第三十二話『特訓』
「なんだお前呆けた面しやがってよぉ。この俺様の威光に目でも眩んだのかぁ?」
……ハッ!危ない危ない。あまりの衝撃に意識が飛んでたぜ。まさかツインテール新人イビリがギルマスとは思わなんだ。
「なんか色々と衝撃的で。」
「どういう意味だ?……まぁいい、俺様が準備してる間、その辺でガタガタ震えて待ってるんだなぁ!」
そう言い残すとハンスはギルドの奥の方へと引っ込んでいった。……いや、やっぱりどう見てもギルマスには見えねぇな。ギルマスを名乗ってる不審者の方がまだ納得できるぜ。
「すっごい変な人出てきたけど。アレの特訓受けて大丈夫なの?」
「逆にああいう個性的なヤツの方が色んな技能持ってそうだし。それにギルマスと仲良くなるのは得しかないからな。やるっきゃないだろ。」
法外な料金でもなかったしな。5000円でギルマスから稽古つけてもらえるなら多分安いほうだろ。
「あのぁ、少しよろしいでしょうか?」
「は、はいっ…な、なんでしょうか?」
後ろから声をかけられたので振り返るとそこには、ギルド職員の制服を身にまとった焦げ茶のミディアムヘアーを携えた女の子が建っていた。
「あっ、自己紹介忘れてましたね。私ここの受付嬢をしてる【マキア】って言います!」
おっ、初めて表情が豊かな受付嬢を見たぞ。ダラトナもラーパルも受付嬢は皆、無表情だったからなぁ。
「あっ、ご丁寧にどうも。僕は傑って言います。それで僕に何か用ですか?」
「さっきハンスさんに声かけられてじゃないですか。それで誤解して欲しくないなぁって思って。」
「誤解?」
「ハンスさんは確かに見た目や言動は悪者っぽいですけど、とっても優しい方なんです!それにとっても強い方です!」
ほへぇ〜。なるほど、あの形で案外周りから慕われてる感じか。あ〜、良いキャラしてんねぇ。
「おいマキアよぉ?お前持ち場から離れるとは良い度胸だなァ。」
マキアさんと話しているといつの間にか後ろにハンスが気付かぬうちに忍び寄っていた。
「い、いやぁ……えへへっ。」
「罰として仕事終わったら俺の部屋来いよォ。ケッケッケッ。」
「えぇっ!?ま、まさか……」
えっ?まさかそんなことしちゃうんですか!?それはちょっとギルドマスターの権力を行使しすぎというかっ!ちょっと羨ま
「溜まりに溜まってる書類の処理をお前に押し付けてやらァ!」
「いやぁああああああ!!!勘弁してください!今日お家に帰れないの確定するじゃないですか!」
「仕事やってねぇお前が悪ぃんだよぉ!諦めて絶望しながら持ち場に戻るんだなぁ!」
ハンスがそう言い放つと、マキアさんはとぼとぼと受付の方へと戻って行った。これから立ちはだかるであろうハイパーブラック労働へと立ち向かうマキアさんにお経でも唱えようかな。
「おい新人!ボーッと突っ立ってないで、さっさとついて来い!ギルドマスターである俺様がお前のためにわざわざ時間割いてやってんだ。手間取らせんじゃねぇぞ。」
「あっ、はーい。」
そうしてハンスの後ろをついて行くと、ギルドの裏手へと着いた。そこそこ広いので身体を動かすには十分といった感じだろうか。
「じゃ、早速始めるぜぇ。言っとくが俺も忙しくて時間がねぇんだ。軽い稽古とアドバイスを送ってやるから、その貧弱な脳と体に叩き込めよぉ。」
「了解しましたー」
「……というかお前テイマーか。なかなかに珍しいじゃねぇか。」
ハンスはそう言うと俺に抱えられているシズクをまじまじと眺める。どうっすか?ウチのシズク。なかなかいいでしょ。
「はい、俺の自慢の冷蔵庫です。」
「冷蔵庫扱いはさすがに不服なんだけど。」
今返事出来ないから黙ってなさい。
「冷蔵庫?……まぁいい。今気にすることじゃねぇな。その貧相な体見りゃ分かるが、お前魔法を主体にした戦い方してるだろ。」
「そうですね。やっぱり遠距離からペチペチ叩くの楽しいんで、それに魔法を極めたいんですよ!」
「1つの技能を特化させるのも大事だが、そのままだとお前いつか死んじまうぜ?」
「マジっすか!?」
「あぁ、俺は魔法使いが近距離戦に持ち込まれて殺されたのを何度も見てきた。おっと、お前は今、仲間が守ってくれるから問題ない。そう思ったろ?」
こいつエスパーか?シズクいれば盾になるし、ヘイト買ってくれるから俺は安全だと思ってたが。
「仲間がいない状況なんてこの先いくらでもある。しかも基本的に魔物は群れで動く。いくら広範囲の魔法で何体か薙ぎ払ったところで、1匹でもお前の懐に潜り込んだら為す術なくお前は骨になるんだぜぇ?」
めっちゃ怖いこと言ってくるこの人ぉ!でもアドバイス的確!
「じゃあ対策としては、剣の扱いを上手くするとかそんな感じですか?」
「剣はそんな1日2日で身につくようなもんじゃねぇ、それよりもお前の場合は距離感を学んだ方が有効そうだ。」
「距離感というと?」
「具体的に言えば自分のリーチがどれだけあるか。これを頭に叩き込め。」
そう言うとハンスは自身の体の前に来るように腕を突き出す。
「お前剣持ってこんな感じに腕伸ばせ。」
「あっ、はい。こうですか?」
見よう見まねで剣を持った手を胸の位置辺りまで持ち上げて正面に突き出す。すると俺の突き出した剣が当たるギリギリのところまでハンスが近づいてくる。
「そうだ。そしてこれがお前の攻撃が届く範囲だ。これ以上は前に出ないと当たらない。このリーチをしっかり覚えとけ。」
「は、はい!」
「リーチを覚えてれば相手の間合いも図りやすくなる。自分が有利になるリーチを常に研究し続けろ。それが生存率をあげる鍵になる。」
「分かりました!」
「よし、じゃあそれを踏まえて俺に斬りかかって来い。追加で気になった点は躱しながら伝える。」
「えっ!?いいんですか?」
「魔力で体に薄い鎧を作ればお前の剣が俺様に当たっても大して痛くねぇしな。ただし魔力は込めるなよ。さすがにそれは俺でも痛ぇからな。」
魔力で鎧作るとかできるんだ。奥が深いな。……よし、じゃあ本気で斬りかかっても問題無さそうだし、胸を借りるつもりでやるか。
「了解しました!じゃあ行きます!」
そうして俺は約数十分もの間、ハンスに斬りかかり続けたのであった。
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「一、二回かすったくらいか。まぁ、こんなとこだな。これ以上は時間がもったいねぇ。」
「はぁはぁ……キッツゥ……はぁはぁ……あっ、ハンスさん……これ、貢物ですっ。」
俺は小袋から500Gを取り出すと、ハンスの前に差し出した。だが、ハンスは硬貨を持っている手を押し退けた。
「いや、やっぱり金はいい。それよりお前、無償で依頼受けてくんねぇか?」
「えっ、嫌っす。」
「なら稽古料5倍増しで貰おうか。」
「ありがたく依頼を受けさせて貰います!」
突然ハンスからの依頼を受けることとなった傑。果たしてハンスの依頼とは?それはまた次のお話で分かることだろう。
次回へ続く




