10話 小テスト
閲覧ありがとうございます。
学生時代、そんなに小テストやらなくても……と思っていました。
きっと、小テストの方も思っていたと思います。
返却された小テストを見ながら、間違えた箇所を確認します。惜しい。あと一問で全問正解でした。
「各自復習するように。では、授業はここまで」
予鈴が鳴りました。
配られた解説プリントと見比べながら、わからなかった部分をじっと見つめました。もっと勉強しないとなぁ。
「魔奇さん、次の授業は移動――」
言いかけて、思わず凝視してしまいました。何をって? 彼女の小テストです。
「うう…………」
「あの……」
「や、やばいかも……!」
「よ、よくなかった?」
まあ、すでに見てしまったのですが。
「めちゃくちゃだめだった……」
小テストに書かれた数字。二十点が満点なのですが、彼女のプリントには『三』という数字が。
「これ、まずいよね……」
「あはは……」
「べ、勉強してないわけじゃないんだよ? ただ、点数はアレだけど……」
「勉強苦手?」
「…………」
彼女はプリントをファイルにしまいながら、「……うん」と頷きました。
「わたし、昔から勉強も練習も苦手で。なかなか上手くいかないし、伸びないんだ」
「勉強方法が合ってないだけかもしれないよ」
「そうかなぁ」
首を捻りながら立ち上がる魔奇さん。隣同士になって次の授業へと向かいます。
悩んでいる様子の彼女に、どうしても訊いてみたいことがありました。
「テストの結果が悪かったなら、魔法で時間を巻き戻すことはしないの?」
もちろん、それがいけないことだとわかっています。しかし、魔女にとってもそうなのかは、わかりません。
「それはしないかな。というか、できない?」
「決まりがあるの?」
「お母さんが言うには、禁忌魔法のひとつなんだって。それに、時間を巻き戻していい点を取っても、わたしは嬉しくないから」
「魔奇さんは偉いね」
「へっ……? 今、そんな話だったっけ……?」
「そんな話だったよ」
「そ、そう? じゃあ、お言葉に甘えて、えへへ……」
お褒めの言葉をありがたく受け取った彼女は、照れくさそうに頬を掻きました。
「勉強って一言でいっても、国語や数学みたいな教科に加えて、魔法もあったんでしょ?」
「うん。しっかり使えるようにならないと、自分だけじゃなくて他人にも迷惑かけちゃうから。だから、どちらかというと、魔法を主に勉強してきたんだ。他の教科はおろそかにしてた。言い訳だけどね」
ふいに、どこからか杖を取り出すと、くるくると先端を回しました。彼女が持っていたファイルからプリントが飛び出し、私たちの前でぱたりぱたりと折られていきます。
みるみるうちに出来上がったのは折り紙の鳥。勢いよく書かれた『三』が目のように見えます。
「いろんな魔法が使えるようになったけど、こっちは散々」
二人の周囲を飛び回る紙の鳥。
彼女は『散々』と言いますが、私にはとても素晴らしいものに見えていました。
「でも、使えるようになったなら、大丈夫だよ」
「たくさん勉強するよ……」
「私も手伝う」
「えっ?」
一瞬、鳥のはばたきが止まりました。慌てて羽を動かし、彼女の手の中に戻っていきます。
「魔法の勉強は無理だけど、他の教科なら教えられることがあるかも」
「え、でもわたし、小テストの点数三点だよ?」
「伸びしろがいっぱいだね」
「ポジティブ……」
しばらく黙った魔奇さん。ややあって、
「ちなみに、平良さんは小テスト何点だった……? あ、嫌なら答えなくていいんだけどね!」
「十九点だったよ」
「十九点⁉」
そんなに驚くことでしょうか。満点の人も何人かいるはずです。
「すごい……」
赤みがかった黒い目がこれでもかと開かれ、私を見つめています。そんなに見られても。
「……平良さんに迷惑かからない?」
「人に教えると自分の為にもなるんだよ」
「そうなの? えっと、それなら……ぜひ、お願いします」
「うん。一緒に頑張ろうね」
何から始めましょう。まずは小テストの復習ですかね。
「魔奇さん、そのプリントにかけた魔法は解ける?」
「それはもちろん」
杖を一振り。あっという間に鳥は消え、三点の小テストが姿を現しました。
「あっ」
「おや」
プリントを見て、同時に声を出します。これはこれは……。
「折り目がすごいね」
しわくちゃのプリントを黙ってファイルにしまった魔奇さん。
その行動をじっと見ていると、『あちゃー』と書かれた表情で彼女は言いました。
「見えればオッケー」
お読みいただきありがとうございました。
魔奇さんは勉強がちょっと苦手です。




