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道鬼  作者: 三峰三郎
7/7

道鬼 完

「もう少しでございますぞ」


 勘助は目の前の敵を槍で突き伏せとどめを刺すと天を仰いだ。

 

 もう少し時を稼げば別動隊が合流し、上杉政虎の首を挙げることができまする。そして……。


「そして北の海を手に入れ、関東諸勢力も併合し、さらには南の海をも手に入れましょう。さすれば天下は御屋形様のものにございます。そして……」


(由多姫様の夢も……)


 川中島の地を手中に収めれば、上杉政虎の本拠地である春日山までは目と鼻の先である。

 上杉政虎は昨年(1560)、北条氏康に関東を追われた上杉憲政から関東管領職を譲り受けていた。上杉政虎を討てば自ずと、どの勢力に与するか決めかねている関東の諸勢力も信玄の下に集うだろう。

 

 また、天下人に最も近いと言われていた今川義元は昨年、上洛の途上、小大名である織田信長に首をとられこの世を去っていた。以降今川家は没落の一途を辿っていたのである。今川義元亡き後、天下人に最も近くなったのは間違いなく信玄であった。

 信玄はおそらく今川義元の死によって統一がとれなくなった駿河へ攻め入るだろう、と勘助は予測していた。

 信玄の嫡男武田義信は、正室に今川義元の娘を迎えていた。信玄は実の息子さえ邪魔となれば躊躇なく排除する冷徹さを持っていた。

 信玄の次男である龍宝は生まれつき盲目であったため出家しており、三男信之は七年前に病でこの世を去っていた。

 由多姫様の夢ももしや、と勘助は思ったのである。


「わしもそろそろ幕引きぞ」


 勘助は切りかかってきた敵を槍で一突きにしたが、別の上杉兵に背後から切りつけられよろめいた。槍を捨て鞘から刀を抜き放つと、振り向きざまに襲ってきた敵の喉を切り裂いた。

 その間、四、五人の上杉兵が勘助の周りを囲う。

 そのうちの二人が左右から槍で勘助の脇腹を貫いた。勘助は口から血反吐をどっと吐くとうつ伏せに倒れ込んだ。


「別動隊じゃ。武田の別動隊が八幡原に到着したぞ」


 意識を朦朧とさせながら妻女山の方角を見た勘助の片目には、真田六文銭の軍旗が映った。


「とうとう、叶いましたな」


 周囲にいた上杉兵は、その鬼のような形相をした老兵に近づき、もう起き上がらないことを確かめると、その男を槍で滅多刺しにした。


 どこからともなく楓の葉が舞い降りてきて老兵の背中にそっと乗ったかと思うと、血の付いた槍を避けるかのように再び秋空へと舞い上がっていった。



      完

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