第三十七話『対人戦』
「「「ワァアアアアアアアッッ!!!!!」」」
飛び込んだ先で浴びたのは万雷の歓声と無数の視線。幾百もの注目が俺に集まり、その一つ一つがプレッシャーとして俺の体に突き刺さる。
ふぅ……注目されるって辛いなぁ(遠い目)
「fooooo!!ようやく両者お出ましだァ!あまりに待ち遠しすぎて首が長くなっちまったぜ!」
と、闘技場の2階からけたたましい声が響き渡る。声の方向へと視線を向けると、拡声器のようなものを持った男がいた。
確かアイツはこの闘技場の司会者。名前は確か━━
「さぁ!今宵の試合はどのような感情を我々にもたらしてくれるのか!実況はこの俺、【シャウト・スキャンダー】がお送りするぜぇ!」
シャウト・スキャンダー……この闘技場の管理人で、実況を担当する試合の盛り上げ役。この街の人気者でもあるそうな。
……にしても派手な風貌だなぁ。こっからだと金髪も相まって、光り輝いてるように見えるわ。つーか、本人の顔がよく見えねぇくらい光ってる。
「さて!早速、今回の戦士を紹介していこう!まずは東門の戦士から!その剣技は吹き荒れる風の如く!王都流剣術の強さを示しに来たヤツの名は【疾風のミリス】!」
「「「ウォオオオオオオ!!!!!!」」」
歓声が上がる中、俺の対面に居る白銀の鎧に身を包んだ剣士は深々とお辞儀をする。恐らく礼節を大事にする系の人なのだろう。
にしても強そぉ……しかもめっちゃカッコイイ2つ名付いてるぅ〜、羨ましいぃぃ!
「そして続いては西門の戦士!出自不明!実力不明!ハンスからの推薦でやって来た謎の男!スグルゥウ!!」
「「「ウォオオオオオオ!!!!!!」」」
いやいや!謎に包まれすぎだろ!?ハードルバチクソ上がってんぞ!?
……は、ハンスめぇ!もしやロクな情報伝えてねぇなぁ!?
『良いじゃん、2つ名【正体不明】とかカッコイイんじゃない?』
いや、カッコイイけどさぁ。今は望んでねぇんだよなぁ。
だって正体不明のキャラなんてゲームとかアニメだともっぱら重要人物だぜ?俺にその役割は荷が重すぎる。
俺が胃を痛めていると、シャウトが声を上げる。
「さぁ!両者構えたまえ!俺たちの心を揺さぶるような試合を見せてくれよォ!」
その言葉に従い、お互いに剣を構え、相手を見据える。
「試合……開始ッ!!!」
合図の瞬間、ヤツは地面を踏み抜き、剣を突き出したままこちらに超速で迫ってくる。
「速っ!?」
俺は咄嗟に剣を前に出して刺突を防ぐ。しかし剣越しに衝撃が伝わり、手がビリビリと痺れる。危うく剣を落としそうになった。
……なるほど、俊敏な動きと鋭い一撃が主体の高速アタッカーかっ!……なら、俺が勝つにはその厄介なスピードを潰す必要があるな。
「その自慢のスピード奪わせてもらうぜっ!水魔法【水鎖】」
刺突を防いだ際に生じた隙を突き、地面から水の鎖を数本出現させてヤツの体を絡め取る。だが……
「……ふっ!」
ヤツは俺が前に突き出している剣を蹴ることによって後ろに飛び、自身に迫る鎖を回避する。
「おぉっと!最初から激しい攻防だぁ!さすが疾風の2つ名を持つ剣士!なんて速さだ!」
ミリスの強さを見たシャウトの声にも熱が入り出す。まぁ、あんな凄い動きされたらテンション上がるよな。俺だってそうだもん。
……にしても、あんなのにどうやって勝つっていうんだよ。まぁでも、距離空いたのは好都合だな。
「水魔法【水弾】」
数十の水の弾丸を作り、ヤツに向けて射撃する。一斉には飛ばさず、一つ一つディレイをかけて避けにくいように工夫を重ねる。
「風魔法【風璧】」
しかしヤツは俺の工夫を嘲笑うかのように、自身の前方に風の障壁を発生させ、弾の軌道を逸らす。
「風使いかよ。……ってことはそのスピードの正体も風だな?」
俺が闘技場に来る前にやった風を使った加速。あれをより戦闘用に最適化しているのだろう。でないとあのスピードを自力で出してる化け物になってしまう。
俺がそう推理した次の瞬間、再びヤツが爆発的な加速をし、一気に距離を詰められる。今度は刺突ではなく、純粋に斬りかかりに来たな。
俺は適切な間合いを維持しながら必死に攻撃を躱し、受け止める。相手のリーチを把握すれば攻撃を対処しやすい。っていうハンスの教えが効いてるな。
「……素晴らしい観察眼ですね。」
おっ、初めて声出したな。ってかこの声女性か?めっちゃ透き通った声だな。こりゃ、清楚系だな。などとどうでもいい考えが頭によぎったせいで次のヤツの攻撃への対応が遅れてしまう。
「せいっ!」
ヤツの剣が俺の脇腹を捉える。幸い骨が折れることは無かったが、その代わりとてつもない痛みが走る。
「ドゥワァッ!」
痛い痛い痛い痛いっ!!!クソッ!もう降参したい!負けましたァって言いたい!でも、この場でそんなみっともない真似は出来ない!
