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7話 肩書なんて捨ててしまえ

 1か月後にはこの国の一大行事の一つ、ミカエル現国王のパレードが行われる。これからのこの国の政治を担っていく代表として、今後の政治体制と取り組みを演説して国民の支持を集めることを目的として開催される。


 その護衛隊として先月から第1国王防衛選抜隊、通称選抜隊がジャルダンディーノを隊長として募集を募っていた。大型の催しとなるため国王だけでなく市民の安全を確保するためにも国の警備体制も万全にしなければならない。魔王なき今、国のために身を捧げる人間は少ない。が、元勇者であるジャルダンディーノが隊長を務めるというのが看板となり、国防隊はすぐに応募が殺到した。だが逆に殺到しすぎて選抜にジャルダンディーノは困り果てていた。


「これだけの数、どうしたものか」

「ジャル、ここは選抜チームを分けて段階性にしたらどうだ」


 駐屯所でジャルダンディーノと同期のキルザエルがその応募の数を精査していた。顔写真などはなく、名前と戸籍と略歴しか載っていない書類の山は見るだけで吐き気を催すほど不毛だ。


 そんな中キルザエルが提案した段階性の試験。これならより効果的に測定ができるだろう。


「いい案だ。1から3の簡易試験に分けて最終選別に残った人間を選抜隊に迎え入れるか」

「そうと決まれば簡易試験の段取りを決めよう」


 それから数日後、1週間後に選抜試験を開催される旨が決定され、それが大々的に国内でも広告された。最終試験は2日かけて行われる1次試験、2次試験を突破した20名を残し3日目に行われる。


 応募人数は1000人を超え、1次試験で半分の500人。2次試験で100人へ。そして最終試験で20人へと絞り込まれ、その中から選ばれた6人が選抜隊として立候補される。


「なぜ6人なんだ?」


 最終選別前日に2次試験を監視していたジャルダンディーノにキルザエルがそう質問した。


「さぁな」

「勇者だったころが恋しいのか?」


 そうキルザエルに嫌味のように言われてジャルダンディーノは考え込む。

 恋しいというよりも、淡い青春の1つのような。とてもじゃないが簡単には語れない1年だった。

 彼の脳裏にあの記憶は刻まれ、それが絶えることは決してない。死してもなおあの頃の体験は魂に刻み込まれることだろう。


 旅をつづけた7人。意識はしていないにしても彼はどこかでまた同じようなことが7人でできるのではないかと期待していたのかもしれない。


「そう、かもな」


 歯切れの悪い回答をして彼は監視に戻ったのだった。




 そして翌日。


 王都近くの臨時会館2階。アリーナで最終選別が行われていた。ジャルダンディーノとキルザエル、他数名の試験官の衛兵が受験者の前に登壇して、ジャルダンディーノが司会を務める。


「今日は我々の最終試験に参加してくれてありがとう。俺はジャルダンディーノ、5年前に魔王討伐を果たしたパーティにいた人間だ。試験内容を言う前に1つ、みんなに聞いてもらいたいことがある」


 そんな話はスケジュールに盛り込まれていなかったので、他試験官や受験者は動揺を隠せず困惑する。キルザエルはまた始まったと言いたげにニヤリと笑みを浮かべて視線を地面に落とす。ジャルダンディーノはそんなことは意に介さずに話をつづけた。


「俺は5年前、魔王ボルヴォロスを屠り世界に平穏をもたらした勇者だ。それはみんなが知っている、周知の事実だろう。だが、それは全くのでたらめだ」


 受験者がざわめく。ほかの衛兵も何を言っているのか理解できずに立ち尽くす。


「俺は、正直フィルリエントパーティのお荷物だった。能力で与えられた()()。俺はこれを使いこなすことができず、俺自身は剣士として役に立てなかった。パーティのみんなはそんなことないって言ってくれると思うが、俺はそうは思わない。ここに俺の元勇者としての肩書に憧れてきている人間は、去ってほしい。そんな幻影はもうない、今の俺はただの一兵士。過去の俺の幻想に憧れてきている人間はここに、選抜隊にふさわしくない。ここにいるべき人間は、ただ国のため、ミカエル様に仕える優秀な兵士を全うできる覚悟のあるものだけだ! それをよく、考えてほしい」


