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15話 連絡先

閲覧ありがとうございます。

連絡先はLI〇Eです。描写する時に便利なのでこれからもL〇NEだと思ってください。


 魔奇さんと買い食いをした日の夜、あとは寝るだけという状態で私は携帯を見ていました。

 今日撮った写真を見返し、思い出に浸る時間。ドリンクの味が鮮明に口の中に再現される気がしました。


 さっそく彼女に写真データを送信しようとして、私の動きは止まりました。脳内で問題に気がつきます。


 いくらスクロールしても彼女の連絡先が見つかりません。それはつまり。


「私、魔奇さんの連絡先知らない……」


 これでは、いざという時に困ります。そもそも、携帯を使うことも慣れているのかどうか。写真はスムーズでしたが、他の機能はどうなのでしょう。


 他の生徒とは、昼休みなどのちょっとした時間に連絡先を交換しました。そうだ、クラスのグループに入っているかもしれません。そこから個別に連絡を取れば……。


「いない」


 グループにも魔奇さんはいません。そ、そうだ。誰か個人的に知っている人がいるかもしれません。訊いてみま……。


「時間が遅いかなぁ……」


 時刻は午後十一時半。起きている人もいるでしょうが、通知音で寝ている人を起こす危険性もあります。入浴後、ゆっくり読書をしていたことが仇となりましたね。


「明日でいいか……」


 学校に行き、魔奇さんに直接連絡先を訊く。それが一番の方法だと思い、部屋の電気を消しました。


 翌日。朝のホームルーム前。

 いつものようにほうきで登校した魔奇さんは、席に着くやいなや、「写真のことなんだけど!」と携帯を取り出しました。


「昨日の夜、送れなくてごめんね」

「ううん。私もそのことで言いたいことが――」

「写真を眺めていたら日付が変わっちゃって、さすがに今から送るのはどうかと悩んでいるうちに夜明けがきたの」

「そうなんだ。……ん?」


 夜明け?


「危うく、また遅刻するところだったよ。えへへ」

「眠くない?」

「めっちゃ眠い」


 彼女は大きなあくびをひとつ。鞄の中から瓶を取り出すと、ごくごくと飲み干しました。


「それは?」

「眠気がなくなる薬だよ」

「魔法薬を間近で見るの初めて」


 かわいらしい小瓶に目をやっていると、魔奇さんは笑いながら首を左右に振りました。


「これ、ただのエナジードリンク」

「えっ、でも、入れ物が」

「コンビニで買ったあと、飲み残した分を小瓶に入れ替えたの。一気飲みするには量が多くて」

「あ、コンビニに寄れたんだね」

「うん。成長!」

「おめでとう」


 って、そうじゃなくて。朝からエナジードリンクですか。あまりオススメできない食生活ですが、大丈夫でしょうか。


「滅多に飲まないから平気だよ」


 心を読んだように笑みを浮かべる魔奇さん。


「魔法薬のレシピが全然できない時に比べれば……ふふ……」


 おや、目が笑っていません。


「それより、いま写真送るね。えーっと……あれ?」


 小首を傾げた魔奇さん。何度も画面をスクロールしては首の角度を深めていきます。しばらくして、驚愕の事実に気がついた探偵のように目を見開きました。真犯人見つけた?


