表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/61

1話 隣の席の魔女さん

閲覧ありがとうございます。

『三角帽子とシロツメクサ』、楽しんでいただけたらうれしいです。

 

 予鈴が鳴りました。

 わずかに開いた窓からは、四月の柔らかな風が入ってきます。どこから来たのでしょう。桜の花びらが私の机の上に舞い落ちてきました。


 担任の先生が今日の予定を話し始めます。いつもと同じ、普通の日々。違うことと言えば。

 私は左に顔を向けます。座っているはずの生徒の姿はなく、少しだけ寂しい気持ちになる空席がありました。


 どうしたんだろう。興味ではなく、心配な気持ちを抱いた時でした。

 白い雲が流れていく青い空。学校に向かって何かが飛んでくるのが見えました。鳥にしては大きく、とても速いものでした。


 何事かと慌てる私はいません。代わりに、安堵が混じった笑みがこぼれます。


「おはようございまーーーーーす‼」


 窓にぶつかる直前、それは急停止しました。自分が入れるようガラッと大きく開き、乱れた髪もそのままに大きな声で挨拶をする彼女。


 息を切らしながら、ふわりと教室に降り立ったその人は、プリントを持っていた先生を凝視し、また。


「おはようございます! セーフ⁉」


 迫真の勢いで問いかけました。先生は驚くこともなく、平然と「アウトだ」と答えます。


「そんな……」

「残念だったな」

「かなり急いだのに……」

「遅刻三回で欠席一回になるから、気をつけろ」

「わかりました……。あっ!」


 肩を落としていた彼女は、突然、口に手を当てて固まりました。先生は、生徒たちにプリントを配りながら、特段気にするまでもなく訊きます。


「どうした? 忘れ物か?」

「あの、わたし、遅刻というものに若干の憧れがあったので、ちょっと嬉しい気持ちがないと言えば嘘になります」

「そうか。内申に響いても知らないぞ」

「いやー! それは困る!」


 教室内という環境に配慮した音量で悲鳴をあげると。鞄から取り出した細長い物を手に、わなわなと震えました。


「こうなったら、魔法で時間を巻き戻すしかない……! やっちゃだめだからやらないけど」


 ずいぶんとファンタジーな言葉をつぶやく彼女に、私は思わず、くすりと笑いました。


「今回は見逃してやるから、次回から気をつけろー」

「えっ、ほんとですか?」

「予鈴の直後だったからな。誤差ってことで」

「ありがとうございます、先生」

「おうよ。さて、プリントは渡ったか? まず――」


 胸を撫でおろし、室内用の靴に履きかえながら、彼女は私の視線に気がついて「えへっ」と頬を赤らめました。

 恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに、彼女は私に微笑みかけます。


「おはよう、平良さん」


 何の変哲もない朝の挨拶。どこにでもある普通の一日の始まり。

 私の日常には彼女がいます。特徴的な三角帽子を被り、ほうきを手にした彼女が。


「おはよう、魔奇(まき)さん」


 窓側の最後列。私の隣の席には、魔女の魔奇さんがいます。


お読みいただきありがとうございました。

のんびり投稿していきますので、お付き合いくださいませ。


気に入っていただけたら、コメントやリアクション、ブクマなどよろしくどうぞ!

誤字・脱字報告もなにとぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