第三十八話『突然』
はいはい、皆さんこんにちわ。無事に控え室に戻って魔力を回復した後、対戦相手に飯を奢る羽目になった傑くんだよ。
とりあえずギルドの中にある酒場で適当な飯でも食べさせれば良いだろうと高を括っていたのだが、ミリスの食う量がおかしい。テーブルの上には既に幾つもの皿が積み上げられている。
「あの……めっちゃ失礼なこと言うんですけど……いい食べっぷりですね。」
「あっ、はい。……んぐっ……よく言われます。よく動くんでその分エネルギー蓄えてないといけないんですよ。」
その華奢な体のどこにエネルギーが蓄えられているというのか。人体ってやっぱり不思議だな。
ちなみに試合じゃない時はもちろん防具を外しているのでミリスさんも素顔を晒している訳だが、感想を言わせてもらうとめちゃくちゃ美人。1本に束ねられた白髪のポニーテールに凛々しい顔立ち。それに何故か試合後で汗もかいているはずなのにフローラルな匂いが漂ってくる。
「ミリスさんってどこ出身の方なんですか?」
「王都です。やっぱり鍛錬を続けている内に自身の力を確かめたくなったので、この街に来たんですよ。……スグルさんは?」
「あっ、え〜っと……おーい。イフ、俺の仮の出身地どこだっけ?」
小声でイフに問いかける。俺の出身地は日本のとある市だが、ここには無いのでライセンスを作る時に仮で設定した出身地があったはず。
『エスナ村だよ。めちゃくちゃ辺境にあるド田舎の村。』
そう言えばそんな感じの場所だったな。こういう話、あんまりしないから忘れてたぜ。
「俺の出身地はエスナ村ですね。まぁ、結構遠くにある田舎の村ですよ。ちなみに闘技場に参加した理由はですね……ちょっとややこしくなるんですけどいいですか?」
「ややこしくなるなら遠慮しときます。」
「あっ、はい。」
塩対応だなぁ……でも確かに初対面の人の複雑な話とか聞きたくないもんな。嫌なら嫌と言えるそのメンタルを尊敬したい。
「そう言えば王都って何があるんですか?僕まだ行ったことないんですよ。」
「王都は何でもありますよ。娯楽施設に温泉、大教会。ギルドの本部。あとは物流も盛んですから商売も賑わってますしね。」
へぇ……いいね。さすが人間の主要都市。他の町と比べて明らかに抜きん出てるな。
「ミリスさんはそこで冒険者を?」
「え?……あっ、私は冒険者じゃありませんよ。私は王都に配属されてる騎士です。冒険するほど好奇心豊かではないので。」
あらら、てっきり冒険者だと思ってたのに。ちょっと誤算だなぁ。都合が良さそうならミリスさんを仲間に引き込もうと思ってたけど、冒険者じゃないならそもそも無理だな。
「……それではお腹も満たしたので、私はこれで。もし、縁があってまた会うことがあれば奢ってくださいね。」
「いや、もう奢るのは無理っす!金ないっす!」
「ふふっ、冗談ですよ。……それではまた。」
ミリスは少し微笑みながら俺を一瞥すると、酒場から出ていった。残されたのは積み上げられた皿と何円か考えたくないほどの支払額。
「……敗者は勝者から搾取されていくんだなぁ……」
「よく分かんないこと言ってないで早くお会計しようよ。」
バッグの中に詰め込んだシズクに促されるまま、俺はとぼとぼと会計のカウンターまで歩いていく。
……あぁ……俺のかねぇ……
◆◇◆◇◆◇
「ハンスさん!報酬ください!」
先程までの落ち込みようはなんだったのだと疑いたくなるほどに屈託のない笑みを見せつけながら俺はハンスに報酬を渡すように要求する。
「お前……負けたっていうのによくそんな顔ができんなぁ。まぁ、お前が負けたおかげで俺も稼げたし、こんくらいの金ならくれてやるよ。」
ハンスはそう言って俺に硬貨が入った袋を手渡す。中を見ると金色に輝く硬貨が10枚。その輝きを見るだけでニヤケが抑えきれなくなる。
《硬貨1枚当たりの価値は上から金、銀、銅、鉄となっており、金が1000G、銀が100G、銅が10G、鉄が1Gの価値を表す。》
「ピッタリすねぇ。……って、俺が負けたから儲けたってのはどういうことですか?」
