第五話『始まりの街』
「なぁ、シズク」
「むぅぅぅっ……!」
「変な呻き声上げてないで会話してくれよ」
シズク的に先程のお別れ未遂は死ぬほど恥ずかしかったようで、拗ねたのか、さっきから俺が話しかけてもまともに応対してくれない。
しょうがない、本当はシズクも交えて話したかったが機嫌が直るまではイフと今後の予定について話すとしよう。
「はてはて、一体どうやってシズクを持ち込めばいいのかねぇ。バッグとかもないから隠しようないし」
ついさっき仲間に加わったスライムを隠しながら街の中に入るにはどうすれば良いのかと苦悩しているところである。
どうやら魔物を街の中に連れ込むのはダメらしいからどうしたものか。
そんなことを考えてると女神の声がする
『一応、魔物を連れてるっていう店では【テイマー】みたいなもんだし、自分の従魔ですって誤魔化せば?』
「テイマーって、魔物とかを従えてる職業だっけ?この世界にもそういう概念あるのか」
【テイマーの解説】
・職業:従魔師
・魔物を従わせ、操る職業。
・一部の人間は魔物を従順にする魔法を持っており、それで魔物を従えている。従えられた魔物は【従魔】と呼ばれている。
・何匹従えられるか、どれほど強い魔物を従えられるかは個人の才能や努力、魔物とどれほど友好関係を築けるかによって決まる。
確かにテイマーのフリをすれば突破は容易か……とりあえずはその方面で考えるとしよう。
「……ねぇ、前からずっと気になってるんだけど、結局スグルって誰と話してるの?」
おっ、ようやく口を開いたな。
まぁ、シズクも仲間になったわけだし、そこら辺説明しといた方が色々と話を進めやすいよな。つっても、なんて説明すりゃいいんだか。
女神に話しかけられてマース。なんて言って信じるやついるのか?
『このままだと傑が狂人になっちゃうからシズクとも通信繋ごうか?』
「えっ?そんなこと出来んの?」
『私だって神様なんだからそのくらいのことできて当然だよ。』
なら最初からしろよと思ったが口には出さないでおこう。
『えーっと……これでどうかな?あーあー聞こえてるー?』
「うわっ!?何この声……気持ち悪っ!」
『酷っ!そんなに言わなくてもいいじゃん……』
見えないが罵倒されたショックでうずくまってるイフを幻視してしまった。
もし実際に見れていたら写真に収めていたものを……惜しいな。
「あ〜、一応コイツが俺が話してた相手だ」
『はいはーい!みんなの女神様のイフちゃんでーす!きゃるん』
「うぉえっ……!キッツ……」
いつものイフとのあまりのテンションの違いに吐き気を催してしまう。
なるほどこの女神。実は精神異常魔法の使い手だったのか。きっと性格に由来する才能だろうな。
『あんまり言いすぎると天罰くだすよ?』
「すんませんでした」
こいつの事だからこれ以上弄ったら何らかの手段で俺にとって不都合なことを仕掛けてくるに違いない。確証はないが、何となくそんな予感がする。
「なかなか変わってる人?だね。でもさっきの自己紹介はキツかったからあのテンションはやめてね」
『さ、さっきのってそんなにキツいの?……まぁいいや。で、これからどうするの?』
「切り替えの早さだけは神だな」
よぉ〜し、じゃあ話すとしますか。ついさっき考えた俺の救世物語、その1章目をよぉ!
「まず奥に見えてる街に行ってこの世界の常識と有益な情報を得る、役に立ちそうなものを買う、資金確保、その街の偉い人と交流する。これらを第1目標に設定する!」
『おー。雑な頭で考えた割には良い計画だね』
「お前は俺を貶さないと死ぬのか?」
まぁ、貶しつつも褒めてくれたことに変わりなし。ポジティブシンキング。良い部分を拾っていくとしよう。
「━━目標とかそんなことより今はお腹がすいて死にそうなんだけど」
そう抗議するシズクの体はさっきよりしぼんでるように見えた。お腹が減ると体積が減るのね。道理で腕にかかる重みが軽くなった訳だ。
「そもそもお前なに食うの?」
「魔力……」
「魔力?魔力って食えるもんなのか?……おーいイフ?シズクのご飯って俺の魔力でもいいのか?」
『問題ないはずだけど、肝心の魔力の受け渡し方は……うーん……あんまり言いたくないな』
何故かイフは話そうとしたがらない。そんなにもったいぶられるとめっちゃ気になるんだが。
「まぁいいからとりあえず教えろよ」
『聞いても後悔しないでよ?━━受け渡し方は、「もう我慢無理!いただきまーす」
「……え?」
イフの言葉を遮ったシズクは一瞬にして俺の首に纏わりつくと、口?を俺の肌に密着させ、ストローで飲み物を飲む要領で俺の中にある魔力を吸い出していった。
「ぬわぁぁああああああッ!!」
◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……ごちそうさま♪」
シズクは魔力が回復した影響か、しぼんだ体から元のまん丸ボディに戻った。気の所為じゃなければ一回り大きくなった気がしないでもない。
まぁ、その代わり俺は魔力の半分以上を持っていかれたわけだが、
「ごっそり吸い取りやがったなお前……っていうか受け渡し方法アレしかねぇの!?」
『魔力の受け渡しは受け取る側が与える側の首から魔力を吸うことによって出来るっていう不便なシステムだからね。まぁ実質蚊みたいなもんだよ』
