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06.隠されていた事


「あれは噴火と言われているが実は噴火じゃない。バルドー教が爆破したんだ」


「え」


 とても信じられない言葉に私は恐る恐るテーブルに置かれた書類を手に取る。その書類は当時の記録のようだった。時系列で記された報告を瞬きもなく読み進めていく。その書類によると確かにあれは噴火ではなく、人の手による爆破のようであった。


「供物……」


 私の呟きに副長が頷く。


「そう、供物。霊峰ムーランは言わずと知れた竜人と魔人の決戦の地。そこには教会があった。神父は5人、シスター20人。それに登山者が3人」


「それが全員……」


 書類によると全員が死亡。後に爆破で亡くなったのではなく爆破の前に内臓を抜き取られていた事が判明と記載がある。気持ちの悪い文字に吐き気を覚えた。


「こんな事実を公表出来るはずも無い。だから国はこれを隠蔽し、噴火だと嘘をついた。勿論おかしいという意見は出たんだけど無理矢理押し通したんだ」


 悪手だよね、と副長は目を伏せた。

 別に私も王宮魔術師だからと言って盲信的に国を信じていたわけではない。でも情報を隠されていたという事実に少なからず悲しみを覚えた。裏切られたような、いや、実際裏切られたのだと思う。

 そんな、という冷たい感情で頭が冷えていく。


「その事件の時に当時の教主と幹部を一斉に捕え、裁いたのだけどこういう宗教は一番上が変わってもまた次が出てくるからね」


 副長の瞳は伏せられたままだ。どれ程の力で拳を握っているのか、膝の上の手は白く血色を無くしていた。


「何故、バルドー教はそんなにも惨い事をするんです?」


「魔人を呼ぶ為だよ」


「魔人なんて呼べる筈ないですよね? 魔人は地上では生きられない。瘴気のある中でしか」

 

 そこまで話して私は言葉を止めた。ある考えが頭に浮かんだのだ。

 

「まさか」


 私は副長を見た。副長も私が何を考えたのか分かったのだろう。頷いた。


「そう、その考えの通りだよ。バルドー教はね、あの手この手で瘴気を満たそうとしているんだよ」


「そんなの、あの森にあったやつ何個必要だと思ってるんです? 天井がある地底ならまだしもこちらはそんなものないんですよ? 無理に決まってるじゃないですか」


 困惑を通り越し、呆れてくる。あの森の瘴気が増え、魔素量が増えたのはあの森が閉鎖された土地だからだ。他の土地ではああ上手くはいくまい。


「それを出来ると思っているから厄介なんだよ」


「出来るわけがない……」


 そのバルドー教には頭のいい人はいないのだろうか。出来る筈もない事を出来る!と見切り発車でやるのは時間の無駄のように思えて仕方ない。

 全く理解出来ない。魔人信仰も、世界を瘴気で満たせると思う思考も。余程盲信的な信者が多いのだろうか。

 眉根を寄せ、首を捻っていると副長は確信的な言葉を口にした。


「100%彼らだ」


 強い言葉に息を呑む。今の表情だけ見れば疲れているようには見えない。死んでいた目は炎が宿ったように強い意志を孕んでいる。


 私は顔を両手で覆った。

 何と自分は引きが良いのか、いや悪いのか。まさか自分が担当した調査がこんなものに当たるなんて。逆鱗に魔人信仰?そんな一度に聞く単語でもないだろうに。一つの事件に一つそれが関わってたら大事みたいな感じではないの?

 何が嫌だって、自分の報告書がその大きな事件になりそうなものの最初の書類になるのが嫌だ。いつものように適当な定型文では書けないし、抜けなんて以ての外。後々突かれそうな隙も作ってはいけない。


(報告書、まだ全然手つけてないんだよね)


「因みに報告書は今日中ですよね」


「あ、うん。今日の13時までに貰えると助かるかな。15時からこの件で会議があるから」


 壁掛け時計をチラリと見る。時間は9時ちょっと過ぎ。いけるだろうか。


「わかりました」


 しかしこの状況で無理だとは言えるわけもない。感情を殺して頷いた。


「あと逆鱗の件。これもまた厄介で、実は非公式にハルフォークから行方不明者の問い合わせが三ヶ月前にあったらしいんだ」


「そうなんですね」


「そうなんだよ、それでその時はこんな事になるとは思っていなかったから捜索も程々に打ち切って、我が国にはいないようだと答えたみたいで」


 そうか、逆鱗なんて早々取れるものではない。それが単体であるなんて事件に巻き込まれたとしか思えない。

 誰かが竜人を害したのだ。

 

 他国、しかも竜人国の者を害したなど考えるだけで恐ろしい。

 地上の人間や獣人にとって、竜人は神に等しい存在だ。それこそ竜人信仰が盛んである。神話の時代、私達は彼らに守られた。故に彼らを神格化しているのだ。


 そんな竜人の第二の心臓を奪ったなんて、神罰待ったなしだろう。神の怒りに触れる。いや、竜人の怒りの鉄槌が落ちる。


「恐ろしいですね」


「本当だよ、一度した返答を覆すのだから信頼も無くすだろうね。まあ、それは上が考えれば良い事だけど」


 副長は光のない目で笑った。そして遠くを見ていた視線を私に戻す。少しだけ申し訳なさそうにしたかと思うと名を呼ばれた。

 

「それでね、ベインズさん」


 ちょうどその時、コンコンと扉がノックされた。副長は言葉を止め「来たかな」とぼやく。


「失礼します」


 聞き覚えのある声に眉根が僅かに寄った。朝から聞くにはしんどい声だ。

 開かれた扉から見えたのは綺麗な金髪と、胡散臭げな笑みを浮かべた人物。私の苦手な先輩、ファル・テリオンだった。




読んで頂き、ありがとうございます。

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