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102話 共犯者

閲覧ありがとうございます。

ちなみに不在着信の数もえぐかった名誉部員。


 ぬかるんでいた道は照り輝く太陽の光であっという間に乾きつつありました。しかし、木陰によって陽が当たらない場所はまだ湿っており、じゅうぶん気をつけなくてはいけません。いけないのですが……。


「志普ちゃん、一報を入れたならもう少しゆっくりでもいいんじゃない?」

「それはそうなんだけど……」


 どうしても早足になってしまいます。私が転ばないよう、隣で気を配る彼女に心の中で感謝しました。


 長く長く感じた道の先に、ようやくヤドリギが見えてきました。店先に立っていた人物がこちらに顔を向けたのがわかりました。


「平良さん!」


 駆け寄ってきた明杖さんは、青い顔のまま「無事? ケガは? 怖い思いはしてない?」と矢継ぎ早に質問しました。


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「それなら……、いいんだけど」


 彼はじっと私を見つめると、ようやく安堵の息をはいたようでした。


「よかった……」


 わずかに震える声で言うと、そのまましゃがんでしまいました。


「だ、大丈夫?」

「だいじょうぶ……」

「あんまりそう見えないけど……」

「へいき……」


 うずくまったままの彼を放っておけず、私も同じように膝を折りました。


「ほらな、死にそうだったろ」


 いつもと変わらぬ様子の小悪ちゃんが、いつの間にかラムネを飲みながらカラーベンチに座っていました。


「ですが、嵐の後の山の中で行方不明ともなれば心配にもなります」

「しかしな、行方不明は志普の計画だと何度も説明したのにこれだぞ?」

「それでもやはり、本人を確認するまでは不安でしょう。現に小悪さんだって、ほうきに乗った二人を見るまではずっとそわそわし――」

「しゃらーーーーっぷ! ほれ、ラムネ飲め! ラムネ! 鳥じい、ラムネ追加だ!」


 店の奥から姿を現した柏木さんは、砂糖菓子をくわえながらラムネを差し出しました。


「いらっしゃい、みんな。暑かっただろう。冷えているうちに飲むといい」


 人数分のラムネを置き、彼はいつもの椅子に腰かけました。


 それぞれがお礼を言ってラムネを手に取りながら、昔馴染みの少女はどこか不服そうに口を尖らせます。


「いただきます、共犯者さん」


 くすりとこぼれたしわがれた声。柏木さんは低く渋い笑い声を喉の奥で響かせていました。


「びっくりしちゃった。まさか鳥じいまで加担していたとは」

「頼まれたのだ。すぺる嬢の成長の為、力を貸してくれと」

「意外な役者が身近なところにいるものだね」

「そういうものだ。気づかないだけで」


 すまさんから事前に聞いていた話。柏木さんもこちら側だということ。とはいえ、足の悪い彼にしてもらうことは場を整えてもらうことだけ。そして、明杖さんを留めておくことだったのですが。