表現の仕方酷いし、これ仮に男とかにやられたらとか考えちゃうし、あんまりいいことねぇな。女性にやられる分には問題な、……っと、邪な考えがよぎったな。
「満腹になったか?」
「満足!」
ご満悦なのかぽよんぽよん飛び跳ねてる、その代わり俺は具合悪くなったけどな。
「にしても俺も腹減ってきたし、さっさと街に行くか。もう少しで着きそうだし」
雑談しながら歩いてるうちに街の近くまで来ていたようで、軽く外から街の様子を伺う。
すると俺はあるものに気がつき、街の入口付近を凝視した。
「あ〜、予想はしてたけどやっぱりあるかぁ。【検問所】」
検問所……元の世界では通行人やその所持品などを調べる際などに設けられる施設だが、この世界でも大した違いはないだろう。
そして検問所に多くの人が列をなしているのが見えた。
「身分証明が必要な感じ?」
『まぁそうだね。でも傑は身分証明できるものないから入れないよ。金出せば入れるけど、1文無しだし』
「まぁ待てよ。行かないことにはチャンスもつかみ取れねぇからな。やるだけやってみるとしよう」
ここで待っててもしょうがないからな。俺の演技力が物を言う場面だぜ。
俺達は僅かな望みにかけて街の入口の方に向かって歩いていく。
◆◇◆◇◆◇
30分ほどかけて入口付近に到着した俺たちは迷わず列の最後尾に並んだ。
さてさて、まずは情報収集といきますか。ここからでも得られるものは多い。
例えば俺の前で並んでる人の外見、装備、種族。女の子とかは華奢だけど、男はガタイ良すぎんな。細身の俺が浮いて見える。
装備はファンタジーでよくありがちな魔法使いっぽいローブを着ているもの、鎧を着込んでいるもの、軽装だが、露出が激しいものまで様々だ。そして衣服という点でもポリエステルで作られたカッターシャツに黒の長ズボンの俺は悪目立ちすること間違いなし。
そして最後に種族だが、俺は見逃さなかった。列の真ん中あたりでぴょこぴょこと頭頂部付近に生えたケモ耳を。獣人もいる世界とは王道ですな。魔族っぽいのが居ないのがちと残念だが、多分居るには居るのだろう。会えるのが楽しみだ。
『なんでそんな下卑た目で前の人見てるの?』
「そんな下卑た目してた!?嘘でしょッ!?」
確かに獣人の子は……可愛かった。すっごい。ニヤニヤしてたかもしれない。うん、人から言われないと案外気づけないもんだな。反省しよう。
イフの言葉にショックを受けたのであまり視線を動かさず、大人しく順番が来るのを待った。
そして俺の後ろにまた列ができる程に長い長い待ち時間を経て、ようやく俺たちの順番が来た。
「次!」
そう声を上げたのは見るからに頑丈そうな鎧を身にまとった男。背中には大剣を携えており、とてつもない迫力がある。
「は、はい!」
「……ふむ、見慣れない服装をしているな。それに魔物を連れてるということはテイマーか。身分を証明出来るようなものはあるか?」
「あっ……も、持ってません」
「なるほど。だったら100Gの通行料がかかるが持ってるか?」
G━━この世界の通貨で間違いないだろう。100Gがどのくらいの価値かは分からないが、少なくとも今の俺に払えたものじゃない。
どうする俺。それっぽい嘘を並べて誤魔化すしかねぇが、異世界で通じそうな嘘。……ハッ!これだ!
「……実は俺……ここに来る道中の草原で盗賊に襲われて……持っている金品を持っていかれまして……だからこんなに服とかもボロボロになってて」
森で寝たり、地面に這いつくばったりしたから俺の服は土で汚れてる。追い剥ぎに遭った感じはするだろ。
もし仮に盗賊があまり居ない感じの世界だったら、珍しい事柄として事情聴取される危険性を孕んでいるが、賭けで勝つしかない。
「━━ふむ」
顎に手を当てて俺の事をジッと見つめる兵士。
ど、どうだ?兜のせいでどんな表情してるのか分かんねぇ!怖ぇぇえっ!
「それは災難だったな……よし、今回は特別に通行料を無しにしてやる。次からはちゃんと払うように」
「あ、ありがとうございます!」
勝った……!計画通り……!
「ようこそ。この街【ダラトナ】はお前を歓迎するだろう。━━それと、今度からはもう少し分かりにくい嘘をつくことだな」
すれ違いざまにぼそりと兵士が俺に言葉を送る。
お、おやおやぁ?バレてたのか……結構いい演技だったと思うんだがなぁ。でも、バレた上で見逃してくれたのならこの人優しいな。
俺は兵士の方へと向き直り、深々と頭を下げてから街の中に入っていった。
◆◇◆◇◆◇
「うぉおお!異世界の街って感じ!いいねいいねぇ!」
街に入った俺を出迎えたのはレンガ造りの建造物群。よく皆が思い描くような異世界像そのままの中世ヨーロッパ風の街並みだ。
「なんかテンション上がってるね。それで、まずはどこ行くの?」
『私はギルドとか行った方がいいと思うよ。情報収集とかできるし』
シズクとイフが何やら話しているが、そんなのは考えるまでもなく既に決まっている。
「馬鹿だなぁ、お前ら。━━よし!おばちゃんを見つけるぞ!!」
「『は?』」
困惑する2人を無視して傑はおばちゃんを探すためにこの街をさまようのであった!この街で傑は何を得るのか。これからの出会いに注目!
次回へ続く