「あぁ、お前と戦った剣士いたろ?アイツとお前の力量差的に100%負けると思ってたから、アイツの勝ちに今月の給料を全賭けしたら2倍になって返ってきたぜぇ。」
あ〜、やっぱり賭け事行われてたんだな。最後に闘技場で聞こえてきたあの声は俺の父親がギャンブルで負けて帰ってきた時の悲鳴に似てたからな。
「ってか俺が負けるって確信されたのなんか不服なんですけど。俺が勝つ可能性とか考えなかったんですか?」
「お前が?無理に決まってんだろ。現実見ろよ。どう考えてもあっちの方が対人戦に慣れてた。お前がいくら策を弄したところであの場での勝率は限りなく0だったろうな。まぁ、森の中とかフィールドを変えれば勝ち筋はあるがなァ。」
場所が変わると戦術も大きく変わるだろうしなぁ。
「まっ、暫くは依頼こなしつつのんびりすりゃいいんじゃねぇのか?そんだけ金あるなら暫くは休めるだろうしな。」
「まぁ、そうっすね。多少休みつつ頑張ろうと思いまーす。」
◆◇◆◇◆◇
ハンスの助言に従い、多少の休みを取りながら、ダンジョンに行って依頼をこなしたり、
「うわぁぁ!!ゴブリンに囲まれたァ!シズク助けてぇ!」
「もう!何やってるのさ!」
孤児院に行って子供たちと戯れたり、
「なぁ!スグル!俺、魔法使えるようになったぜ!ほらっ、見ろよ!」
そう言ったレイドの手のひらにはバスケットボールサイズの魔力の球が浮き上がっていた。
「スグルさん!私たちの魔法も見てください!」
「ぼ、僕も!」
「……一応、私も。」
ウルたちが俺の周りに群がり、各々自身の得意な魔法を見せてくる。
「……おっふ、ガキに……ガキに追い抜かされそう……」
俺が初めて使えた頃はそんなに魔力使ったら魔力切れでぶっ倒れてたというのに……コイツらにはその気配がねぇ!悔しい!
まぁ、そんな感じで日々を送っていたらいつの間にか2週間ほど経過していたわけだ。時間の流れってのは早くて困るね。
まぁ、案外楽しいから良いけど。とはいえそろそろここでの生活も飽きてきたから、次の街を目指すとするかな。などと、この時は呑気に考えていた。
あんなことが起こるなんてこの時は想像もしてなかったんだ。
◆◇◆◇◆◇
「……う〜ん、夜中の散歩っていけないことやってる感じがしていいよな。」
時刻にして夜の21時。ある程度明かりも消え、月が辺りを照らし始めた頃。俺はなかなか寝付けなかったので気分転換に外に出て散歩をしていた。
「……あ〜、ジメジメしてんなぁ。最近暑いから夜なら涼しいかと思ったんだがなぁ……夜でも暑いのには変わりねぇか。シズクがいないと暑すぎて死ぬところだったげ。」
暑い日にシズクは必需品だな。ひんやりしてて持ってると涼しくなれるんだよなぁ。
「ベタベタしないでよぉ……ん?ねぇ、スグル。あれ何?暗くてよく見えないんだけど。」
涙が零れ落ちないように上を向きながら歩いていると、シズクが何かを見つけたようで声を上げる。
「おっ、任せろぉ。魔眼のおかげで暗いところでもはっきりと見えるようになったからなぁ。えーっと……………あっ?」
俺の目が捉えたのは黒い狼。……ただ、普通の狼では無い。魔物のウルフともまた違う。……魔石が体に突き刺さり、顔がねじ曲がっている四足歩行の獣。
ラーパルで戦ったあの鳥と似たような生物か。今回は狼だがな。……それに、前回とは状況がまるで違う。
ここは街の中。そう、街の中だ。本来は門番が見張っているのだから魔物が入ってくることは無い。
だからこそ目の前の光景は異常としか言いようが無い。ヤツが特殊な方法で入ってきたのでなければ、答えは1つ。
『……最悪だね。』
「……そうだな。」
その答えはヤツの口元にべチャリと付着した赤黒い液体が物語っていると言えるだろう。
「……逃げても後ろから襲われて殺されるだけか……なら戦うしかねぇな。シズク、いくぞ。」
「分かった。」
未確認の魔物と再び対面した傑。前回と違って今回はシズクとの2対1だが、傑たちは無事に勝つことができるのだろうか。
次回へ続く




