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15.仕事は仕事


 それからの日々は忙しいの一言だった。

 いつもの倍以上あがってくる情報を私が軽く精査し、先輩へと流す。そして先輩にも振るい落とされなかった情報を調べられる範囲で全て調べ上げ、また先輩へと戻す、その繰り返しだ。


 それで最終的に残った情報は今のところ、三つ。そこからは副長の仕事のようで、捜査を担当する部署へと振り分けているらしい。


 正直、この仕事だったらいくらでも出来る。今までの仕事とほぼ変わらない。自分で足を運ぶ部分がないので、その分楽とも言える。

 

 問題はハルフォーク第二皇子親善訪問という名の調査団の到着関係の仕事だ。

 来たら対応すれば良いのかと思いきや、そうではない。その準備があった。


 もてなしの部分は国の上層部が主に日々せっせと動いているようだが、それ以外の事件に関する事は勿論こちらの仕事。

 彼らへの説明資料の作成がとてつもなく大変だった。

 

 業務時間は情報精査、時間外に資料作成。足りない情報や新たな情報が出てきてないかを他部署に聞きに行ったりしている。まあ、主に聞きに行く場所は第三者魔術師団の研究棟なのだが話がまともに出来ず、地味にストレスを感じている。


 流石の先輩もここ二日は職場に寝泊まりをしているようだ。副長まではいかないが、疲れた顔で仕事をしている。私も残業はしているが、23時を過ぎてくると帰宅を促されるので有難い事に泊まってはいない。

 女の子なんだから、という事らしい。「女の子」という響きにむず痒さを感じるが、こういう好意は素直に受け取った方が得である。「ありがとうございますー」と促されたらさっさと帰っている。


「こんな大袈裟だと思わない? ここまでは細かく書く必要性、僕は感じないんだけど」

 

「確かにそうなんですが、何かつっこまれてすぐに返答出来ないのが嫌なんでしょう」

 

「だったら最初の行方不明者の問い合わせ時にちゃんと対応しとけよって話なんだけどね」

 

「それはそう」


 頭を掻き毟り、先輩はペンで紙をトントンと叩く。ペン先で叩いた為、紙に幾つもの苛立ちの滲みが作成されていた。


 苦手な先輩ではあるが、仕事の話であれば普通に出来た。あまり仕事面で関わった事が無かったので、少し不安だったが問題なく仕事を出来ている。元々彼はコミュニケーション能力に長けているのだろう。よく気が付き、その結果助けられる事が多い。


(普通に話せて良かった)


 いまだ飲み会を引きずっているのは自分だけのようだ。先輩はあの酷い夜の事など無かったかのように接してくる。


 あの獣のような視線も最近は感じない。

 穴があったら入りたいと思っていた傲慢で自意識過剰な発言も、結果的には良かったのだと思う。

 人間的に好意を持たれるのは良い、だが恋愛的な好意は不要だ。先輩は恐らく「恋愛的な好意」を無くした。もしかしたら普通の好意も無くなってしまったかもしれない。それでもこうやって表面上は普通に接してくれるのだから、悪い人ではないのだろう。


「そういえば聞いた?」

 

「何をですか?」


 書類に文字を書き込みながら答える。先輩も同じく書類にペンを走らせていた。


「親善訪問記念パーティするって」

 

「ああ〜」


 そういえばそんな話を他の同僚がしていたのを聞いた。到着日は歓迎パレード、その翌日にパーティをするらしい。

 まあ、するだろうなというのが正直な感想である。だから何を思うわけでもない。ただこんな近々の手配なので、そんな豪華な事は出来ないだろうなとは思う。


「晩餐会ですかね?」


 晩餐会であれば、ある程度席は絞れる。呼ぶ範囲をそれ程広げなければ他国の要人をもてなすのに十分な会が出来るだろう。


「それが舞踏会らしいよ」

 

「ぶ、ぶとうかい!?」


 驚きからペンを持つ手が止まった。俯いていた顔も衝撃で上がる。

 夜会の事はあまり詳しくは無いが、晩餐会より舞踏会の方が準備が大変だろう。


「それも一番大きい紅鏡(こうきょう)の間でやるんだってさ」

 

「あそこですか!?」


 それも王宮で一番広い広間を使うとなると招待客は高位貴族だけではなくなる。男爵位から招待は確実だ。

 招待状はどうするのだろう。今から作成しているのか?それとももう送っている?

 実家に帰っていないのでそれを確認する術は今のところない。

 

「じゅ、準備しきれるんですかね」

 

「わかんない。でも出来ないなんて恥は晒せないからやるんだろうね」

 

「はあー」


 心配だ。とても心配である。ただでさえのんびりした気質の国だ、まっさらな大広間でただ踊るという事にはならないだろうか。


 もう国全体にハルフォークの第二皇子が親善訪問する発表はなされた。その関係で今王都の宿は何処も予約が取れない状況である。つまりはもう既に全国民がお祭り騒ぎと言っても良い。

 浮かれているのは王宮で仕事をしている人も同じ。浮かれていないのは訪問する本当の理由を知っている人達くらいだろう。


「彼らの訪問まであと四日か」


 溜息混じりな声に釣られ、自分の口からも溜息が漏れる。


 何もかも終わる気がしない。時間は確実に進んでいるのに、仕事が進んでいるのか分からない。

 ペンに爪がカツンと当たる。白く伸びた爪は数日前に切ったきりだ。




読んで頂き、ありがとうございます。

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