第四話『希望の光』
「あー、気分はまるで魚のようだ」
現在、俺は陸に打ち上げられた魚のようにピチピチと地面で跳ねている。魔力切れで動かない体を無理やり動かそうとしてるが故にこのようなことになっているのだ。
『で、なんで跳ねてるの?コイ○ング?』
なんでコイ○ング知ってんだよ。お前一応異世界の女神だろ。
「このままだと魔物がまた来るかもだろ。だから無理やり動いてあそこにある草むらに隠れようとしてんの」
「なんか気持ち悪い挙動だね」
『やろうとしてる事は分かるけど、こういう人が近くに居たら、ちょっと距離を置きたくなっちゃうよねぇ』
こいつらは俺を馬鹿にしないときが済まないのか?
俺に対する扱いに憤りを覚えつつも、俺の脳は先程の戦闘を思い返していた。
「にしてもこの世界だとさっきの狼一匹が雑魚か……それに必死になってる俺、泣けてくるね」
「本来ウルフは群れで行動する魔物だから今回のはたまたま群れからはぐれたヤツだったっぽいね」
スライムくんの口ぶり的に俺はだいぶ運が良かったってことか。あの状況でもう何匹か居たら今頃俺は骨までしゃぶられてた訳だな。軽く想像するだけで恐ろしいですな。
「にしても跳ね回るくらいならあそこに転がってるウルフの魔力を吸収したらいいのに」
「ん?」
きゅうしゅう?……吸しゅう?……九州?
突如頭に浮かぶ日本列島南西部に位置する島々。
「何言ってんだこのスライム」
『あ〜、そういえば伝えるの忘れてたね。せっかくだしここでイフ先生が無知な君のために授業をしてあげよう!』
「お〜、簡潔に説明しろよなー」
『まず、この世界の生物は魔力を体内に宿している。それは覚えたよね?』
「あぁ、そりゃもちろん。地球とは違ってここは誰でも魔力を持っていて、それを魔法に転用している……だったよな」
「ねぇねぇ、やっぱり誰か話してるよね?」
俺の傍に近寄ったスライムくんは俺と話している誰かが気になって仕方ないよう。
前にも聞かれたが、説明するのはめんどくさいので、
「お前には関係ない話だよ。素人は黙ぶばっ!」
俺の喋り方が気に障ったのかスライムくんが助走をつけて俺の顔に体当たりをぶちかましてくる。
こいつ!俺が動けないことを良いことに好き勝手しやがって……!
『……おっほん……話を戻すけど、とりあえず生物が保有してる魔力ってのはその生物の生命活動が停止すると凝縮されて塊として心臓に形成されるの。これが君の世界の小説とかで出てくる【魔石】ってやつだね。その生物の保有していた魔力量で大きさは決まるよ』
「なるほどなぁ……まぁ、それは分かったけど、結局どうやって吸収すんの?」
『食べるんだよ。魔石は一見硬そうな見た目してるけど案外噛み砕けるんだよね。それで体内に取り込むと魔石に含まれてる魔力分だけ回復するの。あとは自分より強い存在の魔石を吸収すると自身の魔力量が増えるよ』
「なるほど、魔石を食べるってのがこの世界におけるレベルアップの手段か……ちなみに何味?」
日本人たるもの最初に気になるところはやはり味よな。酷い味だったらシャレにならんからな。
石だし、なんとなく酷い味な予感がしてるんだが、
『無味無臭。なんの味もしないよ。氷食べるみたいな感じ』
「じゃあ問題ないか。おーいスライムくーん。ソイツの心臓部分にある魔石を引っ張り出してあ〜んしてくれ」
「あーんって言い方やめてよ。セクハラだよ?」
スライムくんはそう言いつつも、ウルフの死骸から魔石を抜き出して俺の顔の目の前まで持ってきた。
しかも血で汚れてた部分は水で洗い流してくれるし、もしかしなくてもツンデレかな?
「ほらっ、あーん」
「案外ノッてくれるのね。あーん」
付き合いたてのカップルみたいなノリだなぁ。と思いながら俺は魔石を口にした。
そしてガリッ!と音を立てながら魔石を噛み砕き、喉を鳴らしながら飲み込んだ。
「……う〜ん、やっぱり冷たくない氷って感じだな。すっげぇ微妙な味。そいで、食べたけども。どのくらいで回復するんだ?」
『魔石は吸収率が良いからすぐに回復するよ』
サプリメントみてぇだな、という思考が過ぎった次の瞬間、全身に温かい何かを注がれるような感覚に陥る。
すると、先程まで全く動かなかった身体に活力が戻る……いや、むしろ先程より体の疲れがなく動きやすい。
どうやらサプリメントの上位版だったらしい。
『魔力が戻ったついでに魔力量が増えたんだね。さっきを10としたら今は20とかだろうね。にしてもこの程度の魔物で魔力量が増えるなんて君はよっぽど生物としての格が低いんだろうね。なんか言ってて悲しくなってきたよ。グスンッ』
う、うぜぇ!なんだコイツ!人が喜んでんのに煽ってきやがって……!
