第三話『逃走』
「いやぁあああああああああ!!!!!」
助けてくれ!いや、助けてください!!
俺は今、虫嫌いがゴキブリを見つけたが如く悲鳴を上げながら森の中を駆け回っている。
その理由は、後ろからストーカーみたいに追いかけてくるあの狼モドキだ。
「あ〜もう!さっきから撒いたと思ったのに、すぐ追いつかれるのはどうなってんだ!」
『君の世界の狼と同じで嗅覚が優れてるから追跡はお手のもんだろうね』
あ〜、そりゃそうですよねぇー。だって見るからに狼だもん、鼻が良いに決まってるもんなクソがっ!
「このまま逃げてもスタミナ切れで追いつかれて仲良く貪られちゃうよ!君を囮にして何とか僕だけでも逃げる方法考えよう!」
「おいこのクソスライム!おめぇのことアイツに投げてもやってもいいんだぞ!」
スライムくんと喧嘩している間にも俺と狼モドキの距離が徐々に縮まっていく。
距離が縮まるのに比例して生命の危機が高まっていくのを感じた俺の思考は少しずつ正常さを失っていく。
「ちっ!狼モドキって言いづれぇ!あいつの正式名称なんだよ!?」
「今気にすることじゃないでしょ!一応言っとくけどあいつの名称は【ウルフ】だよ!他の魔物よりも身体能力が高いのが特徴!」
「一応説明はしてくれるんだな!?ありがとう!」
狼系のやつはどこ行ってもウルフと呼ばれる性質でもあんのかね?万国共通……世界が違っても通ずるものがあるってことか。……いや、むしろ俺に伝わりやすいように能力が翻訳してくれてるって解釈の方が妥当だな。
「やっぱり翻訳は便利だなぁ!イフ解説よろしく!」
『しょうがないなぁ。このイフ先生が馬鹿な君でもわかりやすいように説明してあげるよ』
【ウルフの解説】
・種族名:闘狼
・滑らかな毛並みと鋭い牙を四足歩行の魔物
・ウルフは体内に保有する魔力を自らの身体能力を強化するために使っているので、俊敏で一撃が重いのが特徴。
・魔力を含んだ物を優先的に襲う性質がある。
・ウルフが進化すると二足歩行の【獣人】という知性体になるという報告もされている。
『ちなみに他の獣型の魔物が進化した際も似たような二足歩行の姿になるから二足歩行してる獣は全部一纏めで獣人族って呼称されてるよ。獣人だけの国とかもあるけどそんなことを話してる余裕は無さそうだね?』
「分かってんなら何か対処法考えてくれ!もうすぐ後ろまで迫ってきてんだよ!」
「――コロスッ!マリョク、クワセロッ!!」
おぉっ!?聞き覚えのねぇ重低音ボイス!これはきっと後ろの野蛮な獣の声!めっちゃ怖ぇ!
丁寧な解説の裏で俺は生命の危機に瀕していた。
息を荒げて俺を狙い続ける狩人が「コロス」と口にしながら、後ろにべったり付いて来るとか俺の恐怖体験二位に君臨するわ。一位は不動のトラックだが。
『そりゃあ君が「イフ様助けてください」って祈れば助けてあげるよ』
このクソ女神がァ!こんな時に悦に浸ろうとしてんじゃねぇよ!こうなったら意地でも言ってやんねぇからな!!
「まずいよっ!もう追いつかれる!君の魔法で何とかできないの!?」
「無理!ありゃ見るから近接戦闘に強いタイプだ!ここまで近寄られたら俺が魔法を使う前に噛みつかれて死亡がオチだろ!もっと距離を離すしかない!」
スライムくんが言う通り、この魔法で何とかするしかないが、この状況で距離を離すってのは無理がある。どうにかしてヤツの注意を一時的にでも外せれば……ハッ!
