一番の理解者
思い付きで書き始めた短編ですので、最初と最後で矛盾しているところがあるかもしれませんが優しい目でご覧ください。
ほんとによくわかっているわ
そう思い深く感動した。
目の前で偉そうに仁王立ちするこの男。
私の「元」婚約者にして一番の理解者だ。
今まで私が思ってても口に出さなかったことをズバリ言い当ててきてくれた。
「お前は社交をめんどくさいと思っているからそんな無愛想な顔ができるんだろ」
「お前は勉強が嫌いなんだろう、少しは僕を見習え」
「運動なんて自分は必要ないと思っているんだろ」
「全部僕に任せておけばいいと考えてるんだろ」
言われる度に表面上は
「いえ、そんなことはございません」
「殿下には敵いません」
「すみません、精進させていただきます」
「殿下の考えを信じておりますので」
なんて言ってきたが、
きっと殿下には私の心の中まで手に取るようにわかっていたのだろう。
(そうそうそうそう!!さすが殿下!!!私のことよくわかっていらっしゃる!!!)
社交はめんどくさい。
あんな上っ面な笑顔で情報を武器に戦う場所なんて向いていない。
ほんとに心許せる人にしか笑顔を見せる必要が無いもの。
勉強だってそう。
必要だからやっているだけで殿下の上の成績を取らないように調整するのであれば最初からやりたくない。
殿下も兄である第1王子の功績を超えないようにいろいろ力を抑えられているのでしょう。
運動?
あぁ!やだやだ!
こう言ってはなんだけど私は公爵令嬢らしくないほど働く。
体を動かすことが好きなのではなく、働くことが好きなのだ。
メイドたちに混ざって掃除をしてみたり、領地の孤児院で子どもたちと遊んだりすることで十分体型を維持できる。
政治はまずもって婚約者の私に決定権はない。
当たり前だ。
それでも国王が私が婚約者に相応しいかどうかと最初に試してきた問いかけに真面目に答えてしまった時からどうも少しづつ殿下の仕事が回ってきている気がする。
絶対にめんどくさい事に巻き込まれたくない私は全て殿下の許可をいただいて仕事をしている。
だいたいグータラ好きなことがしたい性格なのだ。
メイドたちと最近聞いた噂話をしながらする掃除が好き。
子どもたちのためにクッキーを作る時間が好き。
町の人たちの生活を見るのが好き。
改めて考えると私は公爵令嬢に、更には王族なんかに向いていない。
そこまでわかってくれていたのか。
「改めて言う!王族として相応しくないお前との婚約は解消する!」
そう告げるこの国の第2王子。
そして私は第2王子の婚約者だった公爵令嬢。
そう、この肩書きでもわかる通り政略的な婚約だ。
もちろん私に恋愛感情はないし、向こうにも…
「元から政略的な契約だったんだ、お前を好きだったことはない!お前もそうだろう?」
あぁ、言わなくてもわかってくれるってなんて楽なのかしら!!
もちろん
「その通りです!」
なんてこんな人が多いところで言えないから
とりあえず頭を下げて顔を見えないようにする。
なんてったってここは王宮の舞踏会会場。
国王から子爵まで揃っているのだ。
噂好きなご令嬢を先程見えたからすぐにでも広まるでしょうね。
あそこは新聞社と繋がりのある貴族ね。
明日には1面かしら。
「そして私はここにいる彼女と婚約する!」
そう言って隣に立つ女性を紹介する王子。
ちらっと顔を上げてみると見覚えがある。
(学園で有名な方よね。私のメイドたちがよく聞かせてくれたわ。)
ええっと、なんでも?
