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2話 英雄の凱旋の翌日は牢屋で

「どういう、ことですか」

「・・・言ったはずだ。追放だ、シルヴィ。お前は脅威となりえる」


 翌日、午前7時。シルヴィは王城に赴いていた。勇者シルヴィとして表彰されると思い込んで。

 疑うべきだった。表彰されるのならなぜ1人だけじゃなく7人全員じゃないのか。なぜここまで警備が厳重なのか。王宮に配備されている兵士の数は尋常な数ではなかった。魔王が死んだ今、何から身を護るのか。


 シルヴィから護るためだなんて夢にも思わなかった。


「フィリップ王、なぜ、ですか・・・? なぜ私が追放なんて・・・」

「・・・貴殿に託したラヴァンの固有能力、あれが問題だ」

「魔法が、使える能力の事ですか・・・?」


 この世界の魔王に対する手段には剣類と銃や弓と言ったものしかない。

 魔法という奇跡の技術もありはしなかった。フィリップ王に王位が継承されるまでは。

 彼の王族は代々昔から特殊な能力があった。空を歩ける、水や火が出せる、未来予知、魔法が使える。

 フィリップはそれを他者へも継承できた。それと引き換えに膨大な寿命を減らすため、すべてのラヴァンにではなく、今回の7人だけへ能力を継承した。特別ラヴァンとして。


 確かに魔法が使えるのはかなり使い勝手が良かった。治癒はできるし遠隔から攻撃や支援もできる。すべてが1人で簡潔していた。

 だがなぜそれが脅威となるのか。


「君が王政へ反旗を翻せば、我々は成す術がない。私にも魔法行使の力は継承してしまってすでに力がなく対抗もできない。君を早々にここから追い出すのが吉と判断した」

「私がここで反旗を翻すという考えはよぎらなかったんですか」

「だからこうやって警備を厳重にしている。其方の魔法の底力は私が把握している。いくら魔法と言えど、この人数を無傷で突破するのは不可能だ」

「・・・そうは言ってもこんなの・・・。私が何をしたっていうんですか?! 魔王討伐のため、ここまで頑張ってきたのに、その見返りがこれですか?!」

「資金はたんまりとくれてやる。あとは悠々自適に隠居暮らしとするがいい」


 シルヴィの前に小切手のようなものがいくつか手渡される。どれみ見た限り1枚100万以上の価値がある。それが20枚以上。数十年は何もしなくても食べてはいける。だが、国のために尽くして裏切りが怖いからどこかへ行けなどと、到底曲がり通るものではない。


「絶対に許さない」

「ふむ、私の人選が間違っていたのか・・・。君であれば用が済んだ後にもきれいさっぱり消えてくれると思って継承したんだが」


 シルヴィは耐え切れず、魔法を行使してしまった。

 それは確実に相手を殺害するためだけに作られた魔法。白い柱のようなものが形成されてドリルのように回転する。それが放たれられた直後、その弾道はフィリップ王の顔をかすめて奥の壁に突き刺さる。