まぁいい、どんなに小さくても成長したことに変わりはないし、数値だけ見るなら以前の俺より2倍は強くなったんだ。今の俺にできないことなんかねぇ!
「なんか今なら森から脱出できそうな感じがする!いけそうな感じがする!うぉおお!突撃じゃー!」
「ちょっと待ってよ!馬鹿なの!?」
倒れている体を起こして、1寸先も見えぬ暗闇に突っ込もうとしたが、足元に立っていたスライムくんに足を引っ掛けられ、勢いよく顔から地面に突っ込んだ。
「痛ッぁ……な、何してんだテメェ!」
「それはこっちのセリフだよ!もう深夜だよ!あと魔力が回復してテンションがハイになってるだけで体力は回復してないんだから大人しく寝ること!」
おぉっ……せ、正論だ。反論の余地がねぇ。ってかもう深夜か。この森暗いから朝なのか夜なのか分かりづらいんだよな。
「り、了解しました。心配してくれてありがとうな。スラママ」
「スラママって何!?」
「お前が母親みたいなこと言ったからスライムのママ略してスラママ」
「やめてよぉ!付けるならもっと可愛いのにして!」
「スラママも十分可愛いと思うんだが……えー、そうだなぁ……っていうか名前聞いてなかったけど、スライムくん名前あんの?」
「僕の名前?そんなのないよ」
ほーん、名前ないのかぁ。それちょっと不便だなぁ。いつまでもスライムくんって呼称するのは余所余所しいし。
『基本的に名前を付けられてる魔物は少ないね。人間並みの知能を得た魔物なら子供に付けるかもだけど』
そういうもんなのか、それなら――
俺はビシッと背筋を伸ばし、カッコつけながらスライムくんに指を差して、
「じゃあ俺が名付けてやろう!」
「……えっ?いいのっ!?やったぁっ!」
スライムくんはクリスマスの後日、枕元にプレゼントがあった幼子のような無邪気な声を上げ、俺の周りぴょんぴょん飛び跳ねている。
「そんなに嬉しいものなのか?」
俺がスライムくんの奇行に戸惑っているとイフの言葉が頭に響く。
『名前ってのは自分を表すことが出来るとても大事なものだからね。それに、やっぱり名乗れる名があると嬉しいでしょ』
その発言を聞いて納得したと同時に1つの疑問を抱く。
「そーいやイフって名前あるじゃん。誰に名前付けてもらったの?」
『……うーん。かなり昔に私にとって大切な人?につけてもらったよ。その人は今大変そうだから手助けしてあげたいけど私は神だから下手に干渉できなくなったんだよね』
「ふーん。じゃあ俺がたまたまその大変そうなヤツに会ったら、遊びにでも連れ回してやるよ」
『そうしてくれると大変ありがたいね。ホントにね』
――今のイフの最後の言葉がなんだか物悲しげな声に聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。
「で!僕の名前は!」
あっ、忘れてた。……名前かぁ、名前ねぇ。
適当な名前を付けるのは流石に無礼だしな。
簡単簡単、こういうのは連想ゲームよぉ。スライムくんの特徴から考えよう。
うーん、スライム……アクア……水……おっ!
「雫……シズクでどうだ?」
完全に見た目から連想した名前だけどな。水滴みたいに綺麗で丸っこい体。
これ以外の案もあるにはあるけど、これが一番しっくりくる。
「シズク……うん!今日から僕はシズクだよ!」
どうやら気に入って貰えたようだ。
表情がなくても分かる、これはご満悦な顔。
『頭悪い君にしてはいいネーミングセンスだね』
それは褒めてんの?貶してんの?……まぁ、それはそうと、
「……あーぁ、疲れたぁー」
体力がもう限界だ。魔力が回復したから多少動けるとはいえ、さっきまでのテンションの上がりようも段々と引いてきて気だるさが増している。早いとこ寝るのが吉だろう。
「安全そうなとこ……上か。とりあえず木に登って襲われないように寝ますかね」
俺は最後の力で木によじ登って、ある程度しっかりしている枝に跨り、幹を背にしながら目を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
「……んぁ?……朝、か?……暗くてよくわかんねぇ……あと背中いてぇ。なんか妙に頭が重いし……とりあえず降りねぇ、と?」
――そういえば俺なんでこんな木の上にいるんだっけ?