「想定以上に大変だったな。山の中に探しに行こうとする明杖を止めるのは」

「お世話かけました……」


 やっと立ち上がった明杖さん。疲れた様子でカラーベンチに座り、息をはきました。


「こいつ、何度言っても聞かなくてな」

「『大丈夫だからここにいなさい』って言われても、納得できなくて……」

「あんまり聞かないものだから、ネタバラシの前に話すことになった」

「本当にすみません……」


 カラーベンチの背に寄りかかる彼に、きとんが大きな葉っぱで風を送ります。


「がんこもの」

「ごめん……」


 彼らの様子を窺いながら、私は柏木さんとすぺるちゃんの元へ。


「色々ありがとうございました」

「なに、大したことはしていない。こどもが助けを求めたのなら、応えるのが大人の役目だ」

「それでも、大切な時間を得られたのは周りの人の助けがあったからです」

「ならば、おれのような年寄りにも意味があったのだろう」

「共犯者って聞いた時はさすがに驚いたけどね」

「大人は秘密が多いんだ」

「他にもあるの?」

「さあ、どうだかな」

「あ、ずるい。すぐはぐらかすんだから」


 少女に突かれてもどこ吹く風。穏やかに砂糖菓子をくわえる柏木さんはしわがれた声を揺らすだけ。


「そのラムネは褒美だ。代金はいらんよ」

「ほんと? ありがとう、鳥じい。あ、これ、お母さんからお菓子のおすそ分け。お詫びにって」

「詫びることはないがな、ありがたく受け取っておこう」

「厚意は素直に受け取るってやつ? うまく生きる秘訣だね」

「まさしく」


 袋を受け取った彼は店の奥へ。


 私はすぺるちゃんからとあるコツを聞き、彼女から離れました。「がんばれ!」とエールを送られ、明杖さんときとんのいるカラーベンチに戻ってきます。


「落ち着いた?」

「まあまあかにゃ」

「ラムネもらってきたよ。飲む?」

「のむ! でも、きとんあけられない。すぺるにやってもらう」

「大丈夫だよ」


 私はふふっと笑みを浮かべてラムネに付属する玉押しに力を込めました。衝撃とともに炭酸が弾ける音がします。六秒ほど待ち、泡が静まったラムネ瓶をきとんに渡しました。


「しほもぷろ?」

「えへへ」


 続いてもう一本。ばっちり開けられるようになった私は、誇らしげな気持ちで明杖さんに差し出しました。


「上手にできるようになったね」

「すぺるちゃんからコツを聞いたんだ」

「コツ?」


 私は頷きながら自分の分のラムネ瓶も開栓します。一度も失敗することなくできました。もうひとりでも平気です。


「ラムネ瓶を開けるコツ、それはね」


 泡が落ち着くのを待ち、口を開きます。


「気合と根性」

「しほ、あきづえがあきれてる」

「えっ、ほんとなのに」

「いや、でも、大事だよね。気合と根性」

「やさしさのふぉろー……」

「思ってる。ほんとに思ってるから」

「あやしい」

「嘘は言わないよ」

「そのいいかた、ほんとのこともいわない?」

「揚げ足を取らないでくれ……」


 きとんの金色の目に見つめられ、いたたまれない様子の明杖さん。ふいに顔を背けた時、柏木さんが何かを持って店先にやってきました。


「いつまで滞在するのだったかな」

「明後日です」


 勇香ちゃんの答えに、柏木さんは満足そうに頷きます。


「ならば、これをあげよう」

「なんだなんだ、万札か?」


 飛びついた小悪ちゃん。一瞬、残念そうに眉を下げましたが、すぐに目を輝かせました。


「祭り? 祭りがあるのか?」

「この辺りの集落で毎年やっている小さな祭りだが、出店はそこそこある。ミニゲームはもちろん、フィナーレまで楽しめるはずだ」

「これ、屋台で使えるサービス券だ。鳥じい、もらっていいの?」

「ああ。うちも臨時で駄菓子屋を出すからな。遊びに来なさい」

「やったぁ! みんなでお祭り!」


 サービス券を手に回転するすぺるちゃん。彼女の周囲にはきらめき魔力が散らばっています。


「フィナーレまでには明杖も解放する予定だ」

「えっ、でも、片づけとか色々ありますよ」

「若者が祭りを楽しまないでどうする」

「一応、バイトのつもりでいるのですが……」

「雇い主がいいと言うのだからいいではないか。なあ、志普」


 口を挟んだ小悪ちゃんに、私も首肯します。


「片づけは私たちも手伝うよ。だから、せっかくのお祭り、みんなでどう?」

「え? ええと……」


 煮え切らない彼に、柏木さんは平然と追い打ちをかけます。


「明杖、厚意は素直に受け取るものだ。うまく生きていく為にはな」

「いや、でも」

「素直に」

「わ、わかりました……」


 意外と押しの強い柏木さんです。


 色々あった五日目ですが、私たちの気持ちは明日へと向かっています。私も楽しみで仕方がありません。


 見知らぬ土地の小さなお祭り。マジマジメンバー全員で過ごせるなんて、とても幸せです。


 思わず綻んだ頬を隠すように顔を動かした時でした。神秘的な微笑みを浮かべ、私を見る幸運の魔女が「楽しみだね」と小さくつぶやきました。


お読みいただきありがとうございました。

次回、お祭りです。

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