「あ〜、もうコレ慰謝料貰うからなぁ!風魔法【風球】!」
「なっ!?」
俺は自爆覚悟で至近距離に風の球を生み出して爆発させる。突如発生した爆風によって互いに吹き飛ばされ、地面を転がる。
「……うぅっ……キッツゥ……」
脇腹に手を当て、痛みを抑えながら立ち上がる。相当な手傷を負ったが、再び距離をとる事に成功した。ならちょっと試してみるか。まぁ、成功するかは微妙だが。
「……ふぅ……自爆するとは、なかなかに……んッ?」
創造するのは水と風。組み合わせて氷。ダメージを与えるのが目的ではない。機動力を奪う、もしくは使いにくい環境にしてやればいい。
「俺の新魔法味わってけよ。風魔法+水魔法合わせて氷魔法【氷河大地】!」
俺は生み出した氷の魔力を地面に叩きつける。すると━━
「……なるほど。そう来ましたか。」
俺の周囲およそ5mが氷へと張り替えられる。原理的には非常にシンプルだ。地面の表面だけを氷に置き換えただけだからな。そしてこの魔法の良い所は。
「オラっ!どうした来てみろよ!この不安定な足場で自慢のスピード活かしてみろよ!」
氷ってのは摩擦が少ないからな。さっきみたいに加速して突っ込んできたら、滑べるだろうし、斬り合いがしづらいだろう。
「考えましたね。……ただ、それだと私は待っているだけで勝てそうですが?」
「一瞬でデメリットを見破ってくんな!あとせっかく作ったんだからもっと驚けよ!」
そう、この魔法は常に展開している都合上魔力が持続的に削られていくのだ。いくら最近増えてきた俺の魔力でも5分も維持できない。ならばどうするか。
「じゃあ俺の魔力が尽きるまで遊ぼうぜ。逃げ切ったらお前の勝ち、捕まえたら俺の勝ちだ。」
俺の魔力をオールインして一撃当てるしかねぇだろうがよォ!
「ふふっ……面白いですね。では……いざっ。」
「尋常に!」
「「勝 負!!」」
◆◇◆◇◆◇
「いや、無理だって……当てられるかよ……あんな、のっ……降参……だっ……ぐへっ……」
結局俺は1発しか当てることが出来ず、魔力切れでぶっ倒れるのであった。くっそぉ……悔しいぃ……勝ちたかったぁ……
「ふぅ……。」
「おぉっと!決着が着きました!勝者ミリスぅぅうう!!!」
「「「ワアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」
シャウトがこの試合の終わりを告げると、会場が歓声で満ちる。いや、なんか絶望の叫びも聞こえるな。まるでギャンブルに負けたヤツみたいな声だ。
「対戦ありがとうございました……では。」
「あのぉ……ミリスさぁ〜ん!」
闘技場から去ろうとするミリスを呼び止める。
「なんですか?」
「ちょっと控え室まで運んでくれませんか?さすがにこのままでずっと倒れてるのもあれなんで。」
「敗者なのに図々しいですね。……分かりました。ご飯奢ってくれるならいいですよ。」
「了解しましたー!」
そうしてミリスに肩を貸してもらい、俺たちは闘技場を後にするのであった。
初の対人戦で見事に敗北した傑。いつの日か彼女を超えられる日が来るのだろうか。
次回へ続く




