28.舞踏会
「ベインズさんはファルのパートナーになったんだね」
魔術師団の事務所へ戻り、与えられた部屋で先程の議事録兼報告書を作成していると突然副長がそう話しかけてきた。
副長は私が先輩が苦手な事を知っている。だから何故パートナーになったのだろうと疑問を抱いているようだ。疲れ果てた顔はデフォルトだが、その中に気遣わしげなものが見え隠れする。
「まあ、弱味を握られまして」
同じ部屋に先輩もいるが、敢えて素直に答える。すると副長は勢いよく先輩を見た。
「そそそ、そういうのは良くないと思うよ!?」
「弱味を握られる方がいけないと思うけど?」
少しは狼狽えれば良いと思ったのだが、飄々と何でもないように言われムッとする。そうかもしれないが、それは悪人の台詞だ。
代わりに狼狽えている副長が可哀想になり、大きく息を吐いた。肩を落とし副長を呼ぶ。
「大した弱味じゃないんで大丈夫です。そんな犯罪的なものじゃないので」
「でも弱味なんでしょ? 大丈夫? 今から別のパートナー探そうか?」
良い提案だが、だったら出席せずに帰りたい。昼間少し寝たくらいでは疲労は取れなかった。帰って寝たい。
「変な事言わないで。もうドレスだって用意したんだから。それにそうなったらキャロルは欠席すると思うよ。新しいパートナーなんかより眠気が勝ってると思うし」
「よく分かっていらっしゃる」
もう本当に文章も纏められない程眠い。机にはぐしゃりと丸まった紙が何枚も転がっている。それもこれもまだ寝ていられる時間に起こした先輩がいけないのだが、分かっているのだろうか。これから舞踏会なんて無理に決まってる。踊れるわけがない。足が縺れて転ぶ未来しか見えない。
「分かってるなら帰して欲しいんですけど」
手に持っていたペンを机に置き、進まない仕事と先輩への苛立ちから頭をガシガシと掻く。
副長の心配そうな視線は置いといて、問題の先輩は満面の笑みを浮かべていた。人の弱っている姿を見て笑うなんてどうかしている。
「キャロル、あと20分したら出ようか。準備しなきゃだからね」
時計を見れば確かにドレスの着付けやらヘアメイクをするにはぎりぎりの時間を指していた。そういえば下の階はもう静かな気がする。もう女性陣は退勤したのだろうか。今日は確か16時退勤が推奨されていた。
(そういえば事務所に帰ってきた時、あんまり人いなかったな)
帰ってきた時それどころではなかった為、あまり気にしていなかった。
もうどうせ、頭は働かない。
そもそも皇子達にも出席すると言ってしまった為、今更欠席など出来ない。
私ももう20分とは言わず退勤しよう。
「で、何処にドレスを用意してるんですか? マキサさんのお店?」
溜息を漏らしながら、立ち上がれば先輩は首を横に振った。
「違うよ、僕のタウンハウスさ」
「は?」
視界の端にいる副長の顔が青褪めているように見えた。
共に退勤し、現在テリオン伯爵家のタウンハウス。あの有名デザイナーのドレスを購入していたのでどんな豪邸かと思ったが、意外にもこじんまりとした屋敷だった。もしかしたら無理をして買ったのかもしれない。そう思うと大変申し訳ない気がしてきた。
通された部屋にはマキサさんが手直しをしたドレスと数人の侍女が居た。年齢は自分よりも少し上だろうか、皆落ち着いた雰囲気で私を待ち構えていた。
先輩は私をその部屋に放り込むと自分も支度があるからと去っていった。まあ、それは良い。いられても困るから。
私はただドレスを着て、ヘアメイクをして貰うだけなんだろうなと思っていた。時間も時間である、そんな悠長に準備していられないだろうと。
しかしお姉さま方は一瞬で私を剥いた。そして羞恥心よりも困惑が勝っている間にアレヨアレヨと言う間に私をピカピカに磨き上げたのだ。良い匂いの香油に一瞬寝そうになったが、それも太腿のセルライトを押し潰すような動きで起こされた。酷い。でもセルライトを潰してくれてありがとう。
顔も長時間ぺたぺたと基礎化粧を叩きこまれ、「これが私……?」と素で言ってしまった。何しろ肌が内から輝いていたのだ、プリンとつるんと光り輝いて、もうこんな肌、子供の時以来なのでは?と感動ものである。
そんな凄腕お姉さま方の手に掛かれば、もう出来上がりは言うまでもないだろう。
過去最高の自分が鏡に写っていた。
ピカピカツヤツヤの肌に、いつもより目が大きく見える化粧。唇もぷるんとしている。徹夜明けとは思えぬ出来だ。
マキサさんに着付けして貰った時もなかなか胸が盛れたが、お姉さま方はそれ以上盛った。そんなところに胸の肉なんて無い!と思ったが、まあ、あったようで今や溢れんばかり胸である。ぷるんぷるんだ。
全身鏡の前でくるりと回ってみた。
「お、おしりが上がってる!」
驚きの上がり具合に声を出して驚く。いつも布が余っていたのにパンッと布が張っているではないか。サイズ調整したせいもあるのだと思うが、それ以外の理由も大いにあるだろう。
(なんという腕だ……)
ゴクリと喉が鳴った。鏡越しにお姉さま方を見れば、とても満足そうに頷いている。
「入ってもいい?」
そうして全身くまなく見ていると、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
私ではなく、お姉さまが返事をした。するとすぐに扉が開く。
入って来たのは当然、先輩だ。先輩もいつもより髪をかっちりとセットしている。化粧はしていないので顔は変わっていない。元の顔が良いからだろう、品の良い服を来ているとまるで王子様のようだ。
しかし、先輩から見て私は大きく変わっていたようだ。
部屋に入ってきた瞬間、目を大きく見開かれた。ぽかんと口も開いている。それは最近自分がよくする顔だな、と私は他人事のように思った。
私はどうだ!という気持ちを込めて、溢れんばかりの胸を張る。ふるんと胸が揺れたのが見えた。
「綺麗だ、さわっ」
「駄目です」
綺麗とだけ言えば良いものを余計な事を言うな。
じとりと睨みつければ、珍しく「ごめん」と謝られた。
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