び方しなくていいわ。あなたは許してあげる」

「じゃあ……、シロツメちゃん」


 魔法生物改め、シロツメちゃんが満足げに鼻を鳴らしました。ぷぷっと軽い音でした。


「それに……、ふうん、これがあなたの理想なのね」

「理想? なんのこと?」


 かすかにつぶやいた彼女の言葉が気になり問いますが、耳を揺らすだけで答えません。魔奇さんの理想って何のことだろう?


「『ちゃん』呼びを許可するなんて、魔法使い以外の人間が嫌いなんじゃなかったの?」


 魔奇さんが指で鼻先をつんと触れます。


「嫌いよ」

「平良さんはいいの?」

「他の人間よりはましね」

「相変わらず高飛車な態度だなぁ。命令したら直る?」

「お断りよ、スペル」

「主を呼び捨てにするとは」

「あたしからすれば赤子同然だもの。文句があるならあらゆる魔法が使えるようになってから言うことね」

「わたしはいいけど、平良さんには丁寧に接してよ。わたしのと、友達なんだから」

「努力するわ、タイラ」

「志普だよ。平良志普」


 今更ながら自己紹介をします。


「努力するわ、シホ」


 おそらく、直す気はなさそうなシロツメちゃんが私を名前で呼びました。すぐ隣で魔奇さんが見たこともない表情をします。


「なにかしら、スペル」

「いや、別に……」


 沈黙がおりた公園。ふと、気になったことを訊きます。


「シロツメちゃんはこれからどうするの?」

「スペルと一緒に生活するわ。使い魔はそんなものよ」

「じゃあ、少し賑やかになるね」


 田舎から出てきて一人暮らしをする魔奇さんが家に帰った時、誰もいないというのは寂しい気がしていたのです。魔法生物ですが、言葉を交わすことのできるシロツメちゃんがいれば、また違う生活になるでしょう。


「スペル、今日の夕飯は何かしら」

「え? えーっと、魚を焼こうかなと思っているけれど」

「いいわね。お味噌汁にお豆腐は入れる?」

「うん。あとはネギと油揚げ、きのこも入れるよ」

「副菜はそれだけ? 漬物も欲しいわ」

「それは買わないとない……って、注文が多いね」

「お米は単一原料米じゃないと食べないわ」

「ほんとに注文が多くない?」

「ふふっ」


 ついこぼしてしまった笑い声に、二人は顔を私に向けました。慌てて言い訳しようとしますが、取り繕うこともないので事実だけを拾い上げます。


「仲良しだね」

「えっ、そう?」


 本当に不思議そうな魔奇さん。そこまで首を捻らなくても。


「ちょっとやかましいかもって思ってたよ」

「小鳥のさえずりのように美しい声なのに?」

「鳥じゃないじゃん」

「比喩よ、比喩」

「いくら比喩とはいえ、そのふわもふで言われるとね」

「何か文句が?」

「いえ、ないですけど」


 傍から見れば言い争いのようですが、剣呑な空気は漂っていません。お互い、新たに得た縁を大事に思っているのでしょう。魔女と使い魔。これから長い時をともに過ごす関係。きっと、なんだかんだ言いつつも良きパートナーになっていく。私はそう思いました。


 いつの間にか話し込み、太陽が傾き始めた頃。明日も学校なので別れることになりました。

 ほうきに腰かけ、「また明日」と手を振る魔奇さん。


「うん、またね」


 魔奇さんはベンチに残ったままのシロツメちゃんを見ます。


「帰るよ、シロツメ」


 小さな生き物は耳を揺らしながら魔奇さんの肩に飛び乗ります。ずっと昔からそうだったように、とても馴染んでいる姿のようでした。


「シロツメちゃんもまたね」


 私が手を振ると、彼女は星屑柄の絆創膏が巻かれた手をあげました。


「縁に感謝を。また会いましょう、シホ」


お読みいただきありがとうございました。

まきさん は つかいま を えた !

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