瞬間、俺の脳内コンピューターが一つの可能性を算出する。先程のイフの解説、そしてスライムくんの存在、これらの要素から導き出した、たった一つの解決策。
「……これならいけるか?……よしッ!スライムくん!お前の体の一部寄越せっ!」
「えっ?こんな時に水分補給したくなったの!?」
「そんなわけねぇだろ!勝つために必要なんだよ!早くしろ!!」
俺の語気に圧倒されたのか、スライムくんはすぐさま自身の一部を並走している俺に向かって投げる。投げられた部位を危なげなく空中で掴み、背後にいるウルフとの距離に気をつけながら作戦を実行する。
『それで何する気だい?』
「ふっふっふっ!まぁ、見てろって!」
俺は渡されたスライムくんのに自身の魔力を注ぎ込む。さっきの説明通りならばヤツは魔力を持ってるいるモノに積極的に襲いかかるとのこと。
なら、俺の魔力を大量に含んだこれはヤツにとって魅力たっぷりのご馳走に見えることだろう。
「しかも俺は今ので魔力をかなり失ったからコレを優先的に狙う……と信じたい!……考えが外れてたら死あるのみ。覚悟を決めるしかない!」
俺は足を止めて、ウルフの方へと振り返る。そして振り向いたときの遠心力を利用して、ヤツの近くにスライムくんの一部こと囮をぶん投げた。
投げられた水色の球は放物線を描き、ヤツの手前の地面に着弾すると、ヤツの視線を釘付けにした。
ヤツは砂埃を上げながら足を止め、この場の何よりも潤沢な魔力を持つその物体に見惚れ、高揚し、そして――――喰らいついた。
「よし!作戦成功じゃあ!俺たちを追い詰められるだけの知恵はあるようだが所詮獣……人間様には遠く及ばないんだよぉ!」
「うわぁ、感覚は切り離してあるけど自分が襲われてるみたいで嫌だなぁ」
『……じゃあ早くここから逃げなよ。まだアレに夢中になってるし、今がチャンスなんじゃない?』
イフの言葉が俺の耳を打つ。
イフの言う通り、確かに今はチャンスだろうな。でも、それは何も逃げるためだけのチャンスなんかじゃないんだよなぁ。
「逃げるだ〜?何を言うか!アイツにはさっきまで俺を追いかけてきた報いを受けさせてやらァ!……ただ、俺の魔力も残り少ないからスライムくんに協力してもらう!」
「……へ?」
俺は念の為その場から少し離れると残された魔力を再びもらったスライムくんの一部に注ぎ込んだ。
今度は囮なんかではなく、殺傷能力を極限まで高めた必殺の一撃だ。
「俺は思ったんだ……物体を一から思い浮かべて生成するより、近くにある物を利用する方が魔力の消費も少ないし、楽なのではないか。……ということで今回使用するのは水の魔法だ!」
水と聞いて侮るなかれ高圧で高密度の水を超高速で噴射すると人体なんて簡単にスパスパ出来る。大質量の水は建物群を一瞬で粉微塵にするほどの威力を出せる。水は偉大なのである。
そんなことを考えていたら、どうやら囮を堪能し終えたウルフが再び俺たちに狙いを定めたようで、とてつもない速さでこちらに向かってくる。
ヤツは自慢の足で地を蹴り、飛び跳ね、その鋭く尖った牙が俺の首に喰らいつく寸前――準備が整った。
「もう既に俺が勝つイメージは出来てんだよノロマ!」
手に収められた水を圧縮し、イメージと共に一気に解き放つ!
――取得魔法命名、【水切】
「水魔法!アクアカッター!!!!」
圧縮した水を剣に見立て、横に薙ぐと目の前まで迫ったヤツを周りの木ごと一刀両断した。
ヤツの身体が綺麗に上下で半分こにされ、血が大量に溢れ出し、断面から臓物が飛び出していた。
「パーフェクトっ!やはり水は最強!俺TUEEEE!!!って、グロっ……おぇっ」
俺の手によって起こった、目の前の惨劇を吐き気が込み上げてくる。
昔から、グロイのは苦手なんだよなぁ……日本人はこういうものに慣れてないから耐性がついてないんたわ。
『よく頑張ったね。まぁ、とはいえコイツは魔物の中では弱い個体だけどね』
現実を見せてくんな!あと今回は不意を突かれただけだから!普通に戦うか策を講じればある程度こっちが有利だと思います!
「……にしても逃げ回ったせいでよく分かんないとこ来ちゃったな」
辺りを見渡すとさっきほどまで見えていた黒い木とは違い、日本とかでもよく見るような茶色の木が生えていた。
『魔力を大量に取り込んだ木は黒くなるからここら辺は魔力が薄いんだろうね』
「じゃあ外に近いってことか?ねぇねぇ、スライムくん。ここがどこら辺かってのは分かる?」
「ここら辺はよく歩き回ってるからだいたい分かるよ。この辺なら明日までには森から出られるかな」
「それなら安心だな。……まぁ、とりあえず今はまた襲われないことを祈るぜ。もう魔力ねぇからな」
『魔力がないってことは〜?』
「え?……ん〜?……あっ」
イフに指摘された途端、体から力が抜けてバタンッ!と地面に叩きつけられた。
後頭部に硬めの石がなかったことが不幸中の幸いといえるが、これは非常に不味いことになりましたねぇ。
「……大丈夫?」
『魔力切れのこと完全に忘れてたでしょ。しばらくは休憩しないとね』
く、クソッタレぇ!!なんで最終的にこうなるんだァ!!!
「だ、誰か助けてぇええ!!!!!」
傑はろくに動かない身体をジタバタさせながらこの死が付きまとう森の中で助けを求めるのだった。無事に危機を逃れた傑は森から生きて出ることができるのだろうか。傑たちの珍道中をお楽しみください
次回へ続く




