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51.急に内容変えさせる奴って何?


「ではこれから作戦を説明する」


 離宮の一室、特に広いこの部屋は妃達のティールームだったらしい。そんな華やかだった部屋には現在、華美さが全くない長机が幾つも並べられていた。


 皆を見回せるよう、正面に座るのは騎士総長とハルフォークの第二皇子殿下。皇子の瞳は強い意志故か燃えているように真っ赤だった。瞳の奥に何かを必死に押し留めているようにも見え、見ているだけで身震いが起きた。


 私は震えを堪えるように机の下で自身の手をきつく握りしめる。


「皇弟殿下の気配は王都より南、旧ジャンカ坑道にあるようだ。そこを今晩のうちに叩く。先行し、竜人騎士数名と諜報部隊が向かった。既に二人の竜人が発見されている」


 そう、あの副長がした机を叩く動きは()()という事だったらしい。個人的には日中の明るい時間の方が良いのではないかと思ったが、ハルフォークが夜を希望したらしい。竜人は人間よりも夜目が効く。寧ろ夜の方がやり易いようだ。


 先行隊の調べによると坑道の最奥に教団の祭壇があり、奥に近い程、教団での位が高そうな人物の部屋があったとの事。そこには幾ら探しても見つからなかったスベンを襲った男を唆した支部長もいた。


 見つかった竜人はいずれも入り口近くの部屋にいたらしい。意識は無く、浅く息をしていた様子だったが、本隊突入前に警戒される事態は避けたい為、まだ救出出来てはいないと。


「まず、旧ジャンカ坑道の北側にある森に転移する。大人数での転移は見つかる危険がある為、第三魔術師団の一人が先行して移転場所に結界を張って貰いたい」


 総長の視線がこちらに向いた。という事は先輩ではなく、私への依頼という事だ。


「わかりました」


「よろしく頼む」


 こういう仕事は得意だ。攻撃を先に仕掛けろ!と指示されたなら断るだろうが、防御系なら「おまかせあれで」ある。隣の視線がうるさいが、今は一旦無視をして気を引き締めた。


 森での行動の説明後、話は坑道内の動きに変わる。

 夜目が効く竜人が主かと思いきや、坑道内に入るのは小柄な竜人の二人のみ。スベンともう一人の騎士が入る事となった。

 第二皇子は少し不服そうであったが、長期間点検を放ったらかしにしていた坑道だ。大柄な竜人が複数暴れれば崩落の危険性がある。生き埋めの危険を回避する為、最低限の人数で侵入するようだ。


「班は各五人で行動を」


「そう上手くいく?」


 会議に水を差したのは先輩だった。ただでさえ余計な声が聴こえなかった室内がシンと静まり返る。ピリつきも感じる空気だ。私も皆が視線を向ける人物へ瞳を動かす。視線の先の先輩は何処か冷めた顔をしていた。


「これまでの事を考えると教団は素人集団だとは僕も思う。だからこういう事に慣れている僕らが対処すれば簡単に制圧出来る筈……という考えも分かる。でも相手は少し頭がおかしい連中だよね? 坑道内に爆発物があったら? それが爆発して生き埋めになったら? 殉職も計画の内?」


 総長の眉間に険しい皺が刻まれた。


「それを考えていない訳ではない。当然危険もある。最悪の事態も考えられるだろう。しかし、それよりも」


「叔父上の気が乱れている」


 鋭い声に先輩がほんの少し瞠目した。真っ赤な瞳に怯んだ訳ではなく、第二皇子の言葉に驚いたようだった。

 私にはその「気が乱れる」意味は分からない。しかし、あまり良くない事だとは分かる。


 カタリと椅子が床を擦る音が聞こえた。


「通常の気よりも荒ぶっていた。恐らく、叔父上は正気を保っていないだろう。きっともう限界に近い……何が行われているのかは知らないが」


 立ち上がった第二皇子が先輩の横に立つ。大きな体な分、影も広く掛かった。私にも掛かる影がゆらりと揺れた。とん、と机に皇子が手を置いたのだ。大きな手が机に爪を立てるように広げられている。


 先輩は瞳に確かな意志を宿し、真っ直ぐに第二皇子を受け入れていた。

 