 ジャルダンディーノは息継ぎをしないまま言葉を終える。そのせいで息は途切れ途切れになり、格好がつかないが、それでも周りの人間は拍手喝さいを浴びせた。


「いいぞー! それでこそジャルダンディーノだ」

「別に俺たちはあんたに憧れてきたわけじゃねぇぞ! 自意識過剰かよ!」

「だがそこがあんたらしい!」


 様々な声が飛び交うが、否定的な意見などなかった。ジャルダンディーノは感極まったせいで顔を逸らしてしまう。

 そこでキルザエルが助け舟に入った。友人のため、彼はこう発言する。


「こいつは見ての通りひよりにひよった馬鹿野郎だ。勇者という肩書を昔、武勇伝みたいに語り歩いて調子に乗って、そして今それを馬鹿みたいに後悔している哀れ者だ。正直俺からすれば馬鹿だしあほだし、弱虫だし馬鹿だ」

「何回馬鹿って言うつもりだっ・・・!」


 ジャルダンディーノが声を裏返しにしながらも反論する。それに周りの人間も笑みを浮かべた。


「こういうところも馬鹿丸出しだ。だが、俺はこういう人間が大好きだ、馬鹿みたいにはしゃいで、国や家族のためにその馬鹿は命を張る。そしてこいつに関しては魔王を倒してこの世界に文字通り平和をもたらした英雄だ。そんな馬鹿に俺は心惹かれて声を掛けた。その行動の裏返しは、英雄と友達になりたかったっていうのが正直なところだ。でも今は」


 彼はジャルダンディーノの首に腕を回す。ぐっと自分のほうに抱き寄せてこう叫んだ。


「今はただこいつとただひたすらに生きていたい。馬鹿みてぇと思われるかもしれないが、俺は馬鹿が大好きだったみたいだ! だから、そんな連中とこれからこの国のため最前線で戦ってくれる奴は、ここに残ってくれ」


 彼はジャルダンディーノの首に回していた腕を下げると深々と頭を下げる。それと同時に周りの兵士もこぞって頭を下げていく。


 それらの一連の流れに受験者は大いに盛り上がる。ここにいる人間がこんなところで引き返すはずもない。彼らはまたも拍手を起こし兵士たちの情熱と想いに敬意を表した。


「みんなありがとう。それじゃあ、待たせたがこれから試験内容を発表していく。だが1、2次試験とは違い単純明快。俺たち試験官と1対1の摸擬戦をして合格基準に達した人間6人を選抜隊に推薦する! 基準は我々が課したものだ、公開することはないにしても、基本的な戦闘を意識して挑んでほしい。なお、武器は木製のレイピアか直剣をしようする。盾の使用は問わない。投擲物の使用は許可しない、視界を遮る行為、逃亡と見なされる行為も失格対象だ。制限時間は5分、インターバル10分。木剣を体に直撃させたほう、または双方どちらかが戦闘続行不能か降参で片方の勝利基準とする」


 ジャルダンディーノが流ちょうにそう叫ぶ。それを皮切りに会場の準備が本格的に始まり、受験者は受験順をくじで決める段取りとなった。


 その間、キルザエルとジャルダンディーノは2人で受験者の吟味をいち早く書類確認を目視で行っていた。


「さすがに選りすぐりの精鋭ばかりだ。こっちは元国外の自衛官、30年以上義勇兵で生計を立てていた戦士、こっちは格闘世界大会で優勝している実績のある人間だ。そっちは気になるやついたか?」


 キルザエルはジャルダンディーノにそう質問を投げかける。


「こいつが気になるな」


 一枚の紙を手に持ちキルザエルへ渡す。


「こいつがか? 名前は、アリシア。剣士、略歴は元義勇兵。特に実績と言ったものはないのか? 空白だ。経歴書だけでは何なのか全くわからない。女性か、珍しいな。唯一の女兵士というわけか。なんだお前、女だから気になるってわけじゃないだろうな」

「違う、だけどこの名前。違和感があるんだが、気のせいか・・・?」


 彼は1人でそうこぼして書類を見る。改めて会場にいる受験者のほうをみる。背丈てきにあの深くマントフードを被っている人間がこの書類の女性なのだろうが。彼女はレイピアを選んでいるようだが。


「まぁいい、試験の準備に取り掛かろう」


 ジャルダンディーノは考える時間が無駄だと判断して準備を進めた。




























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