『おっはよー!元気かい?』
俺の脳内に女性にしては比較的低音で、安心するような声が響く。
そして思い出す――昨日の夢にしか思えない壮絶な1日を。
そうだ、俺異世界転生してたんだったわ。夢じゃなかったのか。
「あれ?シズクは?」
俺が辺りを見回しても昨日出会ったスライムが見当たらない。まさか、
「見捨てられた?マジぃ!?」
「うるさいッ!寝てるんだから静かにして!」
何やら上から声がしたので目線を上げると頭の上にシズクが乗っかっていた。
「あぁ、そういうことね。どーりで頭が重かったわけだ……はよ降りろ!」
「えぇー?まだ寝ててもいいじゃーん。そんなに急ぐ必要あるのぉー?」
「あるの!俺はこんな場所から早く脱出したいの!」
俺がそういうとシズクはぬるりと這うように俺の頭から体を伝って地面に降りていった。
「はいはい……じゃあ森からの脱出再開ね」
ということで寝起きで日頃の1.2倍ほど重力が増したような感覚の中、俺たちは森からの脱出に向けて歩き始めた。
道中でたまに別のスライムに遭遇したり、毒々しい見た目のキノコを見つけたりしたが、触らぬ神に祟りなし、全てスルーさせてもらった。
「おっ?」
そんなこんなで3時間ほど歩き続けると、先程まで木、草、謎の植物ばかりの景色にアクセントが加えられた。
それは木々の隙間から差し込む、明るく、眩い――光。その光はきっと、これから歩むであろう異世界の旅路を祝福する天からの贈り物だ。
「うおぉおおお!来たぁァァァッ!!!」
ほとんど光が届かないこの森の中であそこまで光が強いということはこの森の外に近いということ!
俺は全力ダッシュで光を目指して走り、そして飛び込んだ。
「これでようやく……脱出じゃあああぁっ!」
勝利宣言をしながら飛び込んだ先で目にしたものは見渡す限りの大平原。そして奥に見えるのは明らかに知的生命体が居そうな【街】。
「…………よ、ヨッシャァアアアアアア!!!ヤッタァアアア!!」
これはゲームクリア!この物語はこれでおしまい!完結!!
『いやいや何終わったみたいな感じ出してんの。むしろここからだからね?』
「はぁぁ……分かってますって……魔物の大量発生の原因を解決して、種族の仲を取り持って、環境を修復すりゃあいいんでしょ!?」
自分で言っててさすがに無理があると思えてきたぞ?高校生1人に課していいモノじゃない。
とりあえず仲間がいるな、今は3人だからあともう2人くらい、
「ていっ!」
「うぉわぁ!?な、何すん、」
この先を見据え、どのように旅を進めていくか思案している最中、突然シズクが俺の背中に突撃してきた。
驚いた俺は咄嗟に振り返り、不当な暴力に文句を言おうとしたが、喉元まで出かかった言葉は飲み込まれることとなった。
なぜなら、シズクの様子がおかしかったからだ。
顔がないからはっきりとは分からないが、なんとなく寂しそうな雰囲気をまとっているように思えた。
「……スグルに言っておきたいことがあるんだ」
「お、おぅ」
数秒の間を空けて、ゆっくりと感情を乗せて話し始めたシズク。
「……人間の街に行くなら魔物の僕が行くと多分迷惑になるから……ここでお別れだね。……少しの間だったけど君と一緒に居れて楽しかったよ!僕はこの森に残るけど、もしまた会えたら話しかけてね!……じゃあまたね!」
そう言い残し、俺にシズクと名付けられた1匹の魔物はゆっくりと地面に体を這わせながら森に帰っていく。
『初めての友人?友スライム?との別れは寂しいものだね』
「――別れ?お前何言ってんだ?」
俺は森へ向かうシズクに全力ダッシュで追いつき、丸っこい体を勢いよく拾い上げた。
「ぇっ、えっ!?なになに!?」
「お前バカか?お前は貴重な水分補給に使える友達だ。簡単に手放すかよ。街にも何とか誤魔化しつつ連れていくからな!」
「ち、ちょっと待って!?いま良い感じに別れたじゃん!良い雰囲気だったじゃん!?僕良いこと言ったなぁって思ってたのに!無理無理!ここで別れないと恥ずか死する!!」
シズクが俺の腕の中で逃げようと必死で暴れ狂っているが、人間の力にスライム風情が勝てると思うなよ!
「うるせぇ!そもそも俺一人じゃ絶対に目標は達成できねぇんだ!俺は弱いから色んな人達の助けがいるんだ!魔物だろうとお前の力も存分に借りる!旅は道連れ世は情けってなぁ!!」
『ふふっ、見事に巻き込んだね。なんだか面白そうな流れになってきたじゃないか』
「行くぞ!俺たちによる伝説の幕開けだァ!ハァーハッハッハァッー!!」
「離してェェェェッ!!!!」
俺は恥ずかしさのあまり叫び散らすシズクを抱え、軽快な足取りで街に向かって走り始めたのであった。
今この瞬間1人と1匹と1柱の冒険が始まるのであった。傑たちの旅の結末とは……今後の傑たちの冒険をお楽しみください
次回へ続く




