第三十九話『最悪』
前回の鳥同様、この狼もイフの管轄外の生物だ。よって弱点や特徴を知ることは出来ない。戦いの中で分析していくしかない。
まずは軽く魔法を撃って様子見をしないことには何も始まらない。
「水魔法【水弾】!」
自分の指先に水の弾丸を作り出し、ヤツに向かって発射する。ただ、こんな軌道がバレバレの攻撃なんて簡単に避けられてしまうだろう。
だからここでするべき行動は回避後のヤツの行動を警戒すること。
……そう思っていたのだが、ヤツは何故か動かない。
遅すぎて簡単に避けられる、もしくはこの程度の攻撃など避けるまでもないと言いたいのか。
真偽は不明であるが、それもすぐに分かることだ。
放たれた弾が今まさにヤツの毛で覆われた身体を貫かんとしたその瞬間……
弾の軌道がねじ曲がった。
「はっ?」
目の前で起きた不可思議な事象に一瞬思考が停止する。ヤツはその隙を待っていたと言わんばかりにコチラに急接近し、首を狙って飛び掛ってくる。
「不味っ!?」
「させないよっ!」
間一髪のところで騎士の姿になったシズクが跳躍したヤツの身体を自慢の盾で受け止め、力を入れて吹っ飛ばす。
「……あっぶねぇ……サンキューシズク。」
「急に止まったからビックリしたよ、咄嗟に反応できたから良かったけど……最悪死んでたからね?」
それはそうなんだが、あれで思考停止しない方が無理よ。どういう理屈で弾がねじ曲がった?俺だけで考えても分からんな。
「イフ、なんか分かるか?」
『いま分析してる。……ただ、これだけだと情報が少ないからもっと魔法撃って欲しい。』
「了解。シズク、防御は頼んだぞ。」
「分かった!」
分析はイフに任せて、俺たちは情報を引き出すことに力を注ぐ。幸いなことにヤツは牙はシズクの防御を貫けなかった。他にも技を隠し持っている可能性があるが、とりあえずは安心。
「さっきとは手法を変えて。火魔法【炎……って!なんだそれっ!?」
魔力で弓を象り、炎の矢を放つまでの間にヤツの周囲には黒色の球体が幾つも浮かべられていた。そしてヤツはその球体をこちらに向けて放ってくる。
「任せてっ!……あっ、ごめん!何発か抜けた!」
シズクが前に出て何発か盾で防ぐが、横をすり抜けた球が俺に追尾してくる。
「追尾式かよっ!ふざけやがって!水魔法【水切】!」
俺に迫り来る黒球を水の刃で両断し、空中で爆発させる。
「お返しだ!火魔法【炎連】!」
目の前にいるシズクに当たらないよう合間を縫って、炎の球をヤツに向けて連射する。だが……
先程と同様に球があらぬ方向へと飛んでいき、周囲の建物へとぶつかる。木造建築じゃなくて良かった。
「……やっぱりダメか、なら偶然逸れたって可能性は消せるな。」
……属性は関係ないのか。見えないだけで薄いバリアを張っているとか?……いや、それだと方向が変わるなんてことにはならないはずだ。
……さっばり分からない。と困惑していると
『……なるほど。そういうことか。』
頭の中にイフの声が響く。
「全てを理解したような口ぶりだな。それで、何が分かった?」
『ヤツの周辺の魔力の流れがおかしなことになっている。ヤツの周囲1mの内に魔力が篭ったものが近づくと魔力の向きを狂わされるって感じかな。』
なるほど、だから俺の攻撃が変な方向に逸れて行ったわけか。多分あの遠距離攻撃が追尾式だったのもそういうことだろう。
自分の攻撃ですら方向をねじ曲げてしまうとは恐ろしい。やっぱりあの鳥同様、コイツも初見殺しみたいな性能してんな。
まぁでも、ネタが割れれば怖いことなんて何もない。要するに方向を狂わされても当たるようにすればいいんだろ?
『なんか思いついたような顔してるね。いけそう?』
「まぁな。よし、絶対に俺を守るなよ!シズク!」
「えっ?……分かった!」
シズクに指示を飛ばした後、数歩前に踏み出す。
そして俺は目の前に手を差し出し、ヤツがそこに噛み付くように誘導する。狙い通りヤツは俺の手目掛けて再び飛び掛ってくる。
怖がるな。ギリギリまで引きつけろ。……まだだ……まだ……今!
限界まで引き付け、その牙が俺に突き刺さる寸前で操魔のグローブに魔力を込め、ヤツの身体を空中に固定する。
そしてヤツの口の中に手を突っ込み、手のひらに魔力とイメージを送り込む。
━━取得魔法命名、【三海槍】
『外がダメなら内から叩く……君にしては良い考えじゃないか』
「そういうことだ!貫け!水魔法!トライデントッ!」
手から三又の槍を創り出し、ヤツの身体を内側から穿つ。血がぽたぽたと滴り、ヤツの動きが次第に大人しくなり始める。
槍を引き抜くと、ヤツは呻き声を上げながら地面に伏せ、ゆっくりと息絶えた。
「……ふぅ……今回は俺たちだけで倒せたな。」
一息つき、周囲を見渡す。そして俺はヤツが来た方向へと歩きだす。
『……どうしたの?』
興味本位だった。ヤツがどういうルートでやってきたのか、門番の様子など色々なことが気になった。
もしかしたら襲われた人が生きている可能性があるのではないかとも思っていた。
だから俺は決してこの行動は間違いだったとは思わない。
「……………………レイド?」
少し歩いた先で、俺が見たもの……いや、見てしまったものは……孤児院に居たあの生意気な少年の亡骸であった。
レイドの死。このあまりに悲しい事件は傑にとって心に深く深く刻み込まれることとなるだろう。
次回へ続く