「アンワース公が自我を失っている可能性が高いならば、もっと協議をするべきだ」


「もう充分過ぎる程したさ」


「我が国の人間に犬死をしろと?」


「ならば来なくて結構だ。俺達で全てやる」


「はは、あいつらは大量の逆鱗を集められて嬉しいだろうね」


 流石に毒の吐きすぎだ。ピリつきを通り越し、ガラスの破片に四方を囲まれているような空気に息さえもままならない。瞳ひとつ動かすのにも注意が必要である。


 空気に紛れるよう、そろりと瞬きをした。重い空気は必要以上に口が乾く。僅かに口を開き、乾燥した唇を舐めた。


「ならば、お前の案を言え。お前はどうしたいんだ」


 第二皇子は怒りを孕みながらも諦めが感じられる声を発した。赤い髪をぐしゃりと掻くと、腕を組み先輩を見下ろす。

 先輩は皇子の圧を何とも思っていないのだろう。一拍も置かず、口を開いた。


「坑道内で何かが起こった場合、命取りになる。だから僕なら外に誘き寄せる」


「囮か?」


 先輩は頷いた。


「彼らが欲しているのは竜人の逆鱗でしょ。だから君が囮になれば良い。ああいう奴らは血統が良ければ更に良いと単純に考えるだろうからね」


「ハッ」


 乾いた笑い声の間から鋭い歯が見えた。酷く馬鹿にした表情に背筋が凍る。

 怒らせてはいけない人を怒らせたと部屋の皆が思っている事だろう。そう、先輩を除いて。


「それが嫌なら、もう一つ策を言おうか?」


 どうしてこの人はこんなにも強気なのか。確実に煽っている。

 やめろやめろと先輩を隠したくなった。こういう場なので何も起きていないが、場が場だったら殺される程の不敬罪だ。どうして総長も何も言わないのだろう。こういう時、止めるのは総長の役目なのに。


(副長がいれば止めてくれたのに)


 副長は他の予定があり、途中退席した。作戦には参加予定だから、次会うのは現地だ。


 (今すぐ帰ってきて)


 そんな願いが叶うはずも無く、紙擦れの音一つしない空気が続いていく。


 緊張感が漂う中、先に口を開いたのは第二皇子だった。皇子は大きく溜息を吐いた後、赤い瞳を伏せる。


「それは今聞いたものよりも成功性が高いか?」


「いや、どっこいじゃない? でも少なくとも説明されたものよりは犠牲者は少ないと思うけど」


「わかった。では聞かない。時間の無駄だ」


 皇子は捕食者のような瞳を総長へ向けた。あれは怒っている目だ。


「練り直すぞ、今此処で」


 総長はチラリと先輩を見た後、浅く頷いた。この場では第二皇子の言葉が絶対である。先輩の様に異議を唱える事は性格上出来なかったのだろう。いや、総長という立場上出来なかったのかもしれない。もう彼も総長となり長い。長期間縦社会に身を置いていれば、上の意見を絶対的に受け入れる体となっていてもおかしくは無い。


 受け入れる事が茨だと自ら分かっていたとしても。


「……ファル、作戦を説明してくれ」


 低い声が更に地を這うような声に聞こえた。総長に促された先輩がボードに貼られた地図に印を置いていく。


「さっきも言ったけどヴォルフラムは囮になって欲しい。竜体で奴らの目を引いてくれ」


 そうして先輩は赤いピンを地図に刺した。


 どうして先輩は作戦を白紙にさせたのにこうも堂々としているのか。正直如何なものかと思う。人の心が無いというか、何というか。

 確かに先輩の言う通り、坑道内は逃げ場も無く、何か衝撃が加われば当然崩落リスクは高い。外に誘き出した方が断然捕縛し易いだろう。何たって外には夜目が効く竜人が多数いる。


 それでも坑道内に入った方が良いと判断したのは皇弟殿下や見つかった竜人二人以外にも捕らわれている竜人がいるかも知れないと考えたからだろう。

 獣人然り、竜人も同胞に対し情が厚い。全ての竜人を助けたいという希望故に先の作戦を立てたのだと思う。多分、きっと、恐らくだけど。


「先行隊に探知が得意な人は居る?」


「……ファル程ではないが」


 歯切れの悪い返事に先輩は迷いもせず、手を上げた。


「じゃあ、僕も会議後直ぐに飛ぶ。本隊到着までに地図作っとく」


 先輩の作戦は実に単純だった。

 第二皇子を囮とし、教団の動きを見る。此処で動くのは下っ端のみだろうとの予測だ。そして皇子が目を引きつけている間に隠密行動を得意としている諜報部隊と魔術師が先輩の地図を元に坑道内へ侵入。

 竜人達の救出、それと……


「御神体みたいなものを祀っていると思うんだよね。それも破壊してほしい。もうこんな事、二度と出来ないように完膚なきまでに潰したいから」


 先輩の口元が楽しそうに歪む。しかしその目は嬉々とは程遠い、鈍い光を反射していた。




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