 フィリップ王の肖像画の顔にそれは刺さり、ミシミシと音を鳴らせた。


 周りの衛兵は反応できなかったのか、シルヴィが魔法を使った後の数秒間微動だにしなかった。それだけ彼女の魔法は予備動作がなく俊敏だったのだ。


「牢屋に連れて行け」


 フィリップ王のその言葉でようやく衛兵が彼女の身柄を押さえつける。床に叩きつけられて彼女もそれなりの抵抗を試みるが、鈍器で頭を殴られて彼女はそのまま意識を失った。



 目覚めると、あたりは真っ暗な部屋。湿り切った空気と澱んだ匂い。

 王国の地下牢獄だった。


「これからどうしたものか・・・」


 辺りには特に何もない牢屋、寂しい簡素なベッドがあるだけだ。他の囚人はいないのか全く音が聞こえない。まるで1人だけ別世界に迷い込んだかのように思える。


 シルヴィはとりあえずベッドに座る。思った通りベッドは硬く床で寝るのと大差なさそうな作りだった。


 それから数時間、何の騒ぎも面会が来ることもなく時間だけが過ぎる。

 食事を渡しに衛兵が来た時以来、3時間以上は人を見ていなかった。

 簡素なベッドで眠りにつけたころ、おそらく時間帯で言えば夜11時過ぎ。


「シルヴィ様」

「・・・誰?」


 眠気のある目をこすりながらシルヴィは体を起こした。

 牢屋の檻の外。シルヴィよりも幼なげな少年が彼女の名前を呼んでいた。檻を両手で握ってこちらに何かを必死に訴えかけているようだ。


「ここから出ましょう、今なら警備も手薄です」

「無理よ。ここは警備が普通の牢獄と違って特に厳重に管理されているから。外に出た瞬間バレるに決まってる」

「実は秘密の入り口があって、そこからなら郊外に出られます」

「そんな都合のいいことあるわけ・・・」


 シルヴィがため息をつくと、彼は檻から離れて、向かいの壁端の煉瓦を1個2個と外していく。すると、中から茶色の布のようなものが現れ、それを剥ぐと奥につづく洞窟のようなものが現れた。


「こんなものあったなんて」

「僕はエイデンと言います。よくここに出入りする機会があってこれを見つけました。鍵もここにあります、早くここから逃げましょう」

「いやでも、次期に出られると思うしわたしはー」

「ダメです! このままじゃ勇者様処刑されちゃいますよ!?」


 必死にそう叫ぶエイデンを見て、彼女は仕方なく従うことにした。これ以上

 問答をしていると衛兵が来てしまいかねないと判断した。


 彼はシルヴィの前を先行して歩く。もし衛兵に出くわせば魔法で対抗するしかない。ある程度の剣術も嗜んでいるが、あいにく今は丸腰だ。遭遇すれば魔法で対抗することになるだろう。そのにエイデンを巻き込みたくない気持ちはあるが、それはやむ得ない。


「なんで私を助けるの? 私に加担すればあなただってどうなるか」

「僕はあなたに助けてもらった恩人ですから。こうでもしないと恩は返せません」


 まったく身に覚えがないシルヴィは、首を傾げながらも彼の後を追う。


 それから1時間ほど歩き、王城からかなり離れた河原に辿り着く。

 彼は河原近くにある用水路の脇からリュックを取り出し背負う。

 リュックの中身はかなり重いのか背負うのにもかなり一苦労といった感じだった。


「大丈夫?」

「へ、平気です。これくらい」


 格好をつけたいのかシルヴィの心配をよそに彼は懸命に運ぶ。


 2時間後には彼女は馬車に揺られていた。まだシルヴィが脱獄したのが広まってないせいか、衛兵のセキュリティはかなり甘かった。フードを深く被り、普通の客として出入りすることができた。


 これからどうなるのだろう。金もないし仲間だった皆んなもいない。頼れる人もいない、行き先も変える場所も、目的もない。


「あなたはこれからどうするの? まさか、私についてくるわけじゃないわよね?」

「うーん、正直僕孤児なので変える場所がないんですよね」

「親は?」

「10年前の紛争で死にました。2人とも、僕が小さい時の話なので覚えてはいませんが」

「そっか、私とおんなじだね」


 沈黙がつづく。コトコトと馬車は進みその間2人は特に何かを話すこともなく数分が過ぎる。


「これからどこへ?」

「とりあえず、私とお父さー、フェルリエントがお世話になった農家があるから。そこ行ってみようかな。もしかしたら仕事をくれるかもしれない」


 刹那、ガサッという音が耳に入る。音の方を見ると彼が持ってきていたリュックから鳴っているようだった。

 気のせいなんかではない。それは立て続けに音を立て、小刻みに震える。


「あなた・・・一体何を持ってきたの?」

「わかりません・・・、シルヴィ様の私物かと思って持ってきたのですが・・・」


 次の瞬間、リュックの蓋が外れて何かが飛び出す。2人は何が何だか分からないまま、抱きつき合いその[何か]に視線を奪われる。


「んだよ、まだついてねぇじゃねぇか」


 それは黒い喋る猫だった。






















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