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27.番


 いや、何だ。そんな事起きるのか。道理で調べてもよく分からないわけだ。魔術の痕跡がなければ第三では調べようがない。しかし、第三の報告を思い出し、少し安堵していた気持ちが振り出しに戻った。

 

(でも第三は魔術の残渣があるって言っていたな)


 濁る際に魔力が込められるなら話は別だが、きっとそうではないだろう。だとしたら単純に番が関係あるとも考えづらい。


「それは濁る時に魔力がそこに移ったり、特殊な魔術を発動したりする?」


 先輩も同じ事を思ったようだ。眉間に皺を寄せ、そう訊ねた。皇子は直ぐに首を横に振る。


「そういう事はない。ただ濁る。濁り、それを持つ者に病をもたらすと言われている」


「迷信みたいだね」


 曖昧な説明に先輩は苦笑を漏らす。小馬鹿にしているようにも聞こえる声に少しドキリとしたが皇子は怒る事はせず、寧ろ申し訳なさそうな声を出した。


「そう思われるのもしょうがない。あまり例がないからな、俺も見た事がない。そもそも番と出会う事が難しい」


 皇子は手のひらの逆鱗をもう一度まじまじと見つめ、テーブルに戻した。


 私達人間には分からないが、獣人や竜人は魂の番が必ずいるというのは常識だ。しかしその人と出会える確率は1%も満たない。その為、皆表向きには番など気にせず生活している。そう、表向きにはだ。番を強く求める本能を押し殺し、彼らは生きているのだ。


 そう考えると皇子が言った「番が関係している」というのもおかしく感じる。番はそう見つからない。そんな中、竜人二人、少なくとも二人が番を見つけたという。


(同時期かは分からないけど、そういう事もあるのかしら)


 もう既に番と共に生活していた二人に何かがあり、番に絶望したという方が考えやすいか?それはそれで惨い悲劇でしかないが。


「わかった、そういう話があるという情報を調査部門に伝えるよ。良い? 問題ない情報?」


「ああ、問題ない」


 此処で考えていてもしょうがないと結論付けたのか、先輩は閉じていた資料を開くとペンを叩きつけるように走らせた。そしてこの情報に詳しい人はいるか?と訊ねる。皇子は少し考えこみ、一人の名を口にした。


「ああ、叔父上だ」


 苦笑混じりな答えに先輩は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「アンワース公か」


 一番知りたい情報は行方不明者が知っているなんて何て事。それ以上何も言えなかったのだろう、先輩はペンをテーブルに置く。丸いペンがカラカラと転がった。


 静まり返った室内の中、私は時計を見た。時間は与えられた一時間を少し過ぎたくらい。この後、歓迎パーティーの予定があるのでそろそろ締めに入った方が良さそうだ。真っ白な顔をした副長はもうあてにならない。先輩も何か考え込んでいるようで話し掛けられる雰囲気ではない。

 視線を彷徨わせていると、ふと騎士と目が合った。金色の目は合うだけで威圧感がある。びくりと肩が思わず震えてしまった。その震えに副長が気付き、こちらを気遣うように見た。この機を逃す訳にはいかない。私は腕時計なんてしていないが、トントンとこっそり自身の手首を叩いた。

 それで私が何を言いたいか理解したのだろう。副長は自身の腕時計を確認し、締めの言葉を口にする。


「では時間も押しているようですので、今日のところはこちらで大丈夫でしょうか? 何か最後に質問などあれば」


 二人共、何もないようだ。首を横に振る。


「大丈夫だ」


 これ以上伸びては後の用事に差し支える。ほっと息を吐き、皇子が立つのに合わせ自分も立ち上がった。先に彼らを歩かせようとその場に留まっていると私の前を通る皇子が突然立ち止まった。大きな影が自分に掛かっている事にただ驚く。顔をこの距離で見上げるのは失礼だろうか。でもこんな距離で見られているのに見ないのも失礼な気がする。


(なんで止まるの? やめろやめろ!)


 背中をこつんと軽く叩かれる。私はそろりそろりと皇子の顔を見上げた。無理やり上げた口角は果たしてちゃんと笑みを作ってくれているのだろうか。淑女教育が終わってからだいぶ間が空いている。社交界からも遠ざかっているから表情管理はもう不得手だ。


「君はキャロル嬢と言ったな」


 赤い激しい目が弧を描く。不自然さは感じない為、悪い印象は与えなかったのだろう。それにひとまず胸を撫でおろし、先程よりも解けた笑みを作った。


「はい。キャロル・べインズと申します」


 胸に手をやり、軽く頭を下げる。すると大きな影が動いた。


「珍しい髪をしているな。橙か? 桃色か?」


 髪を掬われていると気付いたのは、そう言われ数秒経ってからだった。私の手入れしていない髪が大きな手の上で撫でられていた。ぶわりと全身の毛穴が開く。


「キャロル嬢は舞踏会には出るのか?」


「は、は、は」

 

 驚きすぎて返事がまともに出来ない。目が眩む程のオーラもそうだが、単純に顔が良い。だからもう本当に頭からポンと言葉が飛んだ。手が犬のしっぽのように揺れる。

 そういえばココが好きな舞台俳優に声を掛けられた時失神したと言っていた。あの時はそんな事ある訳ないと馬鹿にしたが、今理解した。ごめん、ココ。そんな訳あるかと言ってごめん。そんな訳ありまくるね。


「どうした?」


 不審がる皇子、その後ろにいる騎士も不思議なものを見る目で見ている。

 どうしよう。「はい」と言うだけなのに喉が震えて音にならない。もう髪を触るのをやめてくれ。


「ヴォルフラム、もう離して」


 気付けば先輩が私の横に居た。髪に触れる皇子の手を払い、私をソファーとテーブルの間から抜け出させるように引っ張る。足元が覚束ない私は引っ張られた勢いでポスンと先輩の胸に倒れ込んだ。


「ちなみにキャロルは舞踏会に参加予定。僕のパートナーとしてね」


 肩を持たれた。言葉の通りだが、勘違いされかねない言い方である。もう少し言葉を足した方がいいのではと思い、先輩を見上げた。いつもと同じ軽薄な笑みを浮かべていた先輩は私の視線に気付き、肩を持つ手に力を何故か入れた。


 どうして、とは思わない。彼は私の事が好きだと言った。結婚したいとも。宣戦布告だってされた。だからこの行為は「外堀から埋められている」状況なのだろうと今まさに理解した。

 急激に醒めた頭は足腰をしっかりとさせる。


 私は先輩の胸の中から抜け出し、何事も無かったかのようにその場に立った。

 

 目を丸くした皇子の視線が痛い。面白いものを見たと言わんばかりの目だ。しかしその後ろに立つ騎士は汚物でも見るような目で先輩を見ていた。




読んで頂き、ありがとうございます。

投稿22時頃に出来ず、申し訳ございません。

ストックが無くなった為、8/18は更新時間未定で二回更新予定です。

(この更新は数えず)

また8/19~は一回更新となります。(時間未定)

よろしくお願い致します。

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