「もしかして、連絡先交換してなかったっけ⁉」

「みたいだね」

「交換してもいい?」

「もちろん」

「やった」


 椅子ごと近寄ってきた彼女は、私の携帯に向けて自分の携帯を持ちながら黙ります。楽しそうな笑顔を浮かべたまま、じっと待っているようです。


「……?」

「……?」


 二人同時に目を合わせました。


「……?」

「……?」


 二人同時に首を傾げました。


「あれ? これじゃない? 困ったな……、家族以外と交換したことないから……」


 不思議そうに言うので、私は脳を回転させて状況を理解しようとします。彼女から交換方法を提示されるのを待っていた私と、交換する気満々だった魔奇さん。


 つまるところ、彼女が方法を知らない可能性があるということでしょう。


「一応、訊きたいんだけど、魔法で交換するわけじゃないよね?」

「違うよ。家族とはできたんだけど……」


 私はいくつかある方法を伝えました。目を丸くする魔奇さん。


「近くで携帯を振るだけで交換できるの?」

「そういう方法もあるよ」

「魔法みたいだね」

「魔女に言われても」


 話ながら、私たちは専用の画面を映し出します。


「せーのっ」


 私の掛け声で携帯を振ります。


「あ、きた」

「できた!」


 画面には丸いアイコンと名前が表示されています。


「追加していい?」

「どうぞ」


 なぜか丁寧に訊いてから行動する彼女。不思議に思いましたが、一つ一つの事を大事にしているようでした。


 先ほど、彼女がつぶやいた発言を思い出します。家族以外と交換したことがない。それならば、私はもしかして……。


「うれしい。家族と公式アカウント以外の人がわたしのチャット欄にいるなんて」

「クラスメイトと交換は?」

「まだ。平良さんが初めて」

「そっか」


 素っ気ない応え。仕方がないのです。もしかしてと思ったことが本当だったのですから。


 わざとらしい咳払いをして、「クラスのグループに招待してもいい? 何か伝えたい時、入っていると便利だから」と提案します。


「クラスのグループ⁉ 本当にあるんだ。アニメの中だけかと思ってた」

「あるよ」

「ぜ、ぜひ」


 私はボタンを押します。


「招待したよ」

「失礼します」


 入室時のような挨拶と同時に、私の画面に『魔奇すぺるさんがグループに参加しました』の文字が表示されます。


「うれしい~……」


 にこにこと画面を眺める彼女は、「挨拶しなきゃ」と携帯を握り直しました。


 数秒後。


 《いつもお世話になっております、魔奇すぺると申します。このたび、一年二組のグループに参加させていただきました。何卒よろしくお願いします》


 社会人を彷彿とさせる硬い文章が送られてきました。教室がざわめいたのを感じますが、当の本人はうんうん唸りながらまだ画面を見ています。


 数秒後。

 ぴろん。再び何かが送られてきた通知音がしました。見ると、


「あ、かわいい」


 うさぎが『よろしくね』とハートを浮かべているスタンプ。また教室がざわめきます。


「……変じゃないかな?」


 心配そうな魔奇さんに、私は頷きながらスタンプを送ります。


「かわいい! このスタンプ、わたしが持っているのと同じやつだよね」

「うん。かわいくて買っちゃった」

「でも、なんでこれなの?」


 私が送ったのは、うさぎが風邪をひいているスタンプでした。彼女の疑問に、個別チャットに昨日の写真を送りながら答えます。


「温度差がすごくて」

「窓は閉まってるけど」

「ギャップというやつだよ」

「溝? 特に見当たらないけど……」


 彼女も撮った写真を送ってくれました。お互いに保存します。

 私の意味不明な発言に困惑しつつ、魔奇さんは「ねえ……」と遠慮がちに声をかけてきます。


「平良さんのアイコンなんだけど、これってうさ之――」


 ぴろん。通知を報せる音が鳴りました。二人の携帯からです。

 ぴろん。ぴろん。ぴろん。ぴろん。ぴろろろん。


「えっ、えっ、なに?」


 慌てて確認する魔奇さんに倣い、私も画面を見ました。そこには、クラスメイトたちからのメッセージが多数表示されています。


 《こちらこそよろしくね》

 《会社員かと思っちゃった。おもしろいね》

 《うさぎ好きなの?》

 《まだ話したことないけど、これからおしゃべりしようね》


 などなど。

 咄嗟に顔を上げた彼女の目は、携帯を持つクラスメイトたちを捉えました。

 みんな、声は出さずとも手や携帯を振ったり、笑顔を浮かべたりして応えます。


 気がついた魔奇さんは、緊張から真っ白な髪で顔を隠しますが、


「……えへへ」


 とても嬉しそうに小さく手を振り返したのでした。


お読みいただきありがとうございました。

魔法の小瓶(中身エナジードリンク)。

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