天才少女による紙飛行機を用いた完璧な告白の方法論
夕暮れの並木道、歩く君の傍らを、すうっと追い越していく紙飛行機。
つかまえて拡げてみた君が、そこに綴られた言葉にハッと振り向けば、はにかみ微笑む私がいる……
……うん、完璧。
◇ ◇ ◇
もうすぐ最後の冬休み。
三年通してついぞ春の訪れなかった僕の高校生活も、じき終わる。そんな学校帰り、てくてく歩く夕方五時。
「痛ッ!?」
とつぜん後頭部に走った痛みで振り向いた。
けど視界には人影のない並木道。
困惑しつつ、視線を落とす。
──紙飛行機?
足元に不時着した空色の機体の、羽をつまんで拾い上げてみる。鋭角に折り固められた先端はもはや紙の凶器。
「おとなしく自首すれば、許さないでもない」
姿なき犯人に呼びかけるけど、応えるのは風に舞うイチョウの葉だけ。
なら、凶器に犯人の痕跡がないか調べてみよう。素材をよく見ると、等間隔に細い線が走っていた。ノート……いや、便せん……?
入り組んだ折り目を開いていくと、表れたのは綺麗な文字。この筆跡、どこかで──
「まま待って!」
そのとき、思ったよりだいぶ離れた並木の影から、制服姿の女の子が叫んで飛び出した。
「ぶべ!?」
そして足をもつれさせ、顔面からヘッドスライディングをキメる。そのままぴくりとも動かない。
どこかで、心の折れる音が聞こえた気がする。
「大丈夫、佐伯さん?」
「ゔ」
駆け寄る僕に名を呼ばれ、彼女は小さく呻く。
差し出した手を遠慮がちに握って立ち上がると、すぐ離してパッツン前髪を整え、服のホコリを払う。
よかった、怪我はなさそう。
彼女は同級生だ。常に学年トップ成績で有名大学の推薦入学も決まってる、メンサ会員の天才少女。
そのぶんクラスには馴染めず浮いている。
馴染めてないのは僕も同じだけど、こちらは浮いてるというより沈んでるだけ。
ちょっぴり距離が近づいたのは去年、二人で文化祭実行委員をやらされたとき。まさかのB級映画好きが発覚して話が弾んだ。
けど、文化祭が終われば自然と元の距離感に戻っていた。
「これは」
紙飛行機だった便せんに、綴られた一言。
『きみが好き』
「完璧な計画だったの。気づかない距離から丁度いい速さで追い越す紙飛行機の折り方も、一年がかりで完成させて」
そんな才能の無駄づかいの結晶は、力みすぎて僕の後頭部に直撃した。
「ごめん、痛かったよね」
「嬉しかった」
「え!?」
「僕も、好きだよ」
こうして僕らは恋人同士になり、翌年の全日本紙飛行機コンテストで優勝と準優勝をかっさらった。
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