ぶりっ子で男性に媚び売るような見た目をしている?だったかしら。
薄ピンクのフワフワした髪をツインテールにして、白の胸元が大きく開いた可愛らしいワンピース。
王子を見上げる目は大きく、唇はぷるぷると潤っている。
可愛いじゃない。
あの子たちったらまた身内びいきしてあんなこと言ったのね。
公爵家の者たちは私をこの国1番の美女だと思っている節がある。
憎めないメイドたちを思い出しながら苦笑いする。
私は黒い絹のような髪をストレートにおろし、首元のしまった青いマーメイドドレス。
切れ長の目に、薄いくちびる。
本当に正反…
「お前とはまったく正反対で思うことはあるだろうが、私は彼女と一生生きていく所存だ」
ありがとうありがとう!
もう文字数すらも省いてくれる。
これだけ人が多く、情報が撤回しづらい場所での宣言。
面倒くさがりでなんでも後回しにする私の性格をよくわかって、しかも後処理が苦手なことを汲んで次の婚約者まで決めてくれていたとは!!
胸の中は感動の嵐だ。
しかし表面にはおくびも出さず、静かにそして顔を伏せたまま了承の言葉を口にした。
それでも殿下は私がこの決定に大賛成なのをわかってくれているだろう。
一番の理解者がいなくなるのは不便だが、まぁどうにかやっていけるだろう。
国王や王妃が何か言いたげにこちらを見ているが、なにせ人目が多すぎる。
そう、2人も私のこの性格に気づかれていたのね。
口をパクパクとさせる2人に美しく頭を下げ会場をあとにした。
翌日、大笑いしながら目の前に座る男を私は睨んでいた。
「なんだよあの顔!あんな悲しそうな顔できたのかよ!!」
「あれは殿下が私の思いを全てくみ取ってくださるから感動して…」
「あれが感動の顔…!社交界で鉄壁の名を持つお前の表情筋どうなってんだよ!」
お腹を抱えて笑うこの男、私の二従兄弟であり、殿下の従兄弟でもある。
2つ上の彼は幼少期から殿下のことも私のこともよく面倒を見てくれた。
特に面倒くさがりの私を叱咤激励してくれた。
殿下を入れて上から2番目に私の理解者だ。
最近辺境での反乱鎮圧のため顔を見てなかったが、黒の短髪は少し伸び大人の雰囲気に成長したようだ。
昨日の舞踏会は帰還した彼の功績を称えることも意図されていたはず。
それを思うと少し申し訳ない気持ちになった。
「でもごめんなさい。あなたの武勇伝を聞かずに帰ってしまったこと残念だわ」
「なぁに、武勇伝ったって戦って鎮圧したんじゃないしな。話し合いだよ。何かしらの不満を持って反乱起こしてるわけだしよぉ」
「話し合い…」
「そうそう、思ってることを口にせず100%伝えられるわけなんてないんだから」
はいはい
思わずため息をついてしまう。
昔からこういう考え方なのだ。
殿下は言わずともわかってくれるタイプの理解者だったが、この人は私の考えがわかるまで私の気持ちがわかるまでしつこく聞いてくるタイプの理解者だ。
でも1度理解してくれればこんなに心強いことはない。
ただしめんどくさい。
そんな私を横目に彼が立ち上がる。
「そういえば、お前に伝えることがあってな」
はて?なにか伝言かしら?
「俺と結婚しないか?」
…え?やっとめんどくさい婚約から解放されたのに??
「めんどくさいと思ってるのはわかってるよ。だからそんなお前に特等席を準備してやったさ」
そう言ってニヤリと笑う彼に少しドキッとしてしまった。
二従兄弟からの求婚の数日後、国王からの知らせが届いた。
公式に私と第2王子の婚約が解消されたこと。
新たに婚約が結ばれたこと。
そして、先の反乱鎮圧の褒美としてその地帯を二従兄弟が辺境伯として治めること。
さらに不思議なことに、
私の新たな婚約者としてその辺境伯をすすめること。
朝から花束を持って現れた彼にどういうことか詰め寄る。
「あれ?お前の好きな花ってこれじゃなかったっけ?」
「たしかにそれは私の一番好きな花だけど…」
「お前のことはよくわかってるって!この辺境伯に嫁入りしないか?」
「それがよくわからないんだけど?」
「でもお前、王族なんてなりたくなかっただろ?」
ニヤッと笑いながらそう聞かれて驚いた。
たしかにこの人には色々聞かれ色々話した。
でもそんな直接的に嫌だ!なりたくない!なんて言ったことはなかったはず。
「たくさん話せばその人となりはわかってくるものさ。どれだけ話したと思ってるんだ?元婚約者よりも話しただろう」
「彼は言わなくてもわかっていたし…」
そこでひとつため息をつかれた。
「ほんとにそうか?」
「そうに決まってるじゃない」
「それすらも聞いたことないんだろ?」
「そ、れは…」
呆れたように笑いながら提案された。
「お前の一番の理解者は俺だってわかれば結婚してくれ」
なんでそこまでして私と結婚したいんだろう?
「お前のことが好きだからだよ」
「え?」
「たしかにこれは言ってこなかったからわからなかっただろうけど、さすがに婚約者いる女に告白なんてできねぇしな」
頭の中が真っ白になる。
もう、自分が何を考えてるのかわからなくなった。
こんな時に殿下だったらわかってくれるのに!
「おい!どういうことだ!!」
ドアを乱暴に開けて入ってきたのはその殿下だった。
「今更どうしてここに?」
と、新しい辺境伯は落ち着いてに対応する。
ここにくることわかってたのかしら?
「なんでお前が彼女に求婚してるんだ、と聞いてるんだ!」
あぁ!!殿下も疑問だったのか!
お願い!私のこのモヤモヤとした気持ちを汲み取って!!
そんな思いで殿下を見つめる。
そんな私を見てフッと偉そうに笑うと、殿下は辺境伯に向かいこう叫ぶ。
「彼女は僕の側妃になりたいんだ。まだ僕のことを愛しているからね」
は?
「言わなくてもわかってるさ」
あれ?
「兄のような存在に求婚されても、と思ってるんだろ」
兄?二従兄弟のこと?
いや、別に兄とは思ってな…
「お前は私がいないと何もできないだろ?」
あれ、この男、私の一番の理解者で、何も言わなくてもわかってくれてると…
「あの…私別にあなたのこと好きじゃないですよ?」
その後大笑いする二従兄弟を尻目に「元」婚約者同士は初めて話し合った。
話せば話すほど私たちは理解者からは程遠かった。
そして笑いが収まった二従兄弟からの求婚には「特等席」が準備されていた。
嫌でもこの二従兄弟が本当の理解者であることがわかった。
それを聞いた私は一つ条件を付けて受け入れた。
1年後
「だから言っただろう、一番の理解者は俺だって」
そう隣でニヤつく夫を無視して執務室の机で仕事を進める私。
「反乱がおきた辺境は領主が代替わりして領民の生活を見てくれる奴にしてくれって話だったんだ。町の人々の生活を見ることが好きなお前にはぴったりだと思って、俺があの後ここの辺境伯になったのさ」
「まぁたしかに町の人たちの生活を見る仕事をくれるっていうのは魅力的だけど、めんどくさい領主の仕事はやるつもりなかったわよ!」
「だからその条件は飲んだじゃないか。でも1か月もしないうちにお前はこの執務室で領主の仕事もし始めるぞって予想はしたけどな」
そう。彼が準備した「特等席」は領地のそんなに大きくない屋敷を使用人たちと共に切り盛りすること。
そして町の人たちの生活を見て回り、話を聞くこと。
社交界には最低限しか参加しなくていいこと。
そして、夫婦でよく話し合うこと。
領主の仕事なんてめんどくさいと思っていた私も町の人たちの交流する中で彼らのために働きたいと思いペンを持ち上げたのが辺境に来て2週間のことだった。
「さぁ、今思ってることを教えてくれよ。愛しい奥さん」
小さい頃から口癖のように出る話し合いが始まる合図。
小さく息を吐いて私は憎らしくも愛おしい人を見上げて-
「ほんとによくわかっているわ」




