25.仲良し
定刻となった。
会談が行われる部屋は宰相が主に接待をする部屋だ。皇族を通すには簡素な部屋だが、失礼すぎる事は無い。装飾がセンス良く配置されている。あまり華美すぎるのは謝罪から始まる会談には相応しくないだろうから。
しかし、そんな配慮をした筈なのにどうしてだろう、部屋が黄金に輝いている。
「ハルフォークで皇子をやっているヴォルフラムだ。今回は宜しく頼む」
目も口も笑んでいる筈なのに威圧感しか感じられないのは高貴な血が流れているからか、ぶわっと体にぶち当たるようなオーラに身が縮んだ。
ばしばしと目が痛む程の存在感にも目が細まる。
眩しい、眩しいのだ。パレードの時も思っていたが、何故人が輝いて見える?何処から発光している?竜人の皇族は内臓に発光機能が備わっているのか?目を覆うものが切に欲しい。
第二皇子はパレードの時に着用していた服ではなく、軍服へと着替えていた。先程の服も華やかで豪華であったが、この軍服もそれに劣らない程素晴らしい。黒を基調とした軍服の胸元には幾つもの勲章が並んでいた。第二皇子はかの国では軍部幹部である。勲章の数だけ武功をたてたのだろう。そして何より目を引くのは首元にファーが装飾されたペリースだ。マントは軍服と同じ黒だが、生地が違う。上品な波を魅せるそれに少しときめく。
第二皇子は副長、先輩、それに私と握手をすると一人掛けのソファーに腰掛け、流れる動作で足を組んだ。その後ろには護衛なのかハルフォークの騎士が直立している。間近で見る騎士はやはり大きい。私が知る中で一番の長身はグスタフ騎士総長だったが、総長よりも遥かに長身だ。胸板も厚い。隣で顔色を無くしている副長の胸板なんて紙である。
本当に竜人の大きさは異次元だ。私達は捕食対象なのでは?と思える程に。
さっきも第二皇子と握手をした際に「握手とは?」と手が包み込まれすぎる感覚に驚いたが、後ろの騎士と握手をしたら胡麻のように粉砕されるかもしれない。第二皇子も当然大きいが、後ろの騎士は皇子よりも断然大きかった。
「ああ、こっちのでかいのはマゼルだ。この調査団で俺の次に決定権がある」
マゼルと呼ばれた騎士はカチリと型に嵌った礼をとった。正面から見ると短髪に見えたが、礼をした際に結ばれた長い髪が背中から流れ落ちた。竜人特有の縦型の瞳孔が金色の瞳の中で険しく輝いて見えた。
「マゼル・ホルツマンと申します。以後宜しくお願い致します」
宜しくとは言っているが、そうは思えない厳しい顔つきに私はそっと視線をテーブルに落とした。
怖い。粉砕されるかも知れない。逃げるには視線を逸らすしかない。今日の自分の仕事は「ただ座っていること」。我関せずを貫くのだ。
騎士の態度は誰が見ても友好的には見えなかったのだろう、第二皇子が「ふっ」と短い笑い声を溢す。そして彼へ目配せをすると、首を横に振った。それだけで騎士は少し雰囲気を和らげ、姿勢をピンと伸ばす。先程厳しさを完全に隠し、ただそこに直立をした。
第二皇子は既に後ろに撫で付けられている髪をかき上げると苦笑する。
「久しぶりだな……ファル。相変わらずのようで良かった」
苦笑の顔を保ったまま、皇子は先輩を見た。
「そう人は変わらないよ。君も元気そうだ、それにマゼルも」
名を呼ばれた騎士はちらりと先輩を見たが、直ぐに視線を元に戻す。それに対して先輩は笑いを含んだ声を出した。
「君は相変わらず僕の事が嫌いだな」
「お前は気持ち悪いからな」
ハハハ、と皇子が笑う。皇子が代弁した気持ちが正解なのかは分からない。騎士の表情が変わらないからだ。しかし「気持ち悪い」と言われた先輩も言い返すのではなく笑っているのだから、もしかしたら本当の事なのかもしれない。
いやでも、留学先の人の気持ち悪いと嫌われるなんて先輩は一体ハルフォークで何をしたのか。副長もギョッとした顔をしているので、彼が何をやらかしたか知らないのだろう。ぷるぷると少し震えている。
(それにしても)
二人が話している様子を見ると思っていたより皇子と先輩は仲が良いようだ。先輩の敬語なしの言葉にも全く嫌な顔をしていない。寧ろこの感じを見るに敬語を使ったら怒ってきそうな感じだ。
(まさか知人レベルではなく、友人レベルだったとは)
これならこの話し合いも問題なく終わるかも知れない。希望が持ててきた私だったが、しかし、残念な事に、そう上手くいかないのが人生というものだ。
先輩と談笑をしていた皇子が「ふう」と一息吐いた。彼には少し小さい椅子に背中をだらしなく任せ、両手を組む。
縦型の瞳孔がキュウと広がったのが見えた。
「さて、説明を聞こうか。よろしく頼むよ、ヘクター殿。何たってこちらは皇弟殿下が行方不明なのだから」
にこりと笑うその瞳の奥は全く笑っていなかった。
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