表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛ファンタジー 【短編】

淑女がドレスを脱いだなら〜子ども扱いしてくる鈍感な公爵様を全力で誘惑しちゃいます!〜

 ◇◇◇


「ふふふふ。見てなさいよ。今日こそお兄様に愛してると言わせてみせるんだから!」


 ミシェルはいそいそとベッドに近付くと、少し悩んでドレスを脱ぎ捨て、下着姿のままするりとアスターのベッドに潜り込んだ。


 メイド達には朝まで来ないように協力を頼んだ。あとは部屋に戻ったお兄様を誘惑するだけ!


 大人の恋物語のヒロインのように大胆に色っぽく迫れば、さすがのお兄様にもミシェルの本気が伝わるだろう。


『ミシェル、悪い子だ』


『俺を誘惑したのは君だ。覚悟は良いか?』


(な〜んて!な〜んちゃって!きゃあ〜)


 ◇◇◇


 ミシェルは裕福なカイラス伯爵家の一人娘として、幼い頃から蝶よ花よと育てられた。淡い金髪に菫色の瞳のミシェルは誰もが目を引く美少女だ。


 ミシェルの可憐さ、可愛らしさは貴族社会で瞬く間に評判になり、魅力的な持参金と相まって、将来有望な花嫁候補として注目された。その結果、ミシェルはわずか八歳で名門ダンタロト公爵家の若き後継者、アスターの婚約者の座を射止めたのだ。


 当時アスターは十五歳。婚約者として初めて会ったアスターは、年齢よりもずっと大人びて見えた。そこでミシェルはアスターにあるお願いをした。


「あの、私のお兄様になっていただけますか?」


 と。一人っ子だったミシェルは兄という存在に憧れていたのだ。しかも事前に母親から、「素敵なお兄様ができたと思えばいいのよ」と言われたのも影響していた。だが、これが全ての間違いだった。


「そうか。それなら今から僕は、君の良き兄になるよう努力しよう」


 そう言うと、アスターはミシェルをヒョイっと抱き上げた。


「お兄様って呼んでごらん?」


 それからアスターは、ミシェルを実の妹のように可愛がってくれた。パーティーやお茶会でエスコートしてくれるのはもちろん。綺麗な花、可愛いぬいぐるみ、本に宝石、ドレスと、会うたびミシェルの喜ぶ贈り物を沢山用意してくれた。


 ミシェルの部屋はあっという間にアスターからの贈り物で埋め尽くされ、頭のてっぺんから足の爪先までアスターからの贈り物でコーディネートされていることも少なくない。


「僕の可愛いおちびさん」と呼ぶアスターは『妹を溺愛する兄』そのもので、ミシェルもアスターを「お兄様」と呼んで、本当の兄のように慕っていた。


 それからはや十年。ミシェルは今や立派な成人女性となった。いや、それどころか後から婚約した令嬢たちにどんどん先を越され、内心焦っていた。


 十五歳で成人を迎えるこの国では、貴族令嬢は二十歳までに結婚するのがほとんどなのに、ミシェルはまだ正式なプロポーズも受けていない。


 十年間も婚約しているのになぜ!?


 そう父に問いただすと、なんとアスター本人から待ったが掛かっていることを知った。いくら婚約を交わしているとは言え、伯爵家の立場として格上の公爵家の決定には逆らえない。


 かと言って、アスターがミシェルを嫌っている様子もない。いつも穏やかで優しい『お兄様』であるアスター。


 そしてミシェルは気付いたのだ。きっと、長年兄妹のように過ごしてきたこの環境がいけなかったのだと。


 そこからは、『妹』の立場を抜け出すのに必死だった。子どもっぽいドレスを大人っぽく変えてみたり、隣に座っているときにアスターとの距離をちょっぴり縮めてみたり。


 けれども、長年妹として過ごしてきたせいか、いざとなると照れてしまってどう接していいか分からない。昨日まで普通に喋っていたはずが、会話さえぎこちなくなってしまう有り様だった。


「なんだか最近様子がおかしいけど、何かあった?」


 まさかあなたが結婚してくれないせいで焦っています、とは言えない。


「あ、あの、お兄様の好みのタイプってどんな女性でしょうか」


 少しでもアスターの好みのタイプに近付きたい。そう思って質問したのに、アスターはすっと表情を強張らせた。


「なぜそんなことを聞くんだ?」


 急にアスターの纏う雰囲気が怖くなって、焦ったミシェルは慌てて叫んだ。


「あの!私はお兄様の婚約者でしょう?だから、少しでもお兄様の好みに近付きたいの!」


 アスターは「なんだ。僕はてっきり……」と呟くとにっこり微笑んだ。


「ミシェルはそのままで十分可愛いよ」


 優しい優しいアスター。ミシェルの大切なお兄様。でも、アスターはミシェルを一人の女性として愛してくれないではないか。


 ミシェルは初めて感じる胸の痛みに、とっくにアスターに恋をしていたことを知ったのだった。


 あまりにも近くにいすぎて、気が付かなかった初恋。もし、結婚を渋る原因が、アスターに他に好きな人ができたのだとしたら。


 思い詰めたミシェルはとある計画を立てた。ミシェルだって年頃の女に成長したことをアピールすることにしたのだ。


 貧弱だった体はまろやかな丸みを帯び、たわわな胸も細く締まった腰も、他の令嬢たちから垂涎の眼差しを向けられている。きっと、もっと近くによれば、鈍いアスターもミシェルの成長ぶりに気付いてくれるに違いない。


 ミシェルの立てた作戦はいたって単純なものだ。いつものように公爵家に招かれて一緒に夕食を取った後、ワインを飲みすぎたふりをしてそのまま泊まることに成功。


「お兄様に折り入ってお話があるの」


 といえば、敏いメイドたちはこっそりアスターの寝室に案内してくれた。湯浴みはすでに済ませた。あとはアスターがくるのを待つだけ。ベッドの中でドキドキしながら待つミシェル。


 けれど、本当に飲みすぎたせいで、次第に眠気が襲ってきた。


 飲んで気分が良くなったところに念入りに入浴し、暖かい布団にくるまってしまったのだ。もはや寝るしか無いではないかとばかりに瞼が重たくなってくる。


(ばか!駄目よダメ!お兄様がくるまで……)


 ◇◇◇


 入浴を済ませ、バスローブをまとったまま濡れた髪をかき上げ部屋に入ると、ふわりと花の香りがした。


 すぐに、ミシェルの香りだと気付く。不自然に盛り上がるベッドに近付くとそっと布団をめくるアスター。そこにはすやすやと眠る下着姿のミシェルがいた。


「全く、夜這いするならもうちょっと緊張感が欲しいな」


 そう言うと、アスターはミシェルのおでこに軽く口付ける。


 可愛いかわいいミシェル。アスターだけの大切な宝物。早くに両親を亡くし、成人になると同時に公爵家を継いだアスターは孤独な少年時代を過ごしていた。


 公爵家の財産や権力を利用しようとする一門の大人はどれも油断がならず、近付いてくる同年代の令嬢たちも、こうした者たちの息のかかったものばかり。


 何もかもが信じられなかったアスターが婚約者に選んだのが、そのとき評判になっていたまだ幼いミシェルだった。


 手頃な伯爵家の娘。幼いミシェルが相手なら、当分結婚を迫られることもない。成長して邪魔になれば、そのとき婚約を解消してしまえばいい。そんな打算による婚約の打診に過ぎなかった。


 けれども。初めて会ったとき、ミシェルはアスターに兄になって欲しいと頼んだ。一人っ子で寂しかったから、優しいお兄様が欲しかったのだと。


 ミシェルの邪気のない笑顔を見て、アスターは自分自身を恥じた。こんなに幼い子を、自分の政治の道具にしようとしたのだ。


 贖罪の気持ちも込めて、アスターはミシェルの良き兄でいることに努めた。家族を失ったアスターにとって、ミシェルはたった一人の家族になったのだ。


 それから十年。ミシェルは美しく成長した。いつからだろう。ミシェルを妹のように思えなくなってしまったのは。一人の女性として意識するようになったのは。


 けれども、長年兄のように振る舞ってきた手前、男としての自分をミシェルに拒否されるのが怖かった。


 万が一拒否されるくらいなら、このまま兄の立場でいるのも悪くないとすら思うほどに。絶対に失いたくないという気持ちが、アスターを臆病にさせていた。


 けれどあのとき、はっきりと自覚してしまったのだ。ミシェルから好みの女性のタイプを聞かれたとき、他の女をあてがうつもりかと勘ぐってしまった。


 もしミシェルが他の男と結婚したら。今までのような関係でいられるはずもない。ミシェルの隣に自分以外が立つのも、自分の隣にミシェル以外の人間が立つのも、考えるだけで不愉快だ。


(最初から、逃がす気なんてなかったくせに)


 アスターはミシェルの髪を一房取ると、そっと口付けた。


 ◇◇◇


 柔らかな日射しの中、たっぷり睡眠を取ったミシェルが目を覚ますと、隣にはすでにアスターが眠っていた。


「えっ!?お兄様!?いつの間に!」


 ハッとして自分の体を確認するミシェル。多少寝乱れてはいるものの、なんの形跡もないことにがっくり肩を落とした。


「私って、そんっなに魅力がないのかしら」


 ミシェルの沈んだ声に思わず吹き出すアスター。


「お、お兄様!?聞いてたの!?」


 真っ赤になるミシェルにアスターはそっと口付けた。


「い、いま、キス、した?」


 ますますパニックになるミシェル。


「キスしちゃ駄目だった?」


「だ、ダメじゃないけど、は、初めてだったから」


 自分のベッドの中に下着姿で居座る可愛い侵入者。ああ、もうどうしてやろうか。


「愛してるよ、ミシェル」


 アスターはとりあえず二度目のキスのあとで考えることにした。


 おしまい

読んでいただきありがとうございます

(*^▽^)/★*☆♪

下のほうにある☆☆☆☆☆を★★★★★にして、応援して下さるとすっごく嬉しいですっ♪ポイントがたくさん貯まると作者がニヤニヤします。

広告の下に読み周り用にリンクを貼ってあるので、ぜひ、色々読んでみて下さいね。

皆様の感想、お待ちしてま~す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bqz7ivj57tte9gjn92hojoz43gd0_gcv_zn_1kw_d3lm.jpg
しましまにゃんこさん累計ポイントランキング
総合評価:29,412 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 9,089文字
あらすじ等
わがまま姫と評判の公爵令嬢が選んだ結婚相手は貧乏伯爵家の三男坊!? 激高する王子に突きつけた婚約破棄の真相とはっ!? 婚約破棄からはじまる正統派ラブストーリー! 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 身分差 ヒストリカル ラブコメ 貴族 騎士 わがまま令嬢 溺愛 ハッピーエンド 婚約破棄 ざまあ キルタイム異世界大賞 貴族学園 アイリスIF3大賞
投稿日:2021年4月12日
最終更新日:2021年4月12日
総合評価:26,500 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 1,683文字
あらすじ等
冤罪で王子から婚約破棄され、屈強な男でも三日と持たないと言われるほど過酷な炭鉱送りになった悪役令嬢のリリアナ。 ───三ヶ月後、彼女は最愛の父に近況を書いた手紙をしたためる。その驚きの中身とは? チートな爆炎魔法を使える悪役令嬢が、過酷な環境もなんのその、ちゃっかり幸せを掴むお話です。手紙形式になっています。 シリーズ化しました! 「リリアナちゃんとゆかいな仲間たち」 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 異類婚姻譚 身分差 ヒストリカル 悪役令嬢 日常 ラブコメ 女主人公 溺愛 獣人 ハッピーエンド 婚約破棄 追放 ほのぼの キルタイム異世界大賞 リリアナちゃん アイリスIF3大賞
投稿日:2022年5月2日
最終更新日:2022年5月2日
総合評価:14,130 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 2,631文字
あらすじ等
貴族学園の入学を祝うパーティーの席で、いきなり婚約者である第三王子に突き付けられた婚約破棄! 「お前のような野暮ったい女と結婚するくらいなら、生涯独身のほうがまだマシだっ!」 「承知しましたわ。今日からは、自由の身です!」 学園生活が始まる前に婚約破棄されちゃった公爵令嬢が、したたかにミラクルチェンジしてハートをズッキュンするお話です。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: ヒストリカル スクールラブ ラブコメ 婚約破棄 地味令嬢 華麗に変身 美少女 ほのぼの ハッピーエンド 学園 ギャップ萌え 女主人公 ネトコン11感想 異世界恋愛 【短編】
投稿日:2022年4月4日
最終更新日:2022年4月4日
総合評価:14,062 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 4,632文字
あらすじ等
ダイナー公爵令嬢シルフィーは、聖女ユリアナを殺そうとしたという無実の罪を着せられ、投獄の上一族そろって処刑されてしまう。死の間際、シルフィーは自分と家族を殺した者たちに復讐を誓い、もし生まれ変われるなら、復讐を果たす力が欲しいと神に願う。 だがシルフィーは、虐げられる薄汚い孤児として転生していた。前世の記憶を取り戻し、力のない現状を嘆くシルフィー。しかし、そのとき彼女の胸に、聖女の紋章が浮かび上がる。 「ふふ、あはははははは!」 力を得た彼女の復讐が、今ここに幕を開けるのだった。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。 ...
キーワード: 身分差 悲恋 ヒストリカル 悪役令嬢 ネトコン11感想 冤罪/処刑 聖女/復讐 婚約破棄 ざまぁ ハッピーエンド
投稿日:2023年7月22日
最終更新日:2023年7月22日
総合評価:13,854 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
完結済(全8話) 10,193文字
あらすじ等
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっか...
キーワード: 貴族令嬢 婚約破棄 浮気 コンプレックス 溺愛 ざまぁ ハッピーエンド イケメン王子 女主人公 真実の愛 ネトコン11感想 貴族学園
投稿日:2022年10月20日
最終更新日:2022年10月20日
ヘッダ
新着順① 総合評価②順 エッセイ③ 詩④ 異世界⑤ 貴族学園⑥ リリアナちゃん⑦ つよつよ短編⑧
フッダ


ヘッダ
わがまま

わがままはお好き?
― 新着の感想 ―
[良い点]  気持ちの変化が自然と読み取れてしまう力量、さすがです❗(人´▽`*)♪ [一言]  美男美少女のカップル、アスターがなかなかクールで苦労人、可愛いミシェルを末永く守ってくれそうです。  …
[良い点] ミシェル可愛い~♪ [一言] 読みやすくて、キャラが目に浮かびます。 短編はこう書くのかあ。 今回も勉強させていただきました。 しまにゃん、ありがとうごさいます。
[良い点] はじめまして。 可愛い純愛の素敵なお話で、とても楽しく拝読致しました。 ミシェルが可愛い〜!(〃艸〃) 彼、アスター視点があるので、さらにニヤニヤが止まりませんでした。 【もうどうしてやろ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