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8話 適性試験、あと―。

 アリシア。その名前に聞き覚えがあったジャルダンディーノは思い出した。


 6年前の夏、あれはフィルリエント達と一緒に魔王討伐を目指し始めて半年がたったころだった。


「あたし、義勇兵になりたいんだ!」


 途中立ち寄っていた温泉街が有名な街テパン。そこでジャルダンディーノとシルヴィはある店の前でそう叫んでいる少女を見つけた。


「なんでそれを俺たちに向かって叫ぶんだよ」

「だってあなたたち勇者でしょ?! 聞いたよ、パパが言ってた。選ばれた義勇兵7人が王様に特別な力をもらったって! それを聞いてわたしワクワクしたんだ!」

「全く話がわからない、行こうディノ。フィルリエント達が待ってる」

「待て、この子・・・」


 ジャルダンディーノは立ち去ろうとするシルヴィの袖を強く引っ張る。彼女は彼の意図することを考えて一瞬止まる。

 ジャルダンディーノの固有能力は【視力】だ。対象の弱点や相手の攻撃をいち早く察知して対処できる能力を持つ。彼は少女の体を見て感じる。


「君、心臓の病に罹ってるのか」

「やっぱりすごいね、わかっちゃうんだ」


 隠す様子もなくそう少女は答えた。


「あたし心臓が生まれつき悪いからさ、少しでも運動したりしたら鼓動が早くなって苦しくなっちゃうんだ。だから、義勇兵になることは認められないってママ言うんだよ」


 10歳ほどの少女だろう、腰まで伸びた綺麗な金髪はどこか同じパーティのリリトを思い出す。


「でも、しょうがないさ。俺たちにはどうすることもできないし、他の仕事を探すことだって」


 そうジャルダンディーノが諭すが、彼女はどうしても義勇兵ではいけない理由があった。

 彼女の父親はテパンに属する義勇兵だったようで、去年にあった隣国との大戦で命を落とした。その父の意志を受け継ぎたいという気持ちで義勇兵を志願していたらしい。


「ごめんね、今の私たちの力ではあなたを義勇兵にしてあげられることができないの」


 シルヴィが少女の視線まで腰を下ろしてそう諭すが、彼女はその言葉を受け入れきれずに泣きそうになってしまう。


「でもきっと、私があなたの病気を治せる魔法を作ったら戻ってきてあなたを治してあげる。そうしたら、きっとお父さんみたいな立派な義勇兵になれるわ。それも、精鋭揃いのエリート組にね」

「お姉ちゃん魔法使いなの?! すごい!」


 シルヴィは笑って少女の頭をなでて笑っていた。その時だったかもしれない、シルヴィがジャルダンディーノにとって特別な存在になっていったのは。









「まさかな」


 ただの偶然だと思い、ジャルダンディーノは試験に集中した。彼女と同じ名前の、別人かもしれない。だって彼女はもういないのだから。あの時、テパンで守りたいと感じたあの二人はすでにいない。

 アリシアは、シルヴィたち一行がテパンを去った半年後に病状が悪化して亡くなっていた。それを彼は魔王討伐した後すぐに知った。




「あの少年、いい動きをするな」


 隣で模擬戦を観察する試験官の1人がそういうのは、黒髪の落ち着いた少年だった。彼は年は20もいかない少年で名をフィルハムというらしい。直剣を使って戦闘する彼だったが、目に留まるのはその俊敏な足運びだ。


 普通に見るだけならなんとも思わないが、視力がいいジャルダンディーノはまた違う。彼のステップはあえてしている規則性のある動きだ。反復行動をしたと思えば瞬時に間合いを詰めたり、逆に挑発するようにその場で踏み足をして相手が動いた瞬間にかく乱するような動きで攻める。完全に相手の試験官はそれに踊らされていた。開始たった2分で試験官の胸に直剣を当てて終了した。


 フィルハム、彼は間違いなくこの選抜試験の最有力候補だろう。

 次は、と書類に目をやると、キルザエルがジャルダンディーノの前で止まる。


「次、お前が試験官だぞ」

「ああ俺か。悪かった」


 フィルハムに完全に見とれてしまっていた彼は急いで試験の準備をする。


 相手はあの女性だった。レイピアと胸当てや防具の準備をしている彼女だったが、その顔もこちらからだと見えない。ここまで近いとさすがに顔色一つ位見えるはずだが、なぜか全く見えなかった。不思議な現象だ、相手の様子が一切わからないなんて。正直彼は不気味とさえ思っていた。


「よろしくお願いいたします」

「あ、ああ・・・。よろしく頼む」


 顔をよく見てもやはり様子は伺えなかった。だが気になることが一つあった。それは彼女の腰に据えてある短剣だ。一応今試験でも木製の短剣を使えるように準備はしていたが、どの人間もそんなものを使う者はいなかった。理由は明確リーチが短すぎるため武器としては成り立たないから。あんなもの邪魔になるだけだ。一応警戒しつつも、再度彼女のほかの様子を見る。


 彼女はレイピアを胸の前に向けて構え、切っ先をジャルダンディーノに向ける。もちろん木製なので殺傷力はない、だが、彼女の握るそれはそれを感じさせないほどに美麗でゾッとする雰囲気を醸し出していた。


 当てられれば死ぬ、そう思うほどに彼の鼓動はトクンとうねりを上げる。


「はじめ!」


 キルザエルの合図で先に仕掛けたのは女性、アリシアだった。彼女はたった2歩で彼との距離を詰める。彼との間合いは5メートルはあったはずだ。それをたった2歩で詰めた、とんでもない瞬発力にジャルダンディーノは彼女から距離を取るべく後方に下がる。


 試験の舞台はここアリーナ中央の模擬戦闘に使われるフィールド。10メートル四方の枠に線を引き枠外に出てしまった場合即失格となる。


「あの女、何者ですか?」


 試験を終えたフィルハムが傍にいた同じ受験者に問う。


「わからない、さっき話しかけても無視されてたから。すごい動きだよな、あんたもすごかったけど、あの女はなんかこう」

「一般人とは隔絶された、熟練された動きですね」


 フィルハムは腕を組んでベンチに腰掛ける。その間にも攻防は続いていた。


(このままじゃ枠外に押し出される・・・。なんとかして後ろを取り返さなければ)


 ジャルダンディーノは危機を察知していち早く行動に出る。

 アリシアがレイピアの連撃を彼に浴びせるその隙間、時間にして0.7秒。その間に彼女の足のもつれを確認。

 そこを彼は攻撃のチャンスに変える。彼女の足に横蹴りを食らわせてあわよくば転倒を狙うがそれをいとも簡単に見破られ回避される。だが、彼もそこは想定内。蹴りの体勢から木剣を水平に構えて彼女に追撃をかます。


 それを一つ一つさけるアリシア、だが、躱すというよりもレイピアの剣先ですべて受け流されている状況に近い。女性の力だけで彼の連撃をすべて捌き切るのは相当の技術だった。さらに言えば彼は目がいい。アリシアの隙をついて狙うがそれをことごとく流される。というよりも、あえて隙を作ってそこに攻撃を誘われているような気がしていた。


(なめやがって・・・! これならどうだ!!)


 ジャルダンディーノは連撃をやめて彼女の後方へ回る。体を回転させる遠心力でジャルダンディーノは木剣をアリシアに斬撃をかますが、それを彼女はしゃがんで回避して、逆に彼女はそのままの姿勢でジャルダンディーノの足へ横蹴りをする。

 彼はそれに引っかかり足を持っていかれ転倒する。すぐに体勢を整えようとするが、アリシアの行動は早かった。


 倒れこんだ彼の腕を固定し、左足が彼の首を抑える。その拍子で彼が持っていた木剣は足元に落ちてしまい、倒れこんでしまった彼は攻撃の手段をなくす。

 腕十字固を極められそうになった彼は、必死の抵抗を試みる。だが、アリシアの力は想像以上に強く技を解けそうになかった。


 そこで彼は足元に落ちてあった木剣を足指で器用に持ち、それを彼女に向けて落ちるように宙へ放り投げる。それを見たアリシアは瞬時に回避行動をとる。この試験では木剣が当たることが敗北を意味する。ここで避けなければジャルダンディーノが気絶しても引き分けとなった。


 回避行動をする隙にジャルダンディーノが動く。技を解き宙を舞う木剣に手を伸ばして拾い上げる。そのままの勢いで体をひねらせてアリシアに回転斬りを食らわせた。


 彼女もすんでのところでそれをレイピアで弾き、鍔迫り合いの状態へ持ち込んだ。


「おおおおお!!!」


 と周りの人間皆がうなされるほどに凄まじい激闘だった。時間は残り1分。時間がないと判断したジャルダンディーノは鍔迫り合いでは埒が明かないと判断して後方に離れた。


(やってみるか・・・)


 彼は息を整え、目をつむる。だが、そんな悠長な隙をアリシアが見逃すはずもなく、すぐに彼女はまた2歩で間合いを詰めてくる。


「っ・・・!」


 だがジャルダンディーノがした行動でアリシアの体勢は大きく崩れることになる。


 ジャルダンディーノは今までしてこなかったステップを刻む。反復したかと思えば前へ前進するようなステップを踏み、かと思えば後方へいき今度は誘い込むような隙のあるステップを刻む、規則性のあるその動きは誰もが見たあの光景だった。


「嘘だろ・・・ははは・・・。今の一瞬で僕の技を盗んだっていうのか・・・」


 フィルハムはあまりのおかしさに絶句を通り越して苦笑いを浮かべた